はかせへのおねがい

「順調みたいですね。一部界隈でとはいえ、まさかあんなのが本当にウケるなんて思いもしませんでしたが」


 この声は、お久しぶりのグリム博士です。


 魔王は、会社のにゅーちゅーぶチャンネルに呼ばれて撮影中です。きょりんとの大食い対決リベンジで、フライドポテトをたくさん食べるのだそうです。


 そこでカラスは周囲の人にしばらく魔王のことをお願いをして、ちょっとだけ席を外して、電話をかけています。

 博士に切実なお願いがあって連絡をしたのです。


 簡単なあいさつをすませたあとで、思い切って切り出しました。


「実は、博士を見こんで、どうしてもお願いしたいことがございまして……」


「だめです」


 にべなく断られました。


「あの、博士……。まだその『お願い』を申しておりませんが……」


 グリム博士は淡々と答えました。


「聞かなくてもわかります。魔王は順調ににゅーちゅーぶで活躍している。しかし彼女が活躍しつづけるには大きな問題がある」 


 そう、そうなのです。


 魔王の成長は人間よりずっとゆっくりなため、一年や二年で背が伸びたりすることはありません。

 それが、伸び盛りの四歳の女の子の設定として、極めて不自然なのです。


「魔王を成長させる薬を作ってください、というのでしょう」


「さすが、博士。ご慧眼でいらっしゃる」


 カラスはおおげさにほめました。とにかく下手に出ます。

 魔王が生き生きと自分の好きなことで活躍しているのを見ていると、ほんの親心……ではないですが、従者心が出て、もうすこしだけやらせてあげたくなってしまうのです。


 それに、調子に乗っている魔王に「やめて帰りましょう」というのは大変なことで

す。きっと、不愉快になって、大暴れして拒否をするでしょう。

 しかし、メディアに露出し続けると、かならずや人間たちに不信を抱かれるでしょう。


 かといって、縄をつけて引きずって帰るわけにもいきません。人間界ではただのいばりんぼうのちんちくりんですが、魔界での魔王の魔力は甚大なものです。

 そんなことをすれば、魔界についたとたんに、強大な魔法の雷を落とされて消し炭にされてしまうでしょう。


「どうにか、あと一年でも、ごまかせられないでしょうか?」


 グリム博士は、電話の向こうでうーんと唸りました。


「三千万円」


「は?」


「当面の研究費にそれだけ欲しいです」


「えっと……無理でございます。申し訳ございません」


 お金はありませんでした。

 魔王が多少の人気を得て、すこしは収入を得られるようになったと言っても、なんとか屋根のある所で寝られる程度。けたがちがいます。


「でしょうね。では、健康な魔王の細胞を採らせてください。この前のように眠らせて採取すれば問題ありません」


「細胞を……」


 カラスは一気に不安になりました。

 この人は、本当に私の望みを叶えてくれるのだろうか。

 陛下のお体の研究がしたいだけなのでは……?


 しかし、他にいい方法もないので、信じてみることにしました。


「わかりました。では、睡眠の薬を用いまして、陛下がお眠りになりましたら、いらしてください」


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