だい2しょう:まおうのめであしんしゅつ

にゅーちゅーぶ

「せかいいちかわいい、いだいにゃ、まおうさまにゃ! にんげんども、かわいいワシにひざまずくのにゃ! そして、ぷりんとぱふぇと、こーらといちごみるくと、そせじとはんばぐをささげるのにゃ!」


 梅雨の合間の、ある晴れた日のことです。


 魔王はまた公園にやってきて、たいへんいばっていました。腰に手を当てて、もう一方の手は、カラスの構えるスマホをびしっと指しています。


「あと、くろわっさんと、ちきんどりあもにゃ!! それから、ちょこれと、ぱんけき、おぎにり……」


 本日の魔王はいつもの黒髪おかっぱ幼女に化けて、灰色の半袖Tシャツとラベンダーのフリルスカートを履いています。らんらんと輝く金色のつりあがった瞳以外は、すっかりその辺の人間の子どもたちにとけこんで見えます。


 武力で人間界を征服するのはむずかしいと思い知った黒い子猫の魔王は、新しい戦略に乗り出していました。


『魔王の唯一の武器、それはかわいさです』


 そう言ったグリム博士の影響を受けてです。


 魔王の血とひきかえに(血や細胞をとられたことは魔王は知りません。ぐっすり寝ていましたから)、グリム博士はカラスに「魔王の世界征服」の役に立つ情報と道具を手渡しました。


『かわいさで民衆の支持や金銭を得ようとするなら、有名になることですね。テレビ番組やネット配信動画に出るとか。魔王の自己顕示欲を満たすためにも、そういったもので世間に知ってもらうのがよいでしょう』


『なるほど……。変化した外見を用いて人心を操るわけですね。グレネマイアー様のように』


 カラスは、アデルのことを思い出しました。人化した姿の美しさで、この地で女王のような扱いを受けていると、おっしゃっていたな……と。


『あの人のやり方をそっくりまねすることはできません。魔王みたいなちいさいのは、そういう水商売はできない。タレントというやつ……たぶん子役とかアイドルとか配信者とかいうのが、魔王向きではないかと。オーディションを受けたり、にゅーちゅーぶに動画をあげたりするなど、知名度をあげるために活動してください』


 なるほどとメモをとるカラスでした。でも、頼りにしている博士はこう付け加えました。


『そういうのは芸能界とかいう界隈になりますが、私はよく知らないんで、あとはそのスマホを使って自力で調べてください。インターネットというものの説明と、簡単な使い方はこのメモを参考に』


 手渡されたメモを元に、カラスは必死でスマホの使い方を学びました。

 魔王は、その間、食べたり寝たりしていました。


 そして勤勉なカラスは、なんとか数日で、スマホで写真を撮ったり、動画を撮影したりする方法をおぼえました。


 そして、今日――


「ちょこれと、どなつ……」


 いよいよ初めて魔王様が、人間どもに向ってお言葉を発せらることに。


「ここあ、あんっ・にん・どう・ふぅ、おさしみ、おにつけ……」


 しかし、おおきく開けたちいさな口から出てくるのは、食べ物のことばかりです。


「はやく、はやくもってくるにゃ! ワシははらがへったのにゃ。いちばんにもってきたものは、ワシのそっきんにしてやるにゃ」


 そう言うと、両手を腰にあてて、そっくり返りました。


 ……きまったにゃ


 魔王は、にやっと笑みを浮かべます。

 演説が満足のいくものになったようで、たいへん満足げな表情です。

 

 にんげんどもも、きっとワシのかわいさに、びっくりしたにゃ。ワシのいだいさを、おもいしったにゃ。


 そろそろおいしい貢物を抱えた人間たちが、大挙して押し寄せて来るのではないかと、魔王はわくわくしながら公園の入り口の方ばかり見ています。


 その時、スマホをいじっていたカラスが、困惑したようにつぶやきました。


「あれ、撮れてない……。なんでだろう……。申し訳ございません、陛下。失敗のようです」


 このスマホという魔法の道具はどうにも作りが複雑で……と、言い訳を口にするカラスでしたが、もちろん魔王はげきおこ。


「あほにゃああああああ!!」


 がぶり、とカラスの腕に噛みつきました。


 

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