2人それぞれの役割
キャンプに集まる人々の目に止まらぬようそっと影に移動してから地図を広げる。
それらを覗き込むためユースピリアと翔は身を寄せ合った。
「こっちが街と水路で、そっちが王宮の地図だな。古いが目安にはなるだろ」
2人で広げたそれぞれの地図は「古い」という彼の言葉の通り茶色く日に焼けており端々に小さな破れが見受けられる。
状態は良くないが悪過ぎる訳でもないのでまあ構わないだろう。
地図としての役割は果たせている。
「……いつも思うんだがどこで手に入れてるんだ?」
洞窟やら遺跡やら。向かう先々で気付くと地図を広げている翔だがどこで得たものか、ユースピリアは大抵の場合、知らないままに終わる。
それもそのはずで、翔の持ち物は半数以上がユースピリアが生まれるより前の時代——。
プレドマに搭載された人工知能によって演算された栄華と衰退。
同じ文化レベルで似て非なる運命を描く物語。
プレイヤーであるが故に【死】の概念から隔離されている翔は実質的な不死と不老の体を有している。
戦闘で再起不能になってもセーブ地点からコンティニューすればいい。
そうやって、繰り返し繰り返される時間を、何百年という時の流れの中を生きていれば、当時は現役だった建物が遺跡になったり、形そのままに残された洞窟に物だけが新たに運び込まれていたり。
まあ色々とあるもので。
しかし、それをこの場で語るのは興醒めもいいところ。
そっと視線を逸らして曖昧に誤魔化しておく。
話題を侵入経路に戻せばユースピリアは追求して来ない。
「地下道を進むとここに出て……宮殿に入るには……ここ、だな」
地図を指で辿る。
「かなり入り組んでるな……。この地図、どこまで信用できる?」
「あー。割と年数経ってっからな」
真剣な目をした相棒からの質問に首裏へと手をやりながら考える。
どこまで信用できるか……。
現役の建物が遺跡へと変わる横で、新築、増築は繰り返されていて、持っている地図が使い物にならなくなるということもままある。
地方にある城なんかは特にすぐ打ち捨てられてモンスターの住処に変わるし、デカイのが住み着くと討伐隊が組まれて事のついでに取り壊される。
王宮のように国のトップが使用する建物は割と長く使われるので足を運ぶたびに新しいものを求めないといけないなんてことはないが……。
年数が経つと前にはなかったギミックが当たり前の顔をして道を塞いでるんだよな……。
建て直されたという噂を耳にした覚えはない。
それはリュンクスの滅亡と新国家の誕生を意味するものであり、現状ではまだ先の話だろう。
補修工事など細々した変化までは分からないが基礎は変わらないはず。
しばらく悩んでから翔は「7割」と答えた。
「7割あるなら平気だ。道は任せてくれ」
「さすがユリア」
頼もしい。
ニヤ、と笑えば彼女も賊らしい不敵な笑みを浮かべた。
「カケルは鼻が利かないからな」
「利かない訳じゃない。ただちょっと照らし合わせるのが苦手なだけだ」
「はは、まあそういう言い方もあるよな」
そういう言い方も何も本当のことだ。
実際に歩いたことのある道は覚えているし記憶と違えば違和感を覚えもする。
ただ、地図でしか見たことのない場所では照らし合わせて考えて相違点を見つけ出すとか、隠された道を見つけ出すとか、そういうのが苦手なだけで……。
大方覚え終わったらしい。
くるりと丸めた地図をユースピリアが差し出してくるので受け取る。
夕飯にしよう。
今日は砂漠で仕留めたワニ型モンスターの肉がある。
詳しい話はまた後で。
侵入経路を確認して話が現実味を帯びてきたからかやたら機嫌がいい。
鼻歌交じりの相棒に翔は肩をすくめてみせてから地図を仕舞った。
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