さいこうりん
子猫の姿をした魔王は、畏れひれふさぬ人間たちに、たいへん腹をたてていました。
そこで、とびっきり強大で、恐ろしげな様子をした魔物たちを呼び集めました。
小さな魔王の呼び声に応えて、魔界の城の大広間に、数多の魔物たちが集まりました。
猛る炎を吐くドラゴン、一つ目の巨人、三つの頭を持つ大狼、鉄をもひきさく獅子の爪を持つグリフォン……。
続々とつめかける魔物を見て、魔王は満足げに笑いました。
「おまえたち、ついてくるにゃ! いまいましいにんげんどもに、ワシらのつよさをみせるにゃ!」
そう言って、かざした手に魔力を集めると、人間界に通じる扉を開けました。
「きょうが、にんげんどものめいにちにゃ。ほろぼしてやるにゃ。そして、おいしいやきざかなは、ぜんぶワシのものにゃ」
細くて暗い通路を抜けると、光のあふれる世界にたどりつきました。そこは商店街でした。
「まおうさまのさいこうりんにゃ! にんげんども、おそれおののくにゃ! はいごにひかえるつわものどもは、ワシのはいかにゃ!」
買い物をしていた人たちが、魔王の方に目をやりました。
ですが、だれもおどろきません。「あらかわいい」と目を細める人もいます。
「にゃんということ……。まものたちがこわくにゃいのか? こんなにおそろしげなやつらにゃのに……」
背後を振り返って、魔王は呆然としました。誰もいません。
いえ、ひとりだけいました。小さくかしこまっている知恵者のカラスです。
「おそれながら陛下に申し上げます。みな、ご意志に沿い出陣する予定でございましたが……。あの……。あの扉は小さすぎて……。私はどうにか参りましたが、大きな者どもは、どうやっても通ることができませんで……」
魔王は、ぽかんと口をあけました。
「にゃんとふがいない……」
「ごもっともでございます」
「とびらくらい、きあいでぬけろにゃ!」
「ごもっともでございます」
「にんげんどもばかりか、まものどもも、ワシのことをばかにしてるにゃ」
「滅相もございません」
「あいつら、クビにゃ! もういいにゃ! ワシだけでやるにゃ!」
「左様。陛下のお力であれば、おひとりでもたやすいことかと存じます」
持ち上げられて、魔王はちょっと機嫌をなおしました。
「よし、さくせんかいぎにゃ! でもそのまえに、はらごしらえにゃ。ちーずばーがーとかいうのがくいたいにゃ。おまえ、さがすにゃ」
「御意にございます。探して参りますので、おそれながらしばしお待ちを……」
「すぐにゃ! ワシはまつのはきらいにゃ!」
子猫とカラスがなにやら話し合っている姿を見て、癒された通行人も少なくなかったとか。
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