第20話 3ー3ー1
授業も終わり、ミクを先に校門へ行かせる。校門で待っていたとすればそのまま遊びに行っても問題ない。
HRも終わってさっさと帰る。もちろん祐介に捕まったが。
「明、帰ろうぜ」
「はいよ」
「そういやあの子のこと詳しくは聞いてなかったけど、親戚ってことは近くに住んでてお前ん家に来てるってこと?」
「いや、全く近くない。電車で一時間はかかる場所に住んでるな」
「え?じゃああの子、今どうしてるわけ?」
「どうって……一緒に住んでるけど?」
「は?……はぁあああああああっ⁉」
いきなり耳元で騒ぐな。周りも驚いてこっち見てるじゃないか。
「なんだよ、うるさいな」
「何って、おま、あんな可愛い子と一緒に住んでるのかよ⁉親公認?」
「そりゃあ親戚なんだから公認に決まってるだろ。親戚ってことは分家の子ってことだからな?」
「いやでも、女の子で住ませるってそれ……」
「それにもう少ししたら京都で一緒に住むんだし」
「それは寮だろ?しかも男女は別だ」
近くに住んでいるってことに変わりはないのに。一つ屋根の下か、少しだけ離れた場所かの違いしかない。
なのにそれだけで何故騒いでいるのかさっぱりだ。
「何か問題あるのか?」
「問題って、あるだろ?男女の、なあ?」
「何があるっていうんだよ?」
「……いや、いいや。問題なさそうだ」
なら何で聞いてくるんだか。昇降口で靴を履き替えていると後ろから声をかけられた。
「難波君、住吉君。一緒に帰りませんか?」
「およ?たしか天海薫ちゃんだっけ?どういう風の吹き回し?」
「受験勉強の息抜きでもしようかと思って……。たぶん二人が一緒にいるのはそんなに多くないと思って、誘ってみたの」
「祐介が天海を知ってたの、意外だな」
この二人、同じ学年ということを除けば接点がまるでない。友達でもないだろうし、一緒に帰るような仲じゃないはず。
もちろん俺も、天海と一緒に帰ったことなんてない。
「おま、薫ちゃんはお前の次に呪術の成績良い優等生だぜ?サボり魔のお前とドベの俺からしたら関わるのも畏れ多いほどの良い子ちゃんってわけだ」
「知らなかった」
学校の成績なんてどうでも良かったので、知ろうともしなかった。やはり優等生にでもなると学年で噂されたりするのだろうか。
俺たちは悪評が広まりまくっていたが。
「そ、そんなことないよ。私、難波君には敵わないから」
「普通簡易式神でもない本物の式神、名前呼ぶだけで呼び出せないよなあ」
そういう家だから。星斗だって急々如律令の一文で召喚できるのに、特別感はない。
一番大事な式神は隠形解いてあげればすぐ傍にいるし。今はいないけど。
「俺たちの他にもう一人いるんだけど、いい?」
「え?お友達?」
このまま陰陽術の話をされても、外でミクを待たせるだけだ。変に時間を取られたくなかったから話を進めたが、他に誰かがいるのか予想していなかったのか天海に変な顔をされた。
そりゃあ、友達少ないと思われてるよな。学校でつるんでるの祐介だけだし、部活にも入ってないし、あと友達はゴンだけだし。
ミクは親戚だし。
「そいつ待たせてるんだ。早く決めてもらっていい?」
「あ、大丈夫。うん、何人でもいいよ」
「ならさっさと行こう」
同じく昇降口から溢れてくる生徒たちの流れに沿って校門に行くと、ミクが待っていた。私服でカバンを持っていたことから珍しがられ、通る人が皆ミクのことを一瞥してから通り過ぎていた。
「悪い、タマ。待たせた」
「いえ、大丈夫ですよ。明様」
「「「様っ⁉」」」
ミクの返事で一斉に注目される。これだけ視線を浴びるなら呼び方も改めさせた方が良いのか?今でも変えさせてるのに。
「おい、小学生になんてプレイを……」
「様付けだぜ、様付け!くぅ~!俺もあんな美少女に様付けで呼ばれてぇ~」
「あんな可愛い子見覚えないからやっぱり小学生だよなっ⁉」
「あの男、サボり魔の天才様だろ?」
「ああ、あんまり知らない安倍晴明の血筋……」
「表じゃ全く知らない無名の家柄だけ」
「けっ。ボンボンはあんな幼女をいいようにできるのかよ」
「あ~。俺も名前だけの名家に産まれたかったな~。楽な上に美少女いるとか、どんだけ勝ち組だよ」
すごい言われようだ。事実半分、中傷半分。
ミクは美少女だが、小学生じゃない。何で皆間違えるんだか。やっぱり身長か。背丈で決めつけるなよ。さすがに140はあるんだぞ。たぶん。
「いや~、いい僻まれっぷりだね。さすが色男」
「色男?どこが」
「え~?だってタマちゃん以外にも家に瑠姫さんいるじゃん」
「え、ウソだろ?瑠姫は式神だぞ……?」
「式神に美少女を雇ってる⁉」
「いや、自分で式神を造り上げたのかも!なんたって天才様だぞ⁉」
「そういえば難波って式神得意の家じゃ……」
「「マジか!」」
げ、もっとやばくなった。
「おい祐介!お前のせいで変な誤解産まれてるんだけど⁉」
「いや、瑠姫さん美人じゃん」
「あいつ猫の式神だからな⁉人型になってるだけで!」
「ケモナー⁉ケモナーなのかっ⁉」
「難波の家はケモナーの血筋……」
「猫の式神をわざわざ人型に変えてるなんて、真性……!」
「くそっ、収拾つかない!タマ、天海行くぞ!祐介は捨て置く!」
「俺は人身御供か⁉」
ミクの手を取って、校門を過ぎる。こんなバカ共に付き合う暇はない。ついでに指パッチンを一つ、音として残してきた。
何がケモナーだ、クソ。
俺はモフモフが好きなんだよ!動物なら何でもいいわけじゃない!そこら辺がわかってない凡人め!
あれだろ、ケモナーって動物が好きな奴とか、身体は人間だけど猫耳とか尻尾とか生やしてる奴が好きな人間だろ?生やしてるとしたら作り物のやつ。肉球ハンドとか。
そんな偽物じゃなくて、俺は本物が欲しいんだよ!感触も質感も匂いも全てを総合した本物のモフモフをだなあ!
「あいつ、他にも女子を連れてるぞ⁉」
「あれ、天海さんじゃん!正真正銘の優等生!なんちゃって天才とは違う!」
「やっぱり実力だけはあるのか⁉」
この話は長くなるとわかっているからここで切り上げる。もっと語りたいけど。教育してやりたいけど。
後ろの声は無視する。っていうか天海、知名度高いんだな。あとミクの頭とお尻の辺りに隠形。手を引いただけで耳と尻尾出さないでくれ。
「天海、家どっちの方だっけ?」
「駅の近くだよ。……住吉君いいの?」
「いい。金縛りとかやっておいたから当分来るのは遅くなると思うけど、あいつが悪い」
「やっぱり難波君はすごいなあ。急々如律令って言わなくても金縛り行使できるなんて」
「影踏みとかでできる人もいるからな。俺の場合、音の波長で身体の神経麻痺させたんだけど。一分もすれば切れる」
霊気を込めた音というのはそれだけで効果を発揮する。意図的に込めないと何も効果は産まれない。
あと、ここが難波家の本拠地というのもある。慣れ親しんだ霊脈と、当主の特権がある。当主になっていないが、次期当主ともなればある程度融通が利く。
「家の式神も、猫を人型にするなんてすごい高等技術だよ?」
「それは俺じゃないし。……瑠姫も銀郎も、今は父さんの式神だけど、その前から誰かの式神だったみたいだし。俺なんかよりも凄い人なんてごまんといる」
「そのすごい人を私は知らないから。……あ、自己紹介してなかったね。私天海薫。えっと、タマちゃん、だよね?よろしく」
そう言ってミクの顔を覗き込むようにして話しかける天海。小さい子扱いされてミクが膨れてる。いくら誕生日が遅いからって、同い年の子に年下扱いされるのはなぁ。
「……那須珠希です。あの、わたしあなたと同い年なので」
「えっ、ウソ⁉」
「ホントだよ。俺の分家の子」
そう言って俺たちの繋いだ手を見てくる。そしてミクの身長も。一学年に一人くらいいるだろう、背が小さい子なんて。
「分家の……。妹分?」
「生まれ月的にはタマの方が妹だけど。天海、お前より陰陽術の才能はタマの方が上だぞ?」
「……え?」
何で皆見た目に騙されてるだか。ミクが纏ってる霊気の量、俺以上だからな。常時隠形やってたりしたから霊気の量かなり増えてるんだよ。
だからってゴンにいつも霊気を送ってる俺よりも霊気の量が上っていうのはすさまじいけど。
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