第21話 3ー3ー2

「タマ、誕生日祝いと高校合格祝いに食器でも買いに行こうと思ってるんだけど、ショッピングモールでいいか?」

「本当ですか?じゃあお揃いが良いです。向こうに行っても使いますから」

「そうだな。俺も向こう用の奴揃えるか。……そういえばそのヘアピン、去年俺が送ったやつ?」

「はい、そうですよ。せっかく頂いた物ですから使わないと」


 去年の誕生日は会わなかったから郵送した。星や月、太陽が形どられたヘアピン。今日は星だった。

 ミクも会わない年は誕生日プレゼントを送ってくれる。初めて会ったあの年から誕生日プレゼントは送り合っていた。


「タマキ、さんももう高校決まってるの?推薦だよね?」

「はい。国立陰陽師育成大学附属高等学校です」

「タマキさんも⁉」


 だから優秀なんだって。ミクの才能は一種の先祖返りだけど、それにしたってかなりの才能だ。悪霊憑きはその性質上、陰陽術の系統がかなり狭まってしまう。憑かれている生き物に依存してしまう。

 だが、憑かれているのが狐だからか、ミクはどの術が苦手とかそういうものがない。有り余った霊気のごり押しができるというのも大きい。家が陰陽一家じゃないことで若干知識が足りないが、それは俺のような陰陽師本家のような連中と比べて。基本では全く問題ない。

 今日天海が質問してきたようなことも簡単に思いつくだろうし。


「明ぁ!金縛りかけることないだろ⁉棒立ちしてる変な人って認識になっちまったじゃねえか!」


 やっと追いついた祐介が何か言っている。こちとら祐介のせいで不名誉な認識を広められたっていうのに。


「それはこっちのセリフだバカヤロウ!幼女趣味の、式神を自分好みに変えてる真性のケモナーだと思われたんだぞ⁉何一つ該当してねえじゃねえか!」

「タマちゃん見たら幼女趣味っていうのは合ってるだろうが!瑠姫さんのこと見ても先生のこと見ても、どう見たってケモナーは覆せないだろ!」

「タマのどこが幼女だってんだよ⁉同い年って言ってんだろうが!あと俺はケモナーじゃなくてモフモフが好きなんだよ!瑠姫だったら猫状態の方がいい!銀郎もオオカミの方がいいんだよ!下手な人型よりそのままの姿の方が好きなんだ!あの肌触り、柔らかさ、髪質、若干筋肉も感じられるような動物特有の身体の肉感!それらが全体的に素晴らしいバランスを保ってるのがいいんだよ!あと、瑠姫には悪いが猫のように尻尾が細いのはいただけん!触ってモフって音が聞こえてきそうな柔らかさが至高なんだ!堅いのはダメ!俺にだって好みの感触がある!何でもいいって言うようなケモナーと一緒にすんな!」

「お、おう……」


 わかってくれたようで何より。んで、何でミク顔真っ赤なの?繋いでる手すごい熱いんだけど。

 天海も口をあんぐりさせてる。女の子がはしたないぞ。ミクのようなおしとやかさをだな……。今は皆無だ。口に出せない。


『お前たちは人の目がある所で何叫んでるんだ……』


 呆れた聞き慣れた声。その方向を見ると秋田犬がいた。


「いや、ゴン。何でそんな格好してんの?」

「え?これ先生なの?」

『ちょっと知り合いと会っていてな。それに元の姿で街中うろつくわけにもいかないだろう?』

「それもそうか」


 そのチョイスの意味がわからなかったが、まあいい。可愛いし。

 あと、知り合いについては聞かない方が良いだろう。話す気ないみたいだし。


「犬が喋ってる……?もしかして、難波君の式神?」

「そうだ」

『ああ、よく明に絡んでるクラスメイトか。……やけに陰の気が強いな。何か不幸でもあったか?』

「え?」


 そう言われた天海は不幸に該当しそうなことを考えているが、それが何か関係あるのだろうか。

 たしかに天海からは若干多い陰の気を感じる。だが、女性であれば陰の気を多く持っているものだし、それが少し増えているのは実力が上がったからだと思っていたが、どうやら違うらしい。

 女性の方が陰の気を多く持っているとはいえ、陰陽師としたらその陰と陽の気をバランスよく保つことは必須事項。バランスが崩れているのは何か理由があると考えたのだろう。

 生理でそのバランスが崩れるともいう。即答していないところを見るとその理由じゃなさそうだが。


「特には……。受験勉強で、生活リズムが少しおかしいぐらいです」

『お前、両親の仕事は?』

「母は専業主婦で、父は市に勤めてる陰陽師です」

『じゃあその父親に最近変わった様子は?』

「変わった様子?すいません。お互い昼夜逆の生活をしているので、最近顔も見ていなくて……。家には帰ってますよ」


 その答えに満足したのか、ゴンは一度喉を鳴らす。何となく答えに予想はついたが、今この場で話すことじゃない。


「根詰めすぎるなよ。無理したって意味ないんだから。無理して成績が上がるなら皆無理する。やりすぎは身体壊して余計に勉強する時間潰すからほどほどにしとけよ」

「え?あ、うん」


 ゴンの方を一睨みすると、これ以上追究するつもりはないらしい。天海がいない場所で話すのがいいだろう。何故か返事がため息だったが。


(全く……。こいつもこいつで女誑しだな。しかも天然な分余計性質悪い。エイは悪意あったが、こいつの隣を歩くのは苦労するぞ、タマ……)

「で、天海は俺たちと帰って何がしたかったんだ?」

「遊びに行くとかじゃなくて、ただ話したかっただけ。私の遥か上を行く人は、何を考えているんだろうって。あと、住吉君はどうしてそんなに堂々とサボれるのかなあとか」

「俺はサボりに誇りを持ってるからな!明は当主を継ごうとしか考えてないだろ?」

「あ?新しい術式開発したり呪具作ったり式神と契約したり、霊脈の調整やらゴンをモフったりやることたくさんだ。ただ継ぐだけじゃ、この土地はダメなんだよ」

「一部おかしいが、こいつの意識は一般人とは違うのさ。ゴールが違うって言うべきだな」


 どれも欠かすことできないだろうが。色々なことに手を出さないと、真実は埋もれてしまう。せめて難波家だけは、真実を知らなければならない。

 そこで特に力を入れるべきは占星術。過去を視なければ納得できないこともある。占星術は陰陽術の中で最高難易度の術式だ。それをいかに普遍化させるか、試せることは何でも試している。


 そういう研究の日々だと、当然癒しが欲しくなる。そこで癒しとなるのが式神の皆さんだ。モフモフしてると癒されるんだよね。アニマルセラピーってやつ。

 だから俺はモフることをやめない。相手の許可があればいくらでもやる。

 ゴンに至っては本人の許可さえ取らない。俺の式神だからな。家で信仰している神聖な狐?一千年以上生きる天狐様?モフることに、そんなこと関係ない。


「この土地がダメっていうのは?」

「我が家の秘密に関わるので黙秘。当主になるにはたくさんの苦労があるってこと」


 特にここの土地は陰陽術のメッカと言われる京都と大差ない価値がある。

 霊脈も京都の一級地と変わらず、霊気の量もぶっちゃけバカげてる。他の陰陽師が知ったら何でこんな田舎にこんな極上の霊脈があるのかというレベル。

 その理由は殺生石があったから。正確には玉藻の前の封印を行った地だから。

 選んだのはおそらく安倍晴明。京都以外の辺境で、封印を行うに適した土地を探した結果この場所が選ばれ、難波の初代はここの守護を言い渡されたわけだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る