まおうはまおう

 引きの画になると、青空の下、魔王がえらそうに腕組みをした格好で、白いベンチに腰かけているのが見えました。

 どこかの公園で撮影しているようです。


「にんげんども、きけにゃ。ワシは、いだいなるまおうさまにゃ!」


 不遜な笑みを浮かべて叫ぶ魔王の横から、男のひそひそ声がします。


(陛下、打ち合わせとちがいます。からすままおう、とお名乗りください)


「にゅ……からすま、まお、にゃ」


 それはグリム博士が考えてやった、人間界で活動するための名前でした。

 おぼえやすいように「まおう」としたのに、魔王はどうも苦戦している模様です。


(「まお」ではなく「まおう」です)


「うにゃああああっ!! うるさいにゃ! だまれにゃ!」


 なんだこれ……?


 魔王が歯をむき出して、画面には映っていないカラスに向かって怒っているようです。

 なにを見せられているんだろうと博士は思います。休日の昼下がりのほのぼのとした気分が、台無しです。


 いったん画像が切れて、またすぐに再開しました。


 魔王は公園のベンチに座ったまま、なにかのカップを持っています。

 そして、堂々と宣言しました。


「いまから、おでんをくうにゃ」


 ぐさっ。

 もりもり。


 プラスチックのフォークをつきさして、幸せそうにどんどん食べ始めました。

 カメラのことなど忘れているようです。


 最後に、口をつけてスープかなにかを飲み干して……。


「おかわりにゃ!」


 また新しいカップを受け取っては、もりもり、ぱくぱく。

 

 それを何度か繰り返してから、魔王は叫んで手を伸ばしました。


「まんぞくにゃ。つぎは、デザートにゃ!」


 すまなさそうなカラスの声が聞こえました。


(申し訳ございません。陛下……いや、真桜。おでんしか用意しておらず……)


「なんでにゃああああああ!」


 怒りで目を釣りあげた魔王が、画面の右側に向かって飛びかかります。


(痛っ、痛い、噛みつかないで。ちょ、ほん、申し……)


 そこで映像が途切れました。今度は本当に動画の終わりのようです。


 博士はもう一度つぶやきました。


「……なにこれ」


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