第3話 姫を護る騎士
二人、手を繋いで並び、
トヨサト先輩のことを警戒しているのだ。
そりゃあ警戒もするよね。彼はどう見たって私より強そうだもの。
私はオトリの仕事を果たすべく、大きく息を吸って川男に呼びかける。
「かっ、かわおとこぉ………」
情けないことに、予想外のヘタレ声しか出なかった。私ったら、自分で思っている以上に川男のことが怖いみたいだ。
実は私、川男のことを見くびっていた。だってヤツの動きはゾンビレベルなんだもの。いや、今のところ本物のゾンビって見たことないけど。
でも、こうして正面からヤツと向き合い、線のような目が自分を凝視しているのを感じると、足が震えてくる。
ううー、ものすごーく不気味。
やっぱバケモノって怖い。
浄化にトライなんてするべきじゃなかった?
「いいぞ。もっと
先輩が低く言いながら、繋いだ手にぎゅっと力を込めてきた。彼が怖がっている様子はまったく感じられない。むしろやる気満々みたいだ。
そうだ! 私は今、一人じゃない。隣には先輩がいる。この機会を逃したら、ヤツにお札を貼れる日なんか二度とこないだろう。これがラストチャンスかもしれない。
私! 勇気だせ!
懸命に自分を
「ここから、出て行け!」
とたんに川男は前進を再開した。遅いながらもスピードが増したようだ。
なんか
思わず先輩にすり寄ってしまった。手に持っている傘をぐっと握りしめる。この傘をいざというときには武器にするつもりだ。
どんどん近づく川男を見つめていると、恐怖に身体がじわじわと包まれていく。
ついにヤツとの距離が五メートルほどになった。トヨサト先輩はぐっと身を低くすると、私の手を振りほどき、ザッという音を残して横から消えた。
一気に心細くなる。無防備な赤ん坊になったみたいだ。なぁんて悠長なこと言ってる場合じゃない。川男の頭が、ぐうっと先輩を追って動くではないか。
ダメ! 私を見て!
「やい! 川男!」
とっさに叫んだ。小刻みに震える腕を必死で持ち上げ、川の方角を指し示し、声を振り絞る。
「川に帰れ!」
再び川男の顔が私に戻ってきた。
注目を取り戻せてほっとする。でも………でもでも、今度はこちらに手を伸ばしながら一直線に迫りくる。目の前が川男で埋まっていくのに、身体が石になったみたいに硬直して動くことができない。
「ひいっ――」
私は目をむいて、引きつった声をこぼした。カクリと足から力が抜け、トサッとその場にへたり込む。心臓がぎゅうっとなる。視界を覆う川男を見つめたまま、息が止まる。
そのときだった。川男の背後にトヨサト先輩がふわっと浮かんだ。
ペッチーン!
先輩が川男の首の後ろを叩くと同時に、キレのいい音があたりに響き渡った。
カッコいい……。
恐怖に顔を歪めながらもそう思ってしまうほど、ほれぼれするような見事なジャンプだった。
川男の首の後ろがふわっと発光し、同時にヤツの動きが止まる。しょぼんと音が聞こえそうなほど、見る見る猫背になっていく。攻撃的な空気が薄くなっていくのが、手に取るようにわかる。
やった? やったよね? 成功?
やがて川男は、ゆっくりと
ついにやった! とうとう川男にお札を貼ることができたのだ。
「ふふ……ふふふっ、うふふふふ」
勝手に笑いが込み上げてくる。
嬉し過ぎる……。
自分が貼ったわけじゃないけど、とてつもない達成感がわき上がってくる。
私の願いはバケモノと関わらずに生きること。でもそんな私だって、乱暴になった川男を放置していることを、後ろめたく思っていたんだもの。
ザザザッ……。
臨戦態勢で川男をにらんでいたトヨサト先輩が駆け戻り、すぐさま私の手を取って起こしてくれた。まるで姫を
チリッ――手のひらが痛み、同時に胸がキュン。
うっ……。不覚にも、ときめいてしまった。
待て! 待つんだ、私! いくらなんでも相手が悪い。
先輩と私は、スクールカーストの頂点と底辺。私みたいなモブキャラがときめいたって、どうにかなる相手じゃない。
私のハート、そこんとこきちんと自覚して、二度とキュンなんてしないように。
ぶるっと頭を振り、さっきの、キュンを記憶から追い出した。
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