えぴろぐ・にちじょう
「ぱんけきー! ぱんけきにゃあ!」
「は、はい、ただいま」
玉座について人間界の食べ物を所望する魔王に、カラスが給仕をします。
大広間にしつらえた、血狂象の骨でできたテーブルで、むしゃむしゃ、がつがつ。魔王はパンケーキをむさぼり食っています。
大増殖をした自分の分身たちをつれて、魔王はひさしぶりに魔界に帰ってきました。
増殖した子猫たちは、魔界でのびのびといろんなものを食い散らかしては、魔族たちに迷惑をかけているそうです。ですが、魔王様の分身であるため、みんなあまり邪険にはできずに困っているのだとか。
久しぶりに玉座にどっかりと座って、広間にひれ伏す魔族たちを眺めながら、魔王もまんざらでもない表情をしています。
これはよい機会と、カラスは魔王に「魔界の者たちが、大変喜んでおります。彼らは、毎日、魔王陛下を恋しがって泣いていたそうです」と伝えました。
魔王は、とてもうれしそうです。ちやほやされるのが大好きなのです。
「しょうがにゃいにゃ。しばらくは、まかいにいてやるにゃ」
尊大にそう言い放ちました。
ドールとシロンも魔界に帰って来ていました。
彼らも、魔王と同じ理由で、長いことメディアに露出するわけにはいきませんからね。
それに、長く魔界を留守にしたことで、曾祖父であるオルディアレス公爵が幼いひ孫たちの心配をし始め、帰ってくるように矢の催促を始めました
魔界に帰ってくるときに、ドールは人間界の金銭を、シロンは書物を、可能な限り持ちこんでいました。
「我らにとって、人間の心を掴むというのは、これほどまでにたやすいことよ。この金を基盤として、次は本格的にあの世界をわがものにしてやる」
姉狼のドールは、大貴族の魔族らしい迫力で、そういいました。
でも、弟のシロンは、
「お姉ちゃん、ああ言ってるけど、人間界が楽しくて気に入ってるだけなんだ。魔界は退屈だってよくぼやいてるもの。征服とかそこまで興味ないんだ。ちやほやされて、きれいな衣装を着て、おいしいものを食べたいんだ。魔王様と同じだよ」
と、冷静に分析をしていました。
しかし、人間界に行くのに乗り気ではなかったシロンの方も、新鮮な刺激を受けたようです。
彼は、人間界での経験をもとにしたという小説『か弱い人間ばかりの世界でお姉ちゃんと無双しようとしたらなぜか大人気あいどるにゅーちゅーばーになってしまった件について』を執筆し、これが魔界で大ベストセラーとなっていました。ちゃっかりした子狼です。
「あいどる」という言葉が、いまや魔界でちょっとしたブームになっているほど、この本は大人気なのだとか。
カラスの妹・トリュスはまだ人間界の大学に通っています。
カラスが帰ってくるように言っても、「あと、五年ほど待ってほしいの。必ず、魔界のためになる知識を持って帰るから」と聞きません。モデル活動で金銭を稼ぎながら、院まで行くつもりらしいです。
「魔界のため」と言っていますが、知的好奇心旺盛な彼女は、人間界での勉強と生活が楽しくてしょうがないのでしょう。
しかし、魔族にとっての五年や十年なんて、ほんのひととき。仕方がありません。妹が楽しんでいるのなら、しばらくは好きにさせてやりたいと、兄馬鹿気味なカラスは思いにふけりました。
そのとき、魔王が叫びました。
「カラス、カラス! ぱんけき!」
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