Act19:共同討伐依頼

男は椅子に座り一息つく。その時その部屋の扉を叩く音が鳴る。


「連れて来ました。入りますよプレシデント」


 そう言って入ってきたのはリディアだった。リディアの後ろにはティキがいる。


「まったく、最近ここに来ることが増えたな。せっかく寝てたのに」


 ティキが愚痴を言いながら部屋へと入ってくる。


「寝てたってあんた寝る以外にすることないの?」


「仕方ねぇだろ。依頼なかったら暇なんだし寝るぐらいしかやることねぇし」


「だったら、今回の話はちょうどいいかもよ」


「だから、その話ってなんだよ」


 ティキとリディアのやりとりを見てたプレシデントが立ち上がる。


「その話は私からしよう」


 その言葉にティキもリディアもプレシデントのほうを見る。


「ティキ。君がそうであるように我々の目的である月の復活。それを行うために国では様々な研究、調査を行ってきた。だが正直なところまだほとんど分かってはいない……というのが本当のところだ」


 プレシデントは再び椅子へと座る。


「だが、とりあえずとしか言いようがないのだが分かってきたこともある。それは、月の復活にはどうやってもやはり大量の月のカケラが必要だと言う事だ」


 ティキがプレシデントの話に割って入る。


「ちょっと待てよ。あんたも分かってるだろ? 月のカケラはそのほとんどが長い年月で粒子化し地上を覆っている。純粋な月のカケラの原石なんか広いアンクレストを探し回っても三つか四つ見つかればいいほうだ」


「そう。月のカケラの原石などもうほとんど存在しない。だが、月のカケラを得る方法は他にもある」


 今度はリディアが話しの間に割って入る。


「それが、オームよ。オームはティキも知っての通り月のカケラの粒子が集まって出来る生命体。ある程度ダメージを与えればその収束が維持できなくなって再び粒子化する。でも極稀に粒子化せずに集まった月のカケラがそのまま月のカケラの原石となるときがあるの」


「そうなのか、それは知らなかったな。けど、どちらにしろ確立的には低いんだろ?」


「けど、アンクレストでただ月のカケラを探すよりもよっぽど現実的な確率よ」


 今度はプレシデントが話に入ってくる。


「さらに我々の調査でここ最近になってアンクレストでのオームの出現率が、格段に上がってることが分かってきたのだ。つまりその分オームから月のカケラが得られる可能性も高くなっている。そこで我々は、同盟国と共にある作戦の実行を決めた」


「ある作戦?」


「それは共同討伐依頼だ」


 再びリディアが話に加わる。


「いままであたし達はアンクレストに行って偶然オームに遭遇でもしない限り極力オームとの戦闘は避けてきたでしょ? それとまったく逆のことをするってこと」


「つまり、積極的にアンクレストに行って積極的にオームを倒すってことか」


「そういうこと」


「でもそんなの誰がいくんだ? アンクレストはすげぇ危険だぞ。少なくとも月の産物を持ってなきゃ厳しいだろ?」


「だから同盟国と共にって言ったじゃない」


 再びプレシデントが入ってくる。


「同盟国にいる月の産物の所持者全てに対する依頼だ。ただしティキの言うとおり命がけの危険な任務だ。それなりの見返りも用意するつもりだ。依頼を受ける者には今後の生活保障に加え、得られた月のカケラは高額での買い取りをするつもりだ。もうすでに何人もの者がこの依頼を受け動いている」


「なるほどな」


 ティキは少し沈黙する。そして一人でつぶやく。


「じゃあ、アンクレストに行く機会が必然的に増えることになるわけか」


 再び沈黙する。


「プレシデント。ちょっと聞きたいことがあるんだが……その、出来たらリディアは席をはずしてくれないか」


 そう言ってリディアのほうを見る。ティキのいつもと違う声の雰囲気を感じ取ったのか、リディアは返事をして素直に部屋を出て行った。ティキはリディアが部屋から出るのをしっかり確認していた。リディアが部屋を出たのを確認すると再びプレシデントのほうを見る。




「さて、この間のことリディアから報告は受けてるよな?」


「アンクレストにいた少女と知能を持つオームのことか? 受けているよ」


「俺たちがアンクレストに行くことが増えれば、今後同じような状況に遭遇しないとは言い切れない。もし、同じような感じで遭遇したらどうするんだ?」


「知能を持つオームに関しては普通に討伐してくれればいい。知能を持つとはいえオームには変わりない。月のカケラより出来た少女については、お前も知ってるだろう? 前例はある」


「ああ、知ってるさ。月のカケラより出来た人間。つまり”月よりの使者”。けど俺が知ってるのは人工的に出来た月よりの使者だけ。まさか自然にも出来るとは思いもしなかった」


「それは我々も同じだ。君には悪いが、月よりの使者は神の冒涜。ただの真似事に過ぎない大きな過ちだ。もう二度としないと誓ったことだからな。自然にとは言え二人目が出来たことは予想外だった」


 プレシデントは立ち上がり、窓のほうへと歩いていく。ここはかなり高い場所なので外の景色がよく見える。街を一望できるのだ。


「確かに今後もそのようなことがないとは言い切れない。だが、その時の対処は遭遇した本人に任せようと思う。自然の英知。我々が干渉してよいことではない」


「その子が言ってた。星が人間を知ろうとしてるって。大きな罪を犯した人間の心を知ろうと」


 プレシデントはなにも答えない。ティキもしばらく沈黙していたが再び口を開く。


「……分かった。依頼は受けてやる。ただし、生活保障はいらない。それじゃあ俺がここから出て行った意味がないからな。月のカケラが手に入った時だけ買い取ってくれればいいさ」


 そういい残すとティキは部屋を出て行った。プレシデントはそんなティキの姿を見ていた。ティキが出て行った後再び外を見る。


「月よりの使者……か」








「確かになかなか面白そうですね」


 どこからともなく声が聞こえる。


「盗み聞きとはあまりいい趣味とは言えんな」


 声はプレシデントの背後から聞こえるようだが、プレシデントは外を見ながら言う。


「そう言わないでくださいよ。だって気になるじゃないですか。どんな人なのか」


「ふ、心配しなくても大丈夫だよ。彼なら君の”相棒”にちょうどいい。まぁ好きにすればいいさ。きっと気に入るよ」


「ええ、もちろんそうさせてもらいます」


 その言葉の余韻が消えると共に、その部屋にあった声の気配も消えた。

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