だいにんき……にゃと!?

人間界を掌握……と表現するのはちと大袈裟ですが、オルディアレス公爵家のひ孫のふたごは人間界で、大ブームとなりつつありました。

 コンビニでも、ドラッグストアでも、スーパーでも、最近はどこに行ってもふたごの歌うこのCMの曲が流れています。


 オーディションで選ばれた彼らは、「天使の心を持った悪魔のふたご」というキャラ付けをされました。

 そして、「夢見る心を大事にしながら、魔法の国を冒険している魔法使いの見習い」という設定で、売り出されました。


 そして、CMの中で、新商品のぬいぐるみを抱っこして、かわいらしく歌いました。


 これが、大人気に!


 人間離れした美しさを持つふたごが(実際、人間ではないのですが)、どこか悪魔を思わせる衣装をまとって、愛らしくデュエットする姿は、大評判となりました。


 黒パンクなファッションと、天使のような美声。

 純真無垢な笑顔に、品のある仕草(公爵家の教育を受けていますので)、七歳(設定です)とは思えない賢い受け答え……。

 そんなギャップのある要素は、人間たちの心をひきつけました。


 公爵家の芸術に関する教育が行き届いていたのか、彼らの歌声自体もかなりのものでした。


「お会いした時とはまったく印象が違いますね。オルディアス家のお嬢様は、よく本性を隠していらっしゃいますね。演技の才能がおありなのでしょうね」


 カラスが感心したように言いました。さびれた神社で、魔王に対して傲慢な態度をとっていたドールが、画面の前では天使のような笑顔をふりまいています。


 どうも、彼女は魔王よりずっと賢くて、自分がどうやれば人間たちの心を掌握できるかを、知っているようでした。


 神社で会ったときの威厳のある声を地声とするなら、メディアで発するものはかなり高くて、まるでカナリアのように愛くるしいのです。彼女には、演技の力があるようです。


「ワシは!?」


 美声も演技の力もない魔王は怒鳴りました。

 そんなことを問われても、カラスも困ります。


 魔王にお声がかかることはありませんでした。


「お前に満面の笑顔で愛くるしくあの歌がうたえるのか?」「純真無垢なキャラを演じられるのか?」とツッコめるひとはグリム博士くらいでしょうか。ここにはおりませんが。 


 カラスは困った末に、どうにかこう答えました。


「おーでそんではまだ回答がございませんが、にゅちゅーぶのほうで陛下の人気が上がってきているようです」


 いえ、オーディションからは落選の通知が来ていました。

 ですが、「今回は烏丸様のご希望に添えない結果となりました。烏丸様のより一層のご健勝とご活躍を心よりお祈り申し上げます」的な遠回しな言い回しだったため、魔王にはなんのことやらさっぱりです。


「活躍を祈っている」とかいてあるのだから、ほめているのかにゃ? そのうちにれんらくがくるのかにゃ? などと思って、前向きに待っています。


 魔王脳は、自分に都合よくできているのです。


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