まおうがきたにゃ


 都会にある某ビルの一室。

 壁一面が鏡になった部屋に、四人の子どもたちが並んでいました。

 三~五歳くらいの幼い子たちです。


 本日は、キッズモデルのオーディションが行われる日なのです。

 ここは、芸能プロダクション・オフィスカラントの事務所。ちなみに、カラスの妹のトリュスがモデルとして登録している会社です。


 審査をする面接官たちは、まず社長とマネージャー。さらに今日は、CMの監督、それにクライアントの企業の関係者も見守っています。


 今回のオーディションは、子ども向けのおもちゃのCMに出演するキッズモデルをさがすためのものでした。



「では、お名前を教えてもらっていいですか?」


 面接官を務める中年の男性が、やさしい声でたずねました。

 ちいさな子どもたちは、みんな緊張したようすです。不安そうに親のほうばかり見ている子もいます。

 名前を言うだけで、いっぱいいっぱいになって、泣き出しそうな表情になっている子もいます。


 いえ、ひとりだけ例外がいました。


「まおうにゃ」


 審査をつとめる人たちみな、目を丸くしました。


 黒髪に金の目をした変なしゃべり方をする女の子が、手を腰に当てて、前を見すえて、どうどうと言い放ったのです。めずらしいことに、知らない大人たちを前にしゃべっていても、不安などはみじんもないようすです。


 子どもらしからぬあまりに自信に満ちた表情と、異常な目力とに、面接をする大人のほうが気圧されてしまいました。


 社長はマネージャーとともに、手元の資料に目を落としました。


『真桜(本名:烏丸真桜) 四歳。積極的で物おじしない性格。歌もダンスも未経験ですが、やる気にあふれた前向きな子です。

志望動機:人前で自己表現をすることが大好きで、本人のやる気も十分なため、さらなる可能性を伸ばしていきたいと思い志望いたしました。苦手分野はありません。あっても努力で克服できる子です。なんでもやります』


 父親が書いたという履歴書は、しきりに積極性と熱意をアピールしています。

 たしかに、気おくれということばとは無縁の、たいそう積極的な性格のように見えます。


 しかし、動じない態度とともに目を引くのはとにかく、その女の子の容姿でした。

 人間離れしていると、審査員はみんな思いました。

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