ぷりんどろぼう!

「ワシの……ワシのぷりん……。くうぅぅぅぅ!! なんでにゃ……なんでにゃああああ!!」


 いえ、ちがいました。よくはありませんでした。

 途中から、魔王は想像と現実の区別がつかなくなって、本気で怒りだしたのです。


「おまえか! なんでにゃ!」


 がぶがぶ


「いたっ! だめです、へい……真桜。あちらに戻ってください」


 カラスが自分のプリンを食べてしまったと思いこんで、火の玉のように怒り出し、彼の脚に食いつきました。

 オーディション中に、父親に噛みつく四歳児が、どこにいるでしょうか。


 カラスは、がっかりしてしまいました。


(ああ、もうだめか。だめだろうな……)


 最初は好印象に見えた審査員たちの表情も、どんどん困惑したものになってきました。

 他の三人の子どもたちは、いまや魔王から距離をとるようにして立っています。もはや、動く災厄です。


(これはだめだな。しかし、私は陛下の従者としてやるべきことはやった。あとは……)


「はらへったにゃ! めしにゃ!!」


 魔王はそうカラスに命じると、もうあきたのか、勝手にドアのほうにとっとこ向かいます。


 ふと思い出したように、くるりと審査員のほうをふり返りました。


「いつでもワシをあがめるのにゃ。みつぎものも、もってくるにゃ」


 王らしく言いはなつと、それで満足したのか、とっとと出て行ってしまいました。


 カラスは、審査員の人間たちの顔を見ないようにして、「すみません、ちょっと疲れたようです」と、ぺこぺこ、ぺこぺこ座椅子のように頭をさげながら、魔王のあとを追いました。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る