ちんちく

 うにゅうと首をかしげる子猫を見て、金の髪の男の子が、はっとなにかに気づいたようでした。


「魔王だ! そうだ、魔王城でこのいやな臭いをかいだことあるよ!」


「そうにゃ!」


 名前を呼ばれて、魔王は胸をはりました。


「たぶんカラスのほうは、魔王のお付きのギースベルト子爵だよ。名前だけ聞いたことがあるよ」


「ご挨拶が遅れまして、わたくしは……」


 カラスが片翼を広げて、丁寧に挨拶をしようとしましたが、魔王にぎっとにらまれ縮こまりました。


 弟の話を聞いて姉の方が、驚いたように言いました。 


「まさか、うそだろう……? 誰よりも強大な魔力を誇る魔王が、こんなちんちくりんだなんて……」


 そう言いつつも、警戒しているのか、白い牙を見せて唸っています。


「すっごい短気で、わがままで、怒りっぽくて、暴力的で、頭が悪いって聞くよ。ぼくこわいよ」 


 男の子のほうがすっかり怯えたような表情で言うので、魔王はどや顔になりました。

 人間界に来てからあまり言われることのない「怖い」という言葉がうれしかったのです。


 あとの悪口は、脳にとどまることなく、耳から耳に抜けていきました。

 都合のいい頭です。

 

 ふたごはこそこそと相談し始めました。


「我も聞いた。どうしようもなく気が短くて、食い意地だけがはっていて、話の通じる知性は持ち合わせない怖ろしいやつだそうだ」


「トロールより醜悪で、オーガより残忍で、ベヒーモスみたいに大食漢だと聞いたよ」


「しかも知能はスライム並み」


「にゃあああああ!! こにょっ、こにょおおおお!!!」


 魔王が怒鳴りました。てっきり恐ろしさをたたえてもらえると思っていたのに。どうして悪口大会になっているのでしょうか。


 ふたごはうなずきあうと、同時に、ぽんっとすがたを変えました。


「おお、なんと、愛らしい……」


 思わずカラスがつぶやきました。

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