Act34:戦士の雄叫び

 ルクスとアイシスは、橋よりも少しイルマシア国側へと移動する。


「おい、ルクス。アイツ等何をする気だ? 何か作戦でもあるのか?」


「分かりません。でもティキさんが作戦なんて似合わないことするとも思えませんし、何か危険な気がするんです。だからもう少し離れていたほうがいいと思います」


 ルクス達の場所からは、オームの姿もティキ達の姿も良く確認出来る。ルクス達はティキとリディアが何やら話し合ってるのを見て、この場を少し離れることにしたのだ。




 一方ティキは新しい月の産物を手に持ち、オームの方に構える。ティキ達の遥か前方、真正面にオームはいる。


「リディア、いつでもいいぞ。全開で飛ばせ」


「オッケー、じゃあ行くわよ」


 そう言うとリディアはリバティーのスロットルを思いっきり回す。スロットルが全開となったリバティーの出力は瞬時に最大となり、その出力より生み出されるエネルギーは推進力となってエンジンのタービンを回す。廃棄された熱は排気道を伝い、リバティーの両脇に付けられたマフラーより排出される。それら一連の動作を持ってリバティーは人間には到達不可能な速度まで急加速する。


 加速したリバティーは、風を切り、空気を避け一直線にオームのいる場所へと突進する。それを見ていたアイシスは驚いた。


「アイツ等、ただ単に正面から突っ込んでるだけじゃないか! 馬鹿にも程があるぞ!」


「僕は、たぶんそんなことだろうと思ってましたけどね」


 ルクスが横からポツリと言う。


 ティキ達の正面にいるオームもただ黙ってティキ達が突っ込んでくるのを見てはいない。口元に青い光を集中し始めると、それを向かってくるティキ達に向かって放つ。青い光は二つに分裂し、ティキ達の方へと向かう。


「リディア、来たぞ」


「分かってるわよ。アンタは黙って集中してなさい」


 リディアは向かってくる青い光を視界で捉えると、青い光の軌道を読みきり、リバティーを器用に回転させ、旋回させながら避ける。元々の加速に旋回の重力が加わり、ティキにもリディアにも負担が掛かるがそれでもリディアは止まらない。


 だが、リディアに避けられた青い光は方向を変えると再びリディア達の元へと向かってくる。リディアは青い光に背後を取られたのだ。ルクスの時に証明されていたが、青い光は追尾する能力を有している。リディアもそれは承知済みのはずであった。


 青い光に追いつかれまいとリディアはリバティーの加速を緩めない。オームはそれを見て再び口元に光を集中する。今度のはティキのリバティーを破壊したオレンジ色の光だ。オレンジ色の光は追尾能力こそないが、青い光よりも威力が大きくまた直線の加速は早い。


 オームはオレンジ色の光を放つ。それは正面にいるリディア達の元へと一直線に向かう。リディアは後ろから来る青い光と前から来るオレンジ色の光に挟まれた。だが、それでもリディアは加速を緩めない。リバティーの加速とオレンジ色の光の加速、二つの距離が縮まる距離は相対的に加速される。


 オレンジ色の光を目の前にした瞬間、紙一重という距離でリディアはリバティーを急激に上昇させる。上昇され目標を失ったオレンジ色の光は必然的に、リディア達を追ってきていた青い光とぶつかり激しい爆発を引き起こした。


 なんとか二つの攻撃を避けきったリディアは、ある位置まで上昇すると今度はリバティーを逆さに向け、落ちるように加速しオームの方へと向かう。その加速は重力の助けもありリバティーの限界速度を遥かに超えていた。この速度では方向転換などできはしない。全ては目の前にいるオームを倒すため、リディアは恐れることなく全てをティキに託す。


 二つの攻撃を避けられたオームは、翼を一度大きく羽ばたかせる。そして、翼の方向を一定に固定すると、リディア達の方を向く。そして、口を大きく開け光を集中する。オームが口に集中している光は赤い光だった。ディセルパス国を一撃で破壊した最大威力の攻撃。人間なんかがまともに食らえば影も残ることはないだろう。だが、ティキ達は臆すことなく向かう。


 オームは、口元に赤く大きな光を集中し続ける。ティキ達がついにオームを射程内に捕らえる。しかし目の前には赤い光が集中され今にも解き放たれようとしていた。


 ティキは加速したリバティーの上で剣を構えると、力いっぱい握り締めた。


「オーム! これで終わりだっ!!」


 銀色の光を放ちながら大きく肥大した月の産物は、オームの放とうとした赤い光を捉える。その瞬間、辺りに衝撃波が起こる。ティキの持つ月の産物とオームの赤い光のエネルギーが巻き起こした凄まじい威力。


「ぐ……う……んんんんっ!」


 リバティーの加速と、星の重力そして新しい月の産物の力が加わった攻撃をオームは耐えしのいだ。だがティキも負けてはいない。まだオームは赤い光を口元に集中したままだ。


「しつけぇぇぇ!」


 その光景を見ていたルクスは思わず口から言葉がこぼれる。


「まずい、あのままでは……」


「ああ、あそこであの光が開放されればティキは粉々だろうな。ここにいる俺達もな」


「……! ティキさん」




 まだティキ達の攻撃を耐え忍んでるオームは底力を見せ始める。それは人間とオームの元々の地力の違いだろうか。そのパワーでティキを押しのけ始める。ティキは少し押されながらも決して攻撃を止めようともしない。歯を食いしばり、必死になって踏ん張る。


 ティキは赤い光を目の前にし、死ぬかも知れない状況の中で無意識に感じることが出来た。それは月の産物の意志とでも言うのだろうか。それとも人の心に呼応する月のカケラの性質がそうさせたのだろうか。ティキはその耳にやさしい声を聞いた。


 その瞬間ティキに力が戻る。そして、ティキはオームの背丈ほどある巨大な月の産物を一点に集中し始める。銀色の光はより強く強く輝く。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 ティキの雄たけびにも似た叫びが、きっかけとなったのかその瞬間、オームの赤い光を突きぬけ、その先にいるオームの頭部にティキの一撃が放たれる。


 激しい衝撃と爆音を放ちながらティキ達はオームを突き抜けオームの背後に出る。オームが放とうとした赤い光はその輝きを失い消滅し、オーム自身も頭ごと吹き飛ばされ、司令塔を失った身体は大きな翼を羽ばたかせることなく、そのまま地面へと落ちていく。


 リディアはリバティーを制御しようとしていたが、その凄まじい威力に耐えられなかったのか制御を失い二人は地面へと激突した。だが、幸いにも瓦礫がクッションとなり大事には至らなかった。オームの身体もサガルマータへと激突し、完全にその動きを停止した。


「ティキさん!!」


 離れた位置でその光景を見ていたルクスとアイシスがすぐにティキの元へと駆け寄っていく。ルクス達の遥か先で瓦礫の一部が動く。瓦礫の中から出てきたのはリディアを肩に抱えたティキだった。


 ティキは地面へと激突したオームの方を見る。完全に息は上がっていて、すでにフラフラだ。それでもオームの方を凝視し、ティキは大きく息を吸い込む。


「……っ!! っっ勝ったぞぉぉぉぉ!!」


 ティキはガッツポーズと共に再び倒れて、意識を失った。


「ティキさん。大丈夫ですか! ティキさん!」




 一方、頭部を破壊されサガルマータに激突したオームの身体は、小さな月のカケラの粒子へと変化していき風に流されて方々に散っていった。太陽の光に当てられて月のカケラの粒子はキラキラと輝いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る