ねこのまおう:かん?
駆けつけたカラスの視界に飛びこんできたのは、電信柱に衝突した大きなトラックでした。
魔王はあの事故に巻き込まれた……。
……というよりは、魔王が事故を引き起こしたに違いありません。
トラックと電信柱との間に挟まれているのか、下敷きになったか、もしくは吹っ飛ばされたか……。
なんと、かわいそうな、まおうでしょう
【ねこのまおう:完】
いえ、まだ終わりません。
「陛下っ! 申し訳ございません!」
癖でとりあえず全力謝罪すると、カラスはトラックと傾いた電信柱めがけて駆け寄りました。
ぼう然とした顔の運転手がふらふらとドアを開けて出きて、震えながら地面にヒザをつくのが見えました。
その気の毒な様子に構う余裕はないまま、カラスは魔王をさがしました。
周囲がざわつき始めます。
(女の子が……)
(救急車……)
これはまずい。
「にゃああ……」
情けない声がしました。トラックの前輪のあたりから、ごそごそと魔王がはい出てきました。
「ぶれいなくるまめ。ワシのふくをよごしたにゃ」
魔王は無傷でした。
ワンピースは盛大に汚れ、タイヤの跡がついています。
頭を押さえているところを見ると、ちょっと痛かったみたいです。
しかし体には傷ひとつないようです。どんなにこの世界では弱くても、魔王は不死身なのです。
無事なのはわかっていましたが、カラスは安堵しました。予想では、トラックにもカラスにも、もっと激高して暴れまわるかと思っていましたから。よかった。
ですが、魔王が元気すぎるせいで、人間たちに不信を抱かせてしまったかもしれません。魔族だと知られるようなふるまいをするのは避けたいところです。どんな迫害を受けるかわかりません。
なんせ、ここではふたりとも、弱いのですから。
「陛下、申し訳ございません!」
もう一度謝ると、カラスは魔王を無造作に抱きかかえました。
「なんにゃ!? さわるにゃ! あのくるまをしけいにするにゃ!」
わめきちらす幼女を信じられない目で見ている運転手に近づくと、片手をポケットにつっこみながら、早口でささやきます。
「どうかこれでこのことは内密に」
くしゃりとした感覚に男性が目を落とすと、いまだ震えの止まらない手には札束が握られていました。
一万二千円。
なんと理解不能で怖いお金でしょうか。
彼は、悪夢のただ中にいるような心地のまま、脱兎のごとく逃げ去って行く男と小脇に抱えられた幼女を見つめることしかできませんでした。
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