ばちあたり

 魔王はひたすらカラスのあとについて走りました。ひとけのない住宅街の外れに、こんもりと山のようにもりあがった、ちいさな森がありました。

 そこには、苔むした石段がありました。それを登りきると赤い門があり、その先には古びた木製の建物がありました。


「陛下、着きました。前に確認しましたが誰も住んでいないようでしたので、ゆっくり雨宿りをしましょう」


 まずカラスが横手に回り、「ここです」と壁の板の外れた部分から、中に入りました。

 ずぶぬれ魔王はもはややけくそになって、「賽銭箱」と書かれた箱の上に飛び乗り、そこからジャンプ! 死に物狂いでカラスのあとにつづきました。


 小屋の中に入ると、魔王もカラスも、大きく身震いをして水滴をはじきとばしました。

 それでも魔王は、ショックから抜けきらないようすで、ぜーぜー息をきらしながらぶるぶる震えています。


 カラスがふしぎそうに室内を見渡しながら言いました。


「それにしても、この空き家はなんでしょうね? 入口に大きな赤い門がありましたが、あれもなんだったのでしょう。それに扉の前に大きな鈴がついているのも、用途がわかりません。もしかしたらここは、人間たちの信仰を表現するための祭殿なのかもしれませんね」 


 とくに役にも立たないこと分析して説明するカラスが、魔王の目にはひどくのんきに見えて……。


 ……見えて……。


 がぶりっ!!


「ぎゃああ!!」


 カラスは悲鳴をあげました。子猫魔王が渾身の力で、カラスの翼に噛みついたのです。

 そのまま魔王は、カラスをひょーいっと放り投げました。


「こにょ! こにょ! やくたたずにゃ!! くびにゃ!! しけいにゃ!!」


 たくさん怒鳴ってから、魔王はわんわん泣き始めました。

 ほんのすこしの水滴が毛皮につくことさえいやな魔王にとって、豪雨の中を走りつづけるなんて、拷問のようにつらい時間でした。


 そして、ずぶぬれになって古い粗末な木の小屋にいる自分が、とてもかわいそうになったのです。


 ワシは、まおうなのに!


「お、お許しください……陛下。天候ばかりはわたくしの力でもいかんともしがたく……」


 ぎらぎらと光る子猫の金の瞳を見て、カラスの声が震えます。


「だまれにゃ! すぐに、ワシをからっとするにゃ!」


 もちろん唐揚げになりたがっているわけではありません。

 カラスに、すぐに自分を乾かせと命じているのです。


「すぐと言われましても……。乾いた布も火もありませんし……」


 困惑したように、カラスが言葉を返しました。

 魔王はかっかしながら怒鳴りました。


「うるさいにゃ! ワシのめいれいにゃ!」


「うるさいのはお前だ!」


 いきなり、子どものような甲高い声が聞こえました。

 びっくりして魔王は思わず、「ふにゃっ!?」とまぬけな声を出しました。


 雨の音にまじって、外から誰かの声が聞こえてきたようです。


 まったく知らない声でした。魔王とカラスは驚いて、お互いの顔を見つめながら静まり返りました。


 カタリ、と正面入り口のほうから音がしました。

 ふたりが注目する中、扉はぎいーーーっと開かれました。

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