ねこのまおう

松宮かさね

こねこはまおう

 生まれたばかりの魔王は、まっ黒な子猫そっくりの姿をしていました。


「せかいせいふく、するにゃ」


 大きな金の瞳をらんらんと輝かせ、深紅のマントを長く引きずりながら、人間たちに宣戦布告。


「ワシはまおうにゃ。いまからこのせかいは、ワシのものにゃ」


「あら、かわいい、ちっちゃい子猫」


「ばかにするにゃ。おろかなにんげんども、ちにひれふすにゃ」


 魔王は胸を張りました。でもだれも気にも留めません。


 むしろ、かわいいかわいいと、なでくりまわされました。


 小さな魔王は怒りました。


「ワシはまおうにゃ。おまえらみなごろしにゃ」


「いやなら、げぼくになるにゃ。ワシをあがめるのにゃ」


「サンマごじゅっぴき、イワシごじゅっぴき、タイごじゅっぴき、アユごじゅっぴき、いますぐよういするにゃ。おシオして、すみびでこんがりやくにゃ」


「はやく! だれかやるにゃ! ワシはきがみじかいのにゃ!」


 せいいっぱいの声で怒鳴っても、みんなは「子猫がにゃーにゃーなにか言ってる」「いっちょ前にいばってるよ」と笑うばかり。


「くつじょくにゃ。ゆるさんにゃ。にんげんぜんぶほろぼすにゃ」


 魔王は、泣きながら、魔界のお城に帰りました。


 泣いても、わめいても、かわいいばかり。




 ……それから15年後。


 復讐に燃える魔王が人間界に再降臨しました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る