こしゃく

 魔王は混乱しました。


「にゃっ……!? にんげいふぜいが、なまいきにゃ!」


 にゅーちゅーぶで「おことば」を発したのだから、人間たちはみんなもう魔王の配下も同然なはず。

 ごちそうをたくさん持ってきて、ちやほやしてくれるはずなのです。魔王の単純な脳内ではそうなっています。


 それがこんなふうに、無礼に怒鳴りつけるなんて……! どういうことなのでしょう。


 ふたりの子どもを見つめながら、カラスは怯えたような顔をしています。


「いや……やはり……。ああ、なんという……」


 カラスのつぶやきを、魔王はふしぎに思って、「なんにゃ?」と聞きました。

 従者は小声でささやきました。


「この方々も魔族ですよ。しかもかなり高位の……。おわかりになりませんか?」


『わかるか』と聞かれて、素直に「わかりません」と言う魔王ではありません。しゃくにさわりますからね。


「わかるにゃ!」


 とりあえず、叫びました。しかし、さっぱりわかりません。


 侵入者のうち、気弱そうな男の子のほうが、こそこそと隣の女の子にささやいています。


「お姉ちゃん……。あいつ、あのちびの黒猫、すごくやばいにおいする……。目つきも怖いよ……。鳥のほうは雑魚だけど……。逃げようよぉ」


 姉と呼ばれた女の子は、弟を叱り飛ばしました。


「おまえ、それでも公爵家の者か! 我らより高位の魔族など、魔界でも数えるほどしかおらぬわ。オルディアレスは魔王と大公につぐ力を持つ一族ぞ」


「なるほど。思い出しました」


 カラスが魔王にささやきます。


「オルディアレス公爵のひ孫さまが人間界に遊びにいらしていると、妹が申しておりました」


「おる……で? こしゃく?」


「左様でございます。容貌の似ていらっしゃるふたごでおられますが、性格は正反対だといううわさです」


 他人に興味のない魔王とはちがい、まじめなカラスは魔界の主要な貴族の情報を、あらかた暗記していました。


「弟君は知的な一族である北方雪銀狼のご出身の奥方に似ておいでで、おだやかなお方だそうです。しかし姉君のほうは、御父上の血筋である冥府大狼の気質を強く受けついでおられて、かなり凶暴でおられると……」

 

 子猫魔王の顔に、???が浮かびました。

 知らない単語がふたつ以上出てくると、魔王の脳はたやすく混乱してしまうのです。


 とりあえず、魔族のふたごということだけは理解しました。

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