きょうだいがらす

「陛下ーー! トリュス!!」


 使いカラスの知らせを受け、カラスは夜の街を駆けて、トリュスと魔王の元にたどりつきました。

 魔王は、子猫の姿でトリュスの手に抱かれて、すやすや眠っています。


 パンケーキ5皿と、あとハンバーグセットとオムライスセットを食べた魔王は、すっかり満足したようでした。

 とどめのデザートのプリンパフェを食べた直後、レストランのイスの上でくうくうと眠ってしまったのです。


「トリュス……。なぜ……。おまえ……、魔界に帰ったのでは……?」


 ぜーぜー呼吸をしながら質問する兄を制して、トリュスは魔王を渡しました。


「兄さま、こんなにいたいけな魔王陛下を置き去りにしてはいけませんわ」


「うむ……」


 仕方がなかったとはいえ、カラスも心苦しく思っていたことを、ずばりと指摘されてしまいました。


 いたいけかどうかはさておき……。


 真面目で哀れなカラスは、言いたいことをこらえて、おとなしく子猫を受け取るしかありませんでした。


 なぜここに妹がいるのか問いたかったのですが、おおよその予想はついています。妹は好奇心旺盛で、野心の強い性格ですから。

 いま彼女の機嫌を損ねるのは得策ではないと思って、カラスは現実的な問題の解決にあたることにしました。


「言いづらいことだが、これから宿を探すには遅い時間になってしまった。陛下がふと目覚められて、ベッドの上でないとお知りになったら、お怒りになられるだろう。申し訳ないが、おまえの家があるなら今晩だけでも泊めてくれないか?」


 カラスの言葉に、トリュスは首をかたむけました。


「わたしも言いづらいけど、女性専用の学生寮に住んでるの。勝手に外部の人を入れたのがバレたら大変なことになっちゃう」


「元の姿でもだめか?」


 カラスが切羽詰まっている様子なのを見て、トリュスは曲げた人差し指を口もとにあてながら悩んでいるようでした。


「わかったわ。一晩だけね。でも寮はペットも不可なの。このエコバッグの中に入ってくれる?」


 ペット……。

 人間たちには私たちがそう見えるのか。


 カラスはもやもやしましたが、トリュスは気にするようすもありません。ショルダーバッグを開き、大きなエコバッグを取り出して広げました。


 カラスはトートバッグに収まりました。うっすらとりんごの匂いがしました。

 それからトリュスは、カラスの上にたたんだハンドタオルをのせて、その上にハンカチをのせて、眠る子猫をそっとのせました。

 敷物をしたのは、魔王へのせめてもの敬意でした。


 大学の近くの学生寮に帰ると、足音を忍ばせて部屋に入り、ベッドの上にちいさな魔王を寝かせました。

 それから兄をエコバッグから取り出すと、ベッドの柵にふたりで並んで止まって、魔王を見守るようにしながら寝ました。


 

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