も、もちぇり……?
「なんでにゃああああ!」
ふつふつ、ぐつぐつぐつ。
魔王の金の瞳は燃えています。怒りに燃えたぎっています。
魔界の火山の溶岩のように、どろどろねとねと、しつこく燃えています。
そうなのです。
先日受けた、オーディションの結果は……。
……結果は……。
魔王の怒りっぷりをご覧になれば、察せられるでしょうが………。不合格でした。
公園のベンチに腰をかけたカラスが、手元のスマホを眺めていました。
そこから流れてくる曲を耳にした魔王の瞳が、きゅっとつりあがりました。本格的に歌が流れ始めると、さらに勢いを増して、ごおおおおと燃えさかりました。
『ららら・ま・ちぇいりー。ふしぎな魔法のドールとシロン。きらめく呪文は、ちぇりーちぇりー、ぽめら、ぱめら、めるめるめらん。いちにぃちぇりー、あんどぅちぇりー、いーあるちぇりー、あいくるもちぇりー』
「あほにゃあああ!! やめるにゃあああ!!」
子猫の姿をした魔王は、大声で怒鳴りました。
最近、どこへ行ってもこの「あほみたいにゃ」曲が流れています。
歌っているのは、あの公爵家のひ孫のドールとシロンでした。
CMに出演する子を選ぶためのオーディションで選ばれたのは、彼らだったのです。
ふたりとも、黒基調のパンクロックな格好をして、まるで純粋な子どものような愛くるしい笑みをたたえています。
ドールの胸には、ピンクと空色のツートンカラーの、まるっこい犬のようなうさぎのようなぬいぐるみが抱かれています。
シロンの胸だかれているのは、ラベンダー色とパステルグリーンの、色ちがいバージョンです。
ふたりのデュエットの後に、やけに浮かれたナレーションの声が入ります。
『悪魔の姿に、天使の心をもったおちゃめなふたごは、わくわく大好きっ! 今日もまた魔法の国に冒険に行くよ。願いをかなえてくれる魔法のぬいぐるみ・『もちぇりー』もいっしょにね。ぜーんぜん、怖くないよ☆ 夢の種をさがして飛びこもう!』
「うにゃああああああ!!」
魔王は、カラスの持っていたスマホを、肉球と爪でばちんとはじきました。聞いているだけで、頭がおかしくなりそうです。
「なんでにゃ!? ちほやされるのは、いだいなワシにゃのに! こしゃくにゃんて!」
なまいきなこしゃく! ぶれいにゃドールとシロンとやら!
子猫の魔王は、苦いものを食べたかのように、舌をつきだしました。
こしゃくけのひまごとやらに、きわめて限定的にとはいえ、先に人間どもの心を掌握されてしまったのが、くやしくてたまりません。
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