Act36:謎の生物誕生
ティキ達は、ジャーナリストであるマイクという男から話を聞いていた。マイクは今回の事件の真相を知っているようだった。
「とにかく、星の導きは実験を行っていました。おそらく今回のオームはその実験の副産物です」
「実験ってなんなんだ?」
ティキがマイクに聞く。マイクは唾を飲み込みそして話す。
「……人間と月のカケラの融合です」
「人間と月のカケラの……融合だと?」
ティキはその言葉に驚く。当然だ。ティキはそんなことは今まで一度も想像すらしたことがなかったのだから。
「そもそも、そんなことが可能なのか?」
「それは専門家に聞いたほうが分かりやすいと思いますよ」
そう言うと、マイクはアイシスのほうを見る。ティキもマイクにつられアイシスの方を見る。アイシスは二人の視線に気が付くと話を始める。
「理論上は……可能だ。事実、融合とは言わんと思うが、月のカケラをタトゥーとして体内に埋め込むことは出来る。俺はその技術があるし、それをやっている奴もいる。だが、貴様の言う融合とはそういうことではないだろう」
マイクは頷くとティキの方を見る。
「ええ、僕が言う融合とは”細胞レベルでの融合”。それはすなわち人と月のカケラが一個となると言うこと」
「そんなことを星の導きはやろうとしてるのか」
ティキは俯きながら言う。
「そうです。第九候補生を襲った二人は、その実験のプロトタイプです。そして、長い年月を経て彼等はそれを実戦のものとして扱えるレベルにまで達した。そして、遂に彼等の襲撃は始まった」
「それが、主要施設への攻撃か」
ティキがつぶやく。
「おそらく今回のオームも、彼等の実験の一部。僕はこの国の階下のアンクレストにオームの研究をしている星の導きのアジトがあることを突き止めています。ですから、アンクレストで発生したオームが彼等に操られ、サガルマータまでやってきたという推測が成り立ちます」
ティキはマイクのほうを見る。
「星の導きの目的はなんなんだ?」
「確実な証拠はありませんが……状況的に判断して戦争を起こそうとしているとしか思えません。あくまで憶測に過ぎませんが……」
「戦争を……か」
ティキは今度はルクスの方を見る。
「ルクス、悪いけどこの人を家まで護衛してやってくれねぇか。今なら、ルクス一人でも大丈夫だろ」
「分かりました。僕も報告でリシュレシア国へと帰還しなければなりませんし」
「じゃあ、悪いけどさっそく行ってくれ。早いほうが都合がいいからな」
ティキは、マイクを送り届けるなら今しかないという判断をしていた。それは、マイクが死んでいるという判断を星の導きがしている可能性が最も高いと言えるからである。時間が経ち、偽装工作が知れれば再び狙われる可能性もあるのだから。
ルクスとマイクは、準備のために部屋を出て行った。
「さて、リディア。緊急の用事ってなんなんだ?」
オームとの交戦中に、リディアが言っていた緊急の用事というのを覚えていたティキは、リディアに話を切り替えて話を聞く。
「うん、でもティキは今は怪我で動けない状態だしなぁ」
リディアはティキの状態を見て悩んでいるようだ。
「こんな程度の怪我はなんともないさ。後一日も寝てれば治る」
そう言うと、ティキは腕をブンブンと回して自分が元気であることを印象付ける。
「まぁ、話すくらいならいいかな」
それを見たリディアは話をすることを決めた。
「ティキは”ソーマ”って聞いたことある?」
「ソーマ?」
それを後ろから見ていたアイシスが話に入ってくる。
「聞いたことあるぞ。確か”麻薬”だな」
リディアは頷き、続きを話す。
「うん、ソーマは月のカケラの粒子を含んだ麻薬なの」
「月のカケラの粒子を? おい、それって」
「そう、つまり第二の月の裁きである月班症候群を引き起こす原因を作っている薬。国の調べでソーマを密売している組織のアジトを割り出せたの。それで、乗り込もうと思ったんだけど、一人よりは二人のほうが確実でしょ。だから……」
「それで、俺のところにか」
リディアは頷く。
「いいぜ。一緒に行ってやる。俺も、月班症候群の患者を見てるんだ。放っておけない」
そう言い、ティキは行動を開始しようとする。それを見たリディアが言う。
「でもティキは傷がまだ……」
「こんな程度の傷なんでもないさ。それよりもアジトの場所を知られたことを奴等が気が付けば、手遅れになるかも知れない。出来るだけ早く行った方がいい」
リディアは、ティキの様子に違和感を感じていた。なにか焦っているようなそんな感じが。
ティキの様子を心配そうに見るリディアの肩を、後ろから見ていたアイシスが叩く。それに気が付いたリディアはアイシスのほうを見る。
「心配するな。奴はただ自分の中の苛立ちをなんとかしたいのさ」
「苛立ち?」
「ディセルパス国を守れなかったのは自分の所為だと思っている」
「そんな、だってアレは……」
「誰もが分かっておるよ。小僧はよく戦った。誰も小僧が悪いなんて思っておらん。それでも奴は全部を守りたかったんじゃろ。月の産物も持たずオームに立ち向かうのはただの馬鹿じゃが……俺はそんな馬鹿は嫌いじゃない」
その時、アイシスの立つ場所よりさらに奥の所が銀色に光だした。それにティキとリディア、アイシスも気が付く。
「なんだ?」
リディアを先頭にティキ達は光のする方へと向かう。
そこには、銀色の光を放ち輝く30センチほどの大きさの石が置いてあった。ティキはその石を見て目を奪われる。
「これは……もしかして月のカケラか?」
「ああ、そうだ。貴様が倒したオームのほとんどは粒子となって消えたが、一部は集合し月のカケラとなった。持ち帰るべきだと判断して持ち帰っておったのじゃ。しかしこの反応……なにかに共鳴しておるな」
月のカケラはさらに強く輝く、そしてその輝きにより全員の視界が奪われるほどとなった瞬間、辺りに強烈な風が通り抜けた。その風により巻き上げられた埃が、辺りの視界を一時的に悪くするが、それはすぐに晴れて月のカケラが置いてあったところも見えてくる。
「なんだ? 一体なにが……」
全員が月のカケラに注目するが、そこにあるはずの月のカケラはなくなっていた。
「え? 月のカケラは?」
と、その瞬間突然リディアの視界が真っ暗になった。何者かによって視界を遮られたようだ。
「え? ちょ……なに?」
リディアの声にティキとアイシスは視線をリディアのほうに向ける。そして、リディアも視界を遮っているなにかを両腕を伸ばし必死に取り払った。そして、全員がその姿を確認した。
そこにいたのは、真っ白なウサギのような耳をし、ウサギのようなシッポをし、正面を向いた胴体は丸く胴体から短い手と足が生えたウサギのような少し違うような奇妙な生物だった。
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