そのころ
グリム博士は自宅で、ひさしぶりの休暇を満喫していました。
ちゃぶ台には、湯気をたてる緑茶と、ほっかほかのチンしてできるご飯。
おかずは、キュウリの浅漬けばかりが、たくさん皿の上にのっています。
それを箸につきさして、ぽりぽりと食べながら、博士は感心して言いました。
「中本さんのキュウリは、やはり至高だな……」
先日の夜、バイト帰りに金を無心に来たカラスが、せめてものお礼として置いていったものでした。
塩分控えめで、あっさりしていて、しかもキュウリの風味は損なわれていないという、とても美味なお漬け物です。
ご飯ともよく合います。
「人間界の食事は、魔界とは比べ物にならないほどうまいな。あほの魔王が食べ物に執着する気持ちも、いまならわからんでもない……」
もともと偏食で生野菜しか食べず、極めて小食だった博士ですが、このキュウリの浅漬けに出会ってからというもの、おいしいものを食べる喜びを知りました。
棒のように痩せていた手足も、すこし肉づきがよくなってきたようです。
「人間を滅ぼすなんて脳筋の考えることだ。人間は魔族より数も多く利口で器用なのだから、うまく利用するに限る」
ぽりぽり。
大事に食べていたキュウリが。とうとう最後の一切れになってしまいました。
困りました。おかわりが欲しい。金を出してでも欲しい。
カラスに頼めば持ってきてくれるかもしれない。それとも、中本さんの居所を聞いて、直接仕入れる契約を結ぼうか……。
「ん?」
ぴろんと音がして、スマホにメールが届きました。
差出人の名前表示は、「カラス卿(烏丸九郎)」となっています。
『おせわになております。へいかのどうがおのせました。ぜひごかんそうおください。つぎわおうでそんにいてきます』
たどたどしい平仮名ばかりの文章につづいて、ひとつのURLが目に入りました。
どうやらカラスは助言に従って、魔王のにゅーちゅーぶちゃんねるを開設したようです。
めんどうだなあと思いながら再生すると、映像は黒髪に金の瞳の美幼女のドアップから始まりました。
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