28 「話、しよっか」
今回の政変には、雪那に問う罪の説得力がなかった。事実、疑問を持つ重臣が軍の一部を動かし、首謀者は反逆者として捕らえられた。
「姉さん」
「雪那、もう大丈夫。雪那は何も責められるようなことはしていないから、今回のことは気にしなくていい」
「さっきの話──」
「今日は休みなさい」
微笑み、頭を撫でると、雪那は小さく頷いた。
「大丈夫。もう怖いことは起きないから」
雪那を宥め、あとを瑠黎に任せて、わたしは一旦雪那の側を離れることにした。
口から、ため息が出た。
自分の奥から、爆発するように一気に感情が放たれたせいで、妙な虚脱感があった。
何も考えたくない。
雪那の側にいたいけど、一旦落ち着きたい。精神の波打ちの名残がある。
先ほどまでとは別の忙しなさがある周りから隠れるようにフードをかぶり、歩いていくと、見慣れた姿を見つけた。
「蛍火」
壁際に、フードを被って目から下は覆いをつけた蛍火が立っていた。
「お怪我は」
「ないよ」
「
蛍火の問いに、わたしは力なく笑ってみせた。自分でも掌握できない状態にある精神の具合に、「よく分からない」と正直に言うと、彼は思わしくない表情をした。
「睡蓮様、非常に言いにくいことが」
「なに?」と首を傾げると、蛍火は本当に言いにくそうな口調で、わたしに告げる。
「睡蓮様がしておられる指輪、知っての通り特別な所有物ですので──紫苑様が」
「……え」
ぽとん、と一つ音を溢したわたしに、蛍火がそのままの表情で、すっと視線で斜め後ろを示した。その先には角がある。
わたしが、まさか、まさかと思いながら角に差し掛かり、見えなかったその先を見ると、
「紫苑」
いつから、いたのだろう。
紫苑が、存在感を消すようにひっそりと壁に沿って立っていて、目をこちらに向けた。
「……さっきの話は」
その一言で分かった。
聞かれていた。
「──困ったなぁ」
わたしは、笑っていた。
こんな事態に見舞われては、どんな表情をすればいいのか分からなかった。蛍火に向けたような力ない笑顔に、困った感情が混ざり、諦めも混ざって。
そして、わずかな覚悟も混ざった。必要に迫られた覚悟だった。
本当は、聞かれるとしてもあんな形で中途半端に聞かれるのではなくて、自分の意思で言いたかった。そのために恒月国から出てきたばかりだった。
だからと言って、また一旦ここで紫苑には話さず内界に引っ込むのは無しだろう。
聞かれてしまったなら。
「話、しよっか」
案じる目をする蛍火に、大丈夫だと視線を返し、わたしは紫苑を廊下の先へ促した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。