からすのゆうつ

 今日は、久しぶりにきょりんとコラボしました。仕事をおえて、魔王はビジネスホテルで、ぐっすり眠っていました。

 カラスはイヤホンをはめて、最近手に入れたパソコンの画面から、にゅーちゅーぶちゃんねるの魔王を見ていました。


「ごちそう、もってくるにゃ! ろおるけいきと、さんまのしおやきと、かんぱちのさしみと、ぷりんと、いちごみるくと、ちょこれとぱふぇと……」


 おおいばりで命令する魔王に、カラスがおろおろと「そんな急には無理です。へい……まおう」と返答しています。

 ちいさな子どもに、大の大人が振り回される姿が、なかなかうけているようです。


 ふたりは親子という設定で世に公表していますから、あらかじめ打ち合わせをされた、仲の良いじゃれあいコントに見えているのかもしれません。

 真実は、横暴な主と下僕なのですが。リスナーにはわからないことです。


 人間たちがちやほやしてくれるのに大喜びして、魔王はにゅーちゅーぶの仕事をはりきってこなしています。


 動画の中で、いばって、たくさん食べる。そして、かわいい、すごいと、ちやほやされる。

 これは魔王にとって、天職だったようです。目を輝かせて、生き生きと働いています。


――カラスは、本当は、思っていました。

 いくらかわいらしくとも、本性のままの魔王なんて、人間界で受け入れられるわけがないだろうと。


(私は、陛下のことを見くびっていたのかもしれない)


 素のままの魔王なんて、人前に出せるはずがないとばかり考えていました。

 それがいまや、どうでしょう。ありのままの魔王をぶつけることで、人間たちを楽しませることができています。


 そういうものなのだろうか。


『えんため』のことなどわかりませんが、魔王が一応の成功を収めたことは、カラスにとっても喜びではありました。


 あとは魔王が満足して、「にんげんかいを、てにおさめたにゃ」「そろそろ、まかいにかえろうかにゃ」と言ってくれるのを待つのみです。


 単に、カラスが帰りたいだけではないのです。あんなに生き生きと活動しているのだから、もっと人間界にいさせてさしあげたいと思う気持ちもありました。

 でも魔王には、にゅーちゅーぶで長く活動することのできないわけがありました。


 いくら人気者になったとはいえ、四歳児くらいの姿のまま成長しない魔王は、いつまでも人前に出ることはできないのです。

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