第24話 4ー1
「じゃあ、帰りに会った人のお父さんが、今回の事件の首謀者ってことですか?」
「首謀者、とは違うかもしれない。だけど蟲毒を行っているのはその人だ」
『ろくに接していない娘にまでこびりつく陰の気を纏ってる奴なんて、禁術に手を染めてる奴だけだ。まあ?もっと悪い考え方もできるがな』
「それは考えなくていいよ、ゴン」
俺たちは今、市役所の前で祐介を待っている。その間に今回の騒動をどうすればいいか話していたのだが、行き着くのは先程の天海の発言とゴンが感じた霊気の乱れ。
事実、市役所という場所で行われている儀式に接している俺たちや、日常的に訪れている星斗に霊気の乱れがないのであれば、乱れているのは実行者。
そして血縁というのは、お互いの霊気を引き合う。風邪のように伝染し合う。遺伝と少し似ているかもしれない。そもそも霊気は、似た者同士を繋げる力だ。
これは降霊術や式神にも関わるファクター。で、だからこそ天海の霊気が乱れていたということから怪しい人物として市役所で働く陰陽師の父親が浮上したわけだ。
ゴンが考えたもっと悪いものは、天海自身が禁術に手を出しているというもの。それは除外していいと思って切り捨てた。学生が禁術に手を出せるとも思っていないからだ。
「天海って江戸幕府を作る際に徴用された家だろう?この街に配属されてる時点で充分なエリートだろうに、何で禁術なんかに手を出したんだか。名誉を手に入れるために手を汚すって、バレたら一巻の終わりじゃないか?」
『つまり明が考えているのは?』
「精神操作。もしくは家族を人質に取られているとか。やらざるを得ない状況になったとか。本人の性格を知らないから想像でしかないが」
『フン。ひとまず娘に何か施されている様子はなかった。妻の方は知らんが、人質説は微妙だな。──もし人質なんぞ取られていたら、人質にされていることを必死に隠蔽するはずだ。杜撰だから却下』
こんな話をしていても、やることは変わらない。天海の父親を無力化して蟲毒を止めること。だが、蟲毒の方は止められないかもしれない。夜になってわかったが、霊脈が相当傷んでる。いつ暴発してもおかしくない。
夜になれば霊脈は活発化する。そうなるとここまで近付けば霊脈の主たる難波家の人間にはわかる。異常の在り方など。
「ゴン。封印と討伐。損得と俺らの実力を考えて、俺は討伐の方が良いと思うがどうだ?」
『お前の封印術は正直頼りない。それに後世に負債を残す意味もないだろう。討伐一択だ』
「了解」
それから十分ほどして祐介がやって来る。祐介は俺たちとは違って私服だった。学生服はやめたらしい。
「お、気合い入ってんな。珠希ちゃんカワイイね~。似合ってるよ」
「ありがとうございます。祐介さんは誰にでもそうやって軽口を叩くナンパさんなんですか?」
「およ、珠希ちゃんの天然毒舌は俺のガラスのハートを木っ端みじんにしたぜ……」
「そういうところだと思いますよ?女の子としては誰にでも愛を囁くより一人の女の子として接してもらえた方が嬉しいです」
いつも通りのアホなやり取りにどんどん棘を刺したミクに感心してしまった。ミクに手を出されなければいいやと放っておいたけど、不評のようだ。俺が嫌われるんじゃなければいいかと思ってたから気にもしなかった。個性だとも思ったし。
合流した祐介にやることを伝えなくては。
「市役所の中に入り込むぞ。目指すは地下の麒麟門に設置されたコアの保管場所。地下の三階でいいんだよな、ゴン」
『ああ。一回康平と忍び込んで確認した。誰にもバレずに五年に一回は様子を見に行くのが当主の務めだからいつかはやるぞ』
「そんなことしてたのか……。というか、難波家の当主なら申請出せば確認くらいできるだろ?霊脈の持ち主は市に管理を委託しているとはいえ難波のものなんだから」
『勤めてる陰陽師のレベルを知るための必要行為、だそうだ』
良い性格をしてらっしゃる。さすがは俺のご先祖様。行き着く先は安倍晴明のはずなんだけどな。
「じゃあ入るか。タマ、霊気を漏らさないように。雑魚が寄ってきて面倒だぞ」
「わかりました」
「……祐介?」
歩きだしたら祐介がついてこなかった。後ろを振り返ってみると、祐介は上空の一点を見つめていて足は動いていなかった。
「空に、誰かいる」
「はあ?」
祐介が見ている方向を見てみると、たしかにそこには人型の何かが浮かんでいた。それなりに高い位置だったので本当に小さくしか見えなかったが、その人型はこちらを監視するように、俯瞰するように浮かんでいた。
「あれ、人だよな……?」
「式神でもなければ魑魅魍魎にも見えないからな。確認するか」
携帯を出して星斗に繋ぐ。3コール以内に出るとか優秀。
「どうした?」
「桜井会は上空にも人員を配置したんですか?」
「は?いや、桜井会は方陣の外に配置したって言っただろ?中には誰もいないし、そもそも空なんて大天狗でも出なければ行く意味ないだろ?」
「じゃああれは敵か。星斗さん、あなたか腕利きを市役所前に呼んでください。市役所を上空から監視している不審者がいます。今回の事件の首謀者かもしれない」
「……本部と確認を取ってみる。それからだな」
「わかりました。こっちに一人監視で置いておきますんで、そいつに聞いてください」
携帯を仕舞って呪符で式神を呼ぼうとしたが、祐介に手で制しされてしまった。
「明、無駄な力は使うな。俺があいつを監視しておく。二人はさっさと中に行くべきだ」
「……いいのか?祐介」
「ああ。お前たちなら大丈夫だろ。というかあいつがマジで首謀者だったら俺の方がやべえし。危険はどっこいだろ」
「ちゃんとプロと協力し合えよ。一人で突っ走って無駄死にしたら許さない」
「お前は協力者がいないんだから余計大変だろ」
軽口を言い合うという儀式を終えて、お互いに右拳をぶつける。これ以上言葉はいらない。このワンサインだけで充分だ。
「タマ、いくぞ」
「はい!」
俺たちは市役所の中へ入っていく。中に入った途端歪んだ霊脈に一瞬意識を持っていかれそうになったが、それに耐えてゴンを先頭に階段を進んでいく。
目指す場所は、収束点。
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