こしゃくとあで
「あっ……」
「あ!!!!」
ある日、魔王と公爵家のドールとシロンとは、ライブ配信のプラットフォームとなっているとある会社の廊下で、ばったり出会いました。にゅーちゅーぶとは別の会社です。
それぞれ別の公式の番組に、ふたりとも出演する予定でした。
ドールとシロンはおもちゃをテーマにした企画に、魔王は食べ物をテーマにした企画に、ちょっとしたゲストとして呼ばれていました。
ドールとシロンの背後には、妖艶な金髪美女がおりました。露出度の高い赤いドレスをまとい、元から高い背をさらに思いっきり高く見せるようなハイヒールを履いています。
アデルです。どうも彼女は、公爵家のふたごのパトロンとなったようです。
魔王に目を留めると、アデルはうっとりと微笑みました。
「あらあ、魔王様。お久しぶりですわあ。卿も、お元気そうでなによりですわあ」
「うむ、あでもげんきそうにゃ」
魔王は、ふたごのことはにらみつけましたが、アデルとはにっこりと会話を交わしました。
いい部屋に泊めてもらって、好きなものを食べさせてもらった思い出しかありませんから。
対するカラスは、緊張した顔をしています。泊めてもらっていたマンションを、魔王を連れて勝手に逃げ出した負い目があります。
魔王に協力する代わりに「大公に推薦してほしい」などと申し出る、いかれたこのインコの野望を、恐ろしく思っているのです。
小馬鹿にするように、銀狼のドールが鼻を鳴らしました。
「アデルはもはや我が陣営のものぞ。奪い返そうとしても無駄ぞ。もはや魔王に協力することはないわ」
弟の金狼のシロンが、気を使うように付け足しました。
「魔王様、最近、がんばっててすごいですね。食べるしか芸がないのに、こんなに需要を獲得できるなんて、本当にすごいことだと思います。僕、感心してしまいました」
微妙に煽っているようですが、本人の表情はまじめです。
「ワシがおうにゃ。にんげんどもは、まいにち、ワシのことをまっているのにゃ」
ぷんすかと魔王は言い返しました。ふたごがどんなに人気でも、もはや眼中にありませんでした。人間界の王は自分だと信じている模様です。
子どもたちのようすを見て、アデルは高笑いを始めました。
「おーっほっほ。どちらもおかわいらしいですわあ。あたくし、おちいさいかたは大好きですの。うそじゃありませんわあ」
それから魔王とカラスのほうを見ると、にぃっと目を細めました。
「でも、魔王様がご自分からどこかにいってしまわれたのですもの。そこにこの公爵家のお二方が、あたくしを頼ってきてくださったのですわあ。どちらのお味方というわけではありませんのよ。上位貴族でいらっしゃる、公爵家の方々をないがしろにするわけにはいきませんでしょう?」
魔王に大公に推薦してもらう野望が阻まれたので、今度は強大な力を持つオルディアス公爵家と手を組もうと考えているようです。
「うむ。アデルは頼もしい。魔界に帰ったときにはひい爺様によく言ってやろう」
ドールが腕組みして、満足そうに言いはなちます。
「まあ、おほほほほ。うれしいですわあ」
対して、聞こえないような声で、シロンがささやきます。
「ぼ、僕は、やめておいたほうがいいと思うよ……。この人、なんだかこわいんだもの……」
カラスも同意でした。双子の弟君は、気が弱く聡明な方だと聞きますが、自分と気が合いそうなタイプではないかという感じがしています。
そのとき、廊下の向こうから男性有名人が三名ほど歩いて来て、すれ違いました。そのようすを見ながら、アデルが呟きました。
「いまのはアイドルグループ『クレセントシエル』の月風蓮と赤穂琉人では? 人間界には美しい男がいるものですわねぇ。魔界への扉がもう少し大きければ、四~五人ほどいっしょに連れて帰りますのに」
とんでもないことを言っています。
やはりこの方は苦手だとカラスは思いました。
「名残惜しいのですが、時間になりますもので失礼いたします。お会いできてうれしかったです。さ、陛下……」
にらみ合っているドールと魔王が喧嘩を始めないうちに、カラスは魔王を促して、そそくさとその場を後にしました。
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