Act33:進化した月の産物

 ティキとリディア、ルクス。そして巨大なオーム。彼らの空を舞台とした戦いが今まさに激戦を繰り広げようとしていた。


 先陣を切って飛び出したルクスはティキ達よりも先にオームの元へとたどり着く。オームを攻撃の射程へと捕らえたルクスは、オームへ月の産物である”リーゼ”の攻撃を浴びせる。リーゼは、ルクスの片足に着けている月の産物で、全力で蹴ればその破壊力は小型ミサイルの一発にも相当する。


 ルクスの蹴りはリバティーの速度と重なり、相当重くなっていた。それは、オームの後頭部を直撃した。ルクスはそのままオームの正面に出る。オームの方を見ると、まるで効いていないようだった。単に鈍いだけの可能性もあるが、それはすぐに否定された。ルクスは、オームと目が合う。


 そう、ルクスの攻撃はオームに多少なりとダメージを与えたのだ。そして、オームはルクスを標的と捕らえた。ルクスはオームと目が合った瞬間、それを察知した。


 その瞬間、ルクスはリバティーを方向転換し、アンクレストへと一直線に降下する。オームもルクスの後を追い、アンクレストへと向かう。


 正面からその光景を見ていたティキ達はルクスが作戦を成功し、アンクレストに向かっていると見て、自分達もオーム後を追うような形で、アンクレストへと向かう。


 その時、オームの口元に再び光が集中する。今度の光は青い光だった。それに気が付いたティキはルクスに向かって精一杯叫ぶ。


「ルクス!! オームの攻撃だ! 避けろーっ!!」


 その声が届いたのかルクスは後ろを振り向く。オームはルクスの方へと飛びながら、口に集中していた青い光を放った。それは、今まで見たどの攻撃よりもスピードが速かった。それは明らかにリバティーよりも早いスピードだった。


 ルクスはその光を避けるために、リバティーを旋回させる。旋回したリバティーは青い光の横を飛んでいく。青い光はそのままアンクレストへと飛んでいくかと思われたが、そうではなかった。青い光は方向を変え、再びルクスの方へと飛んでいく。それに気が付いたルクスは旋回を繰り返しながら、なんとか回避をしようとするが、青い光はどこまでも追跡する。


 ルクスは青い光に気を取られ気が付くのが遅れた。ルクスの目の前にはオームによって破壊された建物の残骸が立ちはだかる。紙一重でそれをなんとか避けたルクスは、建物の横をスレスレで飛ぶ。ルクスを追いかけていた青い光は、建物の残骸を避けることは叶わず、ぶつかると爆発を起こして消滅した。


 一方、間一髪で建物の残骸を避けたルクスだが、急激な旋回に耐え切れなかったのか、その後リバティーは操縦を受け付けず、地面へと吸い込まれるように墜落した。


「ルクスっ!!」


 それをオームの後方から見ていたティキは叫ぶ。


「くそっ。アイツ一体何種類の攻撃を持ってやがる」


 ルクスを追うのをやめたオームは再び破壊したディセルパス国の上空へと舞い戻る。


 だが、ルクスはまだやられてはいなかった。怪我をしてはいるものの、瓦礫の中から這い上がると、リバティーを建て直し再び飛び立とうとする。その時ルクスを呼ぶ声が聞こえて、ルクスはその方向を見る。そこは、ディセルパス国とイルマシア国を繋ぐ橋の先端。そこに立っていたのは、アイシスだった。


 一方、空を舞っていたオームだが、偶然にもティキ達の存在に気が付き、ティキ達のほうを見る。幸か不幸かティキ達は動かずに、ティキ達がやろうとした作戦を達成できる準備を整えた。だが、ひとつ言うなら先手を取ったのは間違いなくオームであったことに疑いようはない。


 ティキ達の存在を確認したオームは大きな翼を広げ、上空から滑空するようにもの凄いスピードでティキ達の元へと迫る。それに気が付いていたティキ達はすぐにアンクレストへとリバティーを進めようとしたが、先手を取られた痛手からか一歩間に合わず、このままでは確実にオームに捕らえられてしまう確信があった。


 そのためティキはアンクレストへと向かわず、リバティーの操縦をリディアに託すと、リバティーの上に立った。


「ティキっ! なにを……」


「ふん、殺れるもんなら殺ってみやがれオーム!! 俺は引かねぇぞ!」


 オームは、ティキの言葉など理解していないだろう。ただ邪魔者を排除する、ただそれだけのためにティキに襲い掛かる。そして、オームの攻撃がティキを捕らえる射程内に入った瞬間、オームとティキの間を何かが通る。だが、オームは攻撃を止めない。そのままの勢いでティキに鋭い爪を立て襲い掛かる。


 ――その瞬間。この場は銀色の光に包まれた。


 そして、次の瞬間オームは自身が破壊したディセルパス国へと叩きつけられていた。オームが叩きつけられた後からは砂埃が舞い上がる。その砂埃の先端に広がる青い空、白い機体リバティー、そして眩い銀色の光を放つティキの持つ――月の産物。


「……っ」


 ティキは驚きのあまり声が出ない。今オームの攻撃の瞬間、ティキとオームの間を通ったのはルクスが投げたティキの新しい月の産物だったのだ。その月の産物は眩いまでの銀色の光を放っている。それは静かだが、力強さを内に秘め、そして圧倒的な威圧感を持っていた。月の産物を手にしているティキにはそれがはっきりと分かった。


「これが、新しい月の産物……」


 ティキは月の産物の美しい銀色の光に目を奪われていた。月の産物はティキの呟きに反応するように呼応し、その輝きを増す。そして、ティキは心の中でなにかを確信する。


「リディア、俺を信じれるか?」


「え?」


「オームを倒す。少し無茶するけど協力してほしい」


「……無茶するのはいつものことでしょ。それに、あたしは言ったはずよ。あたしの命はアンタに預けるからアンタがしっかりあたしを守ってってね。それは信頼の証にならない?」


「そうだな。じゃあ、今から俺が言うことをしっかり聞いてくれ」




 ティキに月の産物を投げたルクスは、近くまで来ていたアイシスを守るためにアイシスの近くで待機していた。


「あれが、ティキさんの新しい月の産物ですか」


「ああ、持ち主が手にすることでより輝きを増したようだな」


 ルクス達がいるのは橋の近くなのだが、そこからでも十分に月の産物の輝きを確認できる。アイシスはその月の産物の輝きを見ながら、少し疑問を抱える。アイシスの顔を見たルクスはアイシスに尋ねる。


「どうしたんですか?」


「……いや、なんでもない」


 アイシスは、心の中に疑問を閉まった。今、その疑問を投げかけたところでどうにもならない。それよりも大事なのは、月の産物の力をティキが十二分に引き出し、オームを倒すことが出来るかどうかである。


 ルクスとアイシスはティキ達に注目する。


 一方、ティキの月の産物に弾かれたオームは、瓦礫の中から這い出てくると、再び大きな翼を羽ばたかせると、宙に浮く。そして、ティキ達の姿を確認すると、大きな雄たけびを上げる。それは、隣国であるイルマシア国はもとより、それ以外の近隣の国々にまで聞こえるのではないかと思うほどの雄たけびであった。


「ちっ、うるせーな。リディア準備はいいか?」


「オッケーよ。それにしてもほんっとに無茶させるわね。分かってるの? チャンスは一度きり、失敗したらあたし達は死ぬんだからね」


「死なねぇよ。俺はこいつを信じてる。手にすると分かるんだ。こいつの物凄い力が……」


「だったら、全開で行くわよ」


「おしっ! 行くか!」


 ティキとリディアはオームの方へと向き直し、体勢を整える。またオームも攻撃の態勢を整える。

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