なにか、おかしいにゃ

 博士はうきうきで魔王の新鮮な細胞を手に入れました(といっても、口を開けて寝ている魔王のほっぺたを、内側から綿棒でこすこすしただけです) 


 いくらかの血も手に入れた彼女はとても機嫌がよくて、できるだけ魔王のにゅーちゅーぶ活動に協力してくれることを約束してくれました。

 具体的にいえば、魔王を成長させる方法を研究してみると言ってくれました。




 それから、ひと月もたったころのこと……。


「あの、博士」


 仮宿としている安ホテルから電話をかけて、カラスは博士に、薬の進捗をたずねていました。


 ですが……。


「いまいそがしい」


 プーッ


 話す前に切られました。なんだかあわてたようすです。

 どうしたことでしょう。最近、いつ電話をかけても、こんな感じです。にゃいんは既読無視をされます。

 どうも、カラスは避けられているみたいです。


 お仕事中にかけてしまったのだろうかと、今度は、日曜日の昼間にかけてみました。


「お世話になっております。カラスことフォルクハルト・ギースベルトです。先日お願いした薬の件につきまして……」


 プーッ……プーップーッ


 無言で切られてしまいました。一体どうしたことでしょう?


「りくえすとがきたのにゃ。にんげんが、ワシに、すしひゃっかんをたべてほしいというのにゃ」


 魔王はご機嫌で、今日、事務所で撮影する予定の動画の話をしています。


「でも、ひゃっかんはぺろりなのにゃ。たりないから、にひゃっかんにするのにゃ。にゃにがいいかにゃあ。さあも、まぐろ、たい、さんま、たまご、いか、たこ、うに、いくら、ほたて、ちゅとろ……。それと、ぱんけきをごじゅうまいやくのにゃ」


 魔王はしあわせものです。

 人間界のおいしいものを、おいしそうな顔をして食べていたら、人間たちに喜ばれて、かわいいかわいいとちやほやされるのです。


 こんな恵まれた機会は、もうないでしょう。

 カラスとしても、もうすこし魔王を活躍させたいと悩みます。


 じっとスマホを握りしめて考えていましたが、やはりグリム博士に何度も頼むしかないと思いました。


 そんなカラスを、魔王はふしぎそうに見ていました。


「カラスがおかしいにゃ。もともとおかしいやつにゃったが、さいきん、もっとへんにゃ」


 カラスとしても、魔王に言われたくはないでしょう。


「陛下のお仕事をさらに充実したものとするには、どうサポートをしたらよいか、悩んでいたのです」


 そう言いながら、カラスはテレビをつけました。人間界の情報収集も大事なサポートの一環です。

 最近は、たまにですが、魔王が話題になっていることもあるため、とりわけテレビをチェックすることにしています。


 ニュース番組が流れ始めました。


「本日、午前十一時ごろ、青光が森駅前のコンビニに、大量の黒い子猫のような生き物が押し寄せ、プリンやチキンをはじめとした食料が食べつくされる被害にあいました。この子猫のような生き物たちは、異常な生命力と食欲を所持しており……」

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