網切り
第1話 短すぎるスカート
トヨサト先輩にお
水曜日の放課後、ガタイのいいショートヘアの三年女子に、私は体育館裏まで連行された。先輩がらみの案件だと容易に想像できた。
私がトヨサト先輩と関わることを、もしも怒ってくる人がいるなら、それは先輩のカノジョである本田さんだと思っていた。しかし薄ら寒い体育館裏で私を待っていたのは本田さんではなかった。おっかない顔をしたロングヘアの三年女子だった。
私を連れてきたショートヘアが、腰に手を当て、よく日焼けした顔で私を見下ろし口火を切った。
「あんた、トヨサト君のお母さんの友だちなんだって?」
おお、もう知れ渡っている! 放送部男子の
感心しながら、「はい」と返事をする。
「友だちの息子だからって、幼稚園児じゃあるまいし、なんで手ぇ繋いで歩く必要があるわけ? ええ?」
ショートがハスキーな声で
私とトヨサト先輩の母親が友だちだとわかれば、おかしな手出しはできん――、という
それにしてもまいった。お米さま抱っこだけでなく、手繋ぎシーンも目撃されていたとは……。
ものすごく返答に困る質問である。
答えあぐねていると、再びショートがドスを利かせる。
「この子がどれだけトヨサト君のこと好きだか、あんた知ってんの?」
知るわけがない……。
私はバケモノは見えるが、読心術は使えない。人の心を読むのは苦手だ。つまり鈍い。
この子と呼ばれた女生徒に
先生に怒られないのかなあ。
大きなお世話ながら心配になったそのとき、鼻にかかった声が響き渡った。
「
ショートが大きくうなずいて同意を示した。
「確かに。元カノぐらい美人だったら、みんな納得できるけどな」
その言葉にびっくりして、思わず二人にたずねる。
「え? 元カノ? トヨサト先輩、本田さんと別れちゃったんですか?」
ロングがツンとアゴを上げて勝ち誇った顔をした。
「へえ、そんなことも知らなかったのぉ?」
するとショートが、「ん?」と首を傾げた。
「知らなかった、ということは――おまえは新しいカノジョじゃないんだな?」
まさかこの人たち、私がトヨサト先輩の新しいカノジョだなんて、本気で思っていたのだろうか? 本田さんの次が私とかありえなぁい、と自分でも思う。
こくりとうなずくと、ロングがふっと鼻で笑ってからはき捨てた。
「やっぱりね。ここまで超ダサい子、ないわぁ」
ぴきっと身体が硬直した。
「なにそのボサボサ頭。しかも前髪かぶっちゃって。そこまでいくと妖しいわよ」
妖しい……また言われてしまった。
彼女は大きくうなずき、納得顔をする。
「ああ、自信ないから顔かくしてるのね。そのぶっとい黒縁メガネもあれ? ブス隠しなの?」
ひどい言葉に固まっていると、ロングはますますキンキン声を浴びせてくる。
「そのダボダボのカーディガンもなんなの? あー、デブ隠し。ざぁんねんでした。サイズが合ってないと余計太って見えるのよねぇ。しかもチビのくせに猫背なんて、救いようがないじゃない。ブサイク自覚してるから、みんなの視界から消えたいってこと?」
痛い。痛すぎる。
言葉がぐさぐさと全身を突き刺さした。
私だって……好きでこんな自分をやってるわけじゃない!
確かに、私の手入れを
「あなた、なんの努力もしてないわよね? ナチュラル系の女子とかキドってんの? ありのままの私を好きになってくれる男子とやらを待ってるわけ? 早く王子様が現れるといいわね。あなたと同じダサダサの。あはははっ」
なんで……? なんでこの人にここまで酷い言葉を投げ付けられなければならないのか?
身体がわなわなと震えてくる。頭に血が上って、とにかく何か言いたくなって口をパクパクさせた。するとショートがなだめるみたいに訴えかけてくる。
「この子はね、あんたと違って、自分磨き、すごく頑張ってんの。トヨサト君のこと好きで好きでたまんないから、彼にふさわしくなろうって努力してんだよね。ずっと
急に穏やかになった口調はロングのひどすぎる言葉へのフォローのつもりか。隣で胸を張るロングは、髪をかき上げにやりと笑う。
頑張ったら、好きだったら、全ての恋が
この人たちの大いなる勘違いを指摘してやりたい。でもその前に、ひと言浴びせようと、怒りにぷるぷると震えるこぶしを握りしめ大きく息を吸って発した。
「こんのぉお――」
「みぃやちゃあ~~ん!」
唐突に私を呼ぶ声が聞こえた。おかげで、
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