もえるまおう

 ふたりの姿は見えなくなりました。でも、魔王の怒りがおさまることはありません。


 こしゃくのひまごとやらが、なんであんなにえらそうなのでしょう。

 どうして、まるで王のようなものいいをするのでしょう。


 自分より、王にふさわしい喋りかたをするドールに出会って、魔王は猛烈に敵愾心を燃やしていました。絶対に、たたきつぶさねばなりません。


 憤りのために、体からぷすぷすと水蒸気を発しています。

 ちなみに魔王の体温は人間より高いのですが、いまは猛烈な怒りのため、さらに温度が上昇しています。


「あ、すごい。陛下のお体がどんどん乾いていきますよ。サウナみたいですねぇ」


 ほわほわしゅーと白い湯気をたてる黒い体を見て、カラスが感心したように言いました。

 沸騰したやかんのごとき勢いで、魔王が怒鳴りました。


「にゃんとごうまんなやつにゃ! ゆるせんにゃ!」


「そうでしょうか……?」


 カラスが首をかしげました。普段の魔王の傲慢さのほうが、上ではないかと思ったものですから。


「ワシは……ワシは……」


 ぶるぶるふるえながら魔王が語ります。


「つよいのは、ワシ。かわいいのも、ワシ。おうは、ワシ……」


「陛下?」


 様子のおかしい魔王を見て、いよいよ壊れたのかなと、カラスがのぞきこみます。 


「ぜったいに、まけんにゃああ!!」


 黒猫の金の瞳が、鍛冶屋の炉のように燃えていました。

 融解した金属と高温の炎とが、どろどろと入り混じっているような激しさです。


 カラスは目を見張りました。これまでは、魔王の頭にあるものといえば、おいしいものを食べて、ちやほやされたいということだけでした。

 そんな魔王が、はじめて負けたくないと、本気を出したのです。


「ワシがいちばんにゃ! おうにゃああああああ!」


 ちいさな神社に、魔王の絶叫が響き渡りました。

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