Act32:天空の戦い

 突如、サガルマータに現れた巨大オーム。そして、突如放たれた閃光。その直後に訪れた凄まじい衝撃。それら全てがこの世界の誰にとってもはじめてのことであり、今後歴史に残る出来事であることは否めなかった。


 ティキは吹き飛ばされはしたものの幸い、家の瓦礫がクッションの役目を果たしたため大事に至ることは無かった。


「くそ、くそ……」


 ティキは再びリバティーの元へと走る。


「おい、なんだ今の衝撃は!!」


 突然店から飛び出してきたのはアイシスだった。アイシスは目の前に倒れているルクスに気がつく。どうやら先ほどの衝撃で吹き飛ばされたようだ。


「おい、大丈夫か!?」


「よかった、アイシスさん無事だったんですね。大変です。オームがサガルマータに……」


「オームが?」


 アイシスは、すぐにソレに気がついた。そのオームはあまりにも巨大であり空に浮いている為、裏路地に位置するこの場所からでも容易に確認出来たのだ。


「小僧……ティキは!?」


「ティキさんは、あのオームを食い止めに行きました。僕もすぐに向かいます」


「馬鹿な、奴は月の産物を持っておらんではないか」


 アイシスは一瞬、考え込んだがすぐに思い立つ。


「月の産物を早急に完成させる! ルクス、貴様は急いでティキの援護に行け!」


 そう言うと、アイシスはすぐに店の中へと入っていった。ルクスは体制を立て直すと、すぐにリバティーのある場所まで走って行った。


 一方で、ティキはリバティーを置いてある場所にたどり着いていた。先ほどの攻撃で、リバティーもやられている可能性はあったが、幸い横転しているだけで動かすことはできた。横転しているリバティーを立て直すとすぐにリバティーにまたがり、エンジンをかけ、すぐにスロットルを全開にした。二つの噴出口から凄まじい勢いで煙が噴出し、その推力でリバティーは一気に空へと駆け上がった。


 オームは破壊したディセルパス国の上空で翼を羽ばたかせ静止している。どうやら先ほどの攻撃はオームにとっても多少なりと負担となるようだ。それもそのはず、あれほどの威力の攻撃を放ちなんの負担もなければ、反則技に近い。


 ティキはリバティーを全速力で走らせ、オームに近づいていく。ティキは今までそんな余裕もなかったので、気が付かなかったが、近くで見るとそのオームの巨大さがよく分かる。いつもティキがアンクレストで相手をしていたオームの軽く5、6倍はあろうと言う大きさだ。ティキ自身もここまで巨大なオームを見るのは始めてだった。加えて今、ティキは月の産物を持っていない。そんなティキに出来ることは最初から決まっていた。ティキに出来る唯一のことそれは、オームの意識を自分に向けさせ、一刻も早くアンクレストへと引き込むほかなかった。


 なんらかの方法でオームの気を引くことが出来れば、オームは自分を追ってアンクレストへと向かうかも知れない。そして、ティキのリバティーには幸いにも5つほど発火弾が積んであった。こんな小さな発火弾、しかも元来、人に危害を加える用でもない。人に使った所で、多少驚く程度だ。それをこんな巨大なオームに使った所で気が付きもしない可能性もある。


 だが、今のティキにはコレを使う以外の方法はなかった。ティキは発火弾を片手に持ち用意すると、片手で起用にリバティーを操作して、オームに出来るだけ近づこうとする。オームは巨大さ故に、リーチが長い、加えてさっき放った攻撃もある。下手に懐に潜り込めば、危険だ。


 リバティーの旋回性能をフルに使い、オームの足元付近から背中の横スレスレを通り、顔の近くで発火弾を投げる。これが一番、確実にオームに近づける方法かも知れない。そう思ったティキはリバティーを操作し、オームの足元を目指す。


 オームの足元にうまく潜り込んだティキはそのままリバティーを上空に向け、オームの背中スレスレを飛んでいく。さすがにこれだけ巨大だと足元から顔までも少し距離があるが、あと少しで顔に着く。ティキが発火弾を投げる準備をし腕を上げた瞬間、オームがティキの方に身体ごと向く。背中スレスレを飛んでいたティキは、そのオームの行動を回避することが出来ず、リバティーとオームの翼が接触した。接触したリバティーは接触部から火花を放つと、ティキを乗せたまま反転する。


 ティキは、仰向けになりながらもオームの位置からは目は放さなかったが、発火弾を投げる準備をしていたことに気が付き、瞬時に発火弾を投げる。だが、発火弾を投げるのが少し遅れたため、発火弾はティキの目の前でクルミが割れたような音を発しながら全てが弾け飛び、小さな炎を灯しながら粉々に砕け散る。ティキは、とっさに両腕で顔を守ったが、オームと接触したリバティーはティキごとそのまま地上に落ちていく。


「く……そ」


 ティキは体勢を立て直すと、リバティーのハンドルを握りリバティーの体勢をも立て直す。リバティーと共に体勢を立て直したティキは上空にいるオームを見る。オームは平然と優雅に上空を飛行している。すると、小さなオレンジ色の光がオームの口元に集まっていく。さっきの時のように奇怪な音はないが、ティキは不安を感じていた。


 オームは、突如口からその小さな光を破壊したディセルパス国へと向けて放ち始めた。何発も何発も……それは放たれる。威力はそれほど大きくはないが、破壊された建物がさらに破壊され、このままではいずれ土台ごと破壊されてしまうだろう。


 そして、その内の一発がたまたまオームの下にいたティキ目掛けて放たれる。ティキは、急いでリバティーを操作して離れようとするが、オームと接触した時に受けた傷の影響なのか、リバティーは言うことを聞かず、動くことはなかった。


 だが、オームの放った一撃は確実にティキの元へと向かってくる。ティキは一瞬迷ったが、リバティーを乗り捨て遥か上空から空中へと回避することにより、オームの一撃を避けることが出来た。リバティーはオームの放った光と共に、サガルマータまで落とされ爆発した。空中でそれを見ていたティキだが、このままでは自分もサガルマータに叩き付けられてしまう。なにも出来ずに終わることにティキは悔しがった。目の前にいるオームにたった一発もダメージを与えることも出来ず、ディセルパス国は破壊され、リバティーも破壊され、自分も地面に落ちて死ぬ。


 ティキは、決してオームから目を離すことなく地面へと落ちていく。


 すると、ティキの目の前をなにかが通り過ぎた。その瞬間ティキの身体は浮遊感に満たさせる。


「え?」


「ふぅ、セーフ。大丈夫? ティキ」


 それはリバティーに乗ったリディアだった。リディアはティキを助けるとそのまま、オームの周りを旋回しながら飛ぶ。


「リディア? なんでこんな所に?」


「ティキに緊急の用事があったんだけど、プレシデントさんに聞いたらルクスと一緒にイルマシア国に行ったって聞いたからすぐに追ってきたの」


「用事?」


「うん、でもどうやら今はそれどころじゃないみたいね。どういった状況でこんなことになってるのか分かんないけど、普通じゃない事態が起きてることは分かるよ。どうやら周りを見渡す限り、さっきの凄い音も噴煙もアイツの仕業みたいね」


 ティキとリディアはオームの姿を確認する。


「リディア、なんとかアイツを引き付けてくれ」


「え?」


「ディセルパス国を破壊したあのオームが次に破壊するとすれば、隣国のイルマシア国だ。奴の気がイルマシア国へと向かないうちにこっちに注意を引き、そのままアンクレストまで逃げる。そしてアンクレストで奴を仕留める」


「仕留めるってなにか方法はあるの?」


 ティキは何も答えない。月の産物を持たないティキが、現状あのオームに勝つ術などありはしない。それは先の戦闘でも十分実証済みだ。だが、このまま放っておけばイルマシア国が破壊されるのも時間の問題だ。


「ティキさーん!」


 その時、遥か後方からティキを呼ぶ声がした。それはルクスだった。ルクスも自分のリバティーに乗り、ティキ達の援護にやってきたのだ。


「あれ? リディアさん? なんでこんな所に?」


「ルクス、説明は後だ。それより聞いてくれ。あのオームをなんとかアンクレストに引っ張りたい、ルクスはオームの後方から、リディアには正面から近づいてもらう」


「正面から?」


「ああ、俺のリバティーはオームに破壊された。だからリディアのリバティーを俺が操縦するから、リディアとルクスは二人でなんとか奴の気を引いてくれ。とにかく攻撃するしかない。奴がこっちに気を取られるまで」


「今は、それしかないみたいですね。行きましょう」


 ルクスは先陣を切ってオームの後方に飛び出した。


「ティキ、あなたの月の産物は?」


「今はまだない。今は完成を急いでもらってるはずだ」


 ティキとリディアは目が合う。


「じゃあ、操縦は頼んだわよ。あたしの命アンタに預けるからね」


「ああ」


 ティキはリバティーを吹かすと、オームの方へと飛ぶ。


 オームは、後方から来るルクスと正面から来るティキ達との間を優雅に飛翔している。

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