まおうのだいぞうしょく

 え。


 見たものが信じられずに、カラスの脳は、しばし思考を停止してしまいました。


「黒い子猫のようなものたちの群れは次に洋菓子店に押し入り、売り物をすべて食べつくすと逃走しました。さらにその次には、スーパーから被害の声が……」


 ニュース映像に映った「黒い子猫の群れ」の画像。

 それを見たカラスの口は開いたままになりました。


 魔王です。あれはどう見ても魔王です。


 ニュースによると、子猫の姿の魔王が大増殖して、あちこちで店のものを食い荒らしているらしいのです。


「にゃんで、そんなにおおきなくちをあけているにゃ? カラスもすしがほしいのにゃ?」


 ニュースをろくに見ていない魔王は、よくわかっていない模様です。

 いつだって魔王はニュースを見ません。なにをいっているのかわからないからです。魔王が見るのは、幼児向けのアニメと自分の出ている番組だけです。


 カラスはテレビ画面を指でさしました。


「陛下が……大量の陛下が、町に……」


 それ以上は、なんと説明してよいのかわからないようです。


 魔王は、くりんと首をかしげました。

 カラスははたらきすぎて、おかしくなったのかにゃ?


 そして、とうとう魔王はテレビを見ました。映っている黒い子猫たちを見て、びっくりしたようでした。


「ワシにゃ!」


 一目でただの子猫ではない、自分だとわかったようです。


「あのこうきなたたずまい、まちがいないにゃ。ワシがいっぱいいるにゃ! にゃんでにゃ!??」


 魔王は自分の中身も外見も大好きですから、一発でわかったようです。

 でも、どうして自分がいっぱいいるのかまでは、わかりません。


 むー……と考えこみました。


「あいつらがワシなら、ワシはだれなのにゃ……?」


 哲学でしょうか。


「とにかく、すぐにいくにゃ!」


 そう声をかけると、魔王はすぐに部屋を出て行きました。


 常識外れのことにめっぽう弱く、おろおろするばかりだったカラスですが、魔王の号令にいささか平静を取り戻して、「はい!」と元気よく返事をしました。

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