クラスメイトの優男
授業の終了を告げるチャイムの音で翔は目を覚ました。
ぼやける視界を閉じたり開いたり。
まばたきを繰り返すことで整える。
それとなく周囲を伺えばどうやら幾度目かの計測のため授業は延長されたよう。
クラスメイトたちの忙しない手の動きが止む気配はない。
……まだ眠いのだが。
途中、作成した回答を提出するために起きなければならなかった数分間を除けば、ほぼ丸々1限、寝ていた頭は幾分かすっきりとしていた。
それでも払いきれなかった睡魔は日頃のツケか慢性化した睡眠欲、どちらを起因とするものか。
再び沈みそうになる意識をなんとか保つ。
……うつらうつらと。
8割方2度寝に足を突っ込んだところで片町が「仕上がった者は印刷に掛けて帰ってよし」と言うのを聞いた。
仕上がれば、印刷に掛けて、帰ってよし。
ぱちり。
言葉の意味を理解すると同時に落ち切っていた瞼を開いてデータの処理を終わらせる。
元々、再構築を自動で行うよう設定していただけで問題は解き切っているのだ。
回答をプリンターに転送して印刷にかける。
またたく間に終わらせた処理とは対照的にゆっくりと立ち上がった翔はコントローラーのスイッチを切って耳から首元へ。
本体と許可証を回収する。
さっさと教室に戻ろう。
寝る為に。
次の授業は何だったか……。
思い出す必要があるかも分からない時間割に思考を向けつつ足を動かしたところで片町に呼び止められた。
「信山、問題は解けたのか」
あからさまに顔をしかめた翔はそのままの表情で振り返る。
「……印刷されてる筈ですけど」
「それはおそらく僕のだよ」
横から別の声が割って入ってきた。
振り返ると丁度立ち上がったところらしい男子生徒と目が合う。
ふわふわと茶髪がウェーブした優男。
彼が声を掛けてきたのだろう。
…………名は、何だったか。
この場にいる以上クラスメイトであることは確かだ。
しかし、それ以上のことが思い出せない。
京介が居れば……。
自然な流れで相手の名前を呼んで知らせてくれたことだろう。
そういやあいつのこと待つの忘れてたな。
チラッと視線を向けて確認する。
プレドマを外してしまったので進行度合いは分からないが必死に手を動かしている辺りまだしばらく掛かりそうだ。
……よし。先に帰ろう。
「チャイムが鳴った時点で完成しているのは僕だけだった。名前付きで印刷されるんだ。下手な嘘はよしなよ」
「……別に嘘は吐いてない」
得意げな笑みを張り付けた顔が鼻に付く。
名前も分からないクラスメイトの言い分に翔は眉間のシワを深くした。
そんなすぐにバレる嘘を誰が吐くか。
チェックが入らない訳でもなければ後で呼び出しを受ける方が面倒だろう。
言うより見せた方が早い。
教室から出ようとしていた足をプリンターの方へ向け直す。
首元に手をおいた翔は全身の気怠さを逃がすようにため息を吐き出した。
印刷されたプリントを手に取る。
もちろん載っているのは自分の名前だ。
知ってた。
——と、タイミング良くモーター音が響いた。
少し待てば新しく印刷されたそれも手に取って目を通す。
表とグラフ、付随する数値……。
同じ問題で同じ結果になるよう処理するのだから当然だが翔のものと似通っている。
左上に記されたクラスと出席番号。
それから。
「……フジノハラ……ショウジュウ?」
名前を読み上げた翔は頭を捻る。
優男に振り返ると怪訝そうな顔をされた。
「あんたか?」
「俺は
「ああ。じゃあ合ってる」
プリントに表記されている名は『藤原照充』だ。
藤原をどうしてフジノハラと呼んでしまったのかは自分でもよく分からないが半分以上寝ぼけている頭なので仕方ない。
藤原照充。ふじわらてるみつ。
多分、明日くらいには忘れてるな。
「俺とあんたの2人分ある」
プリンターの上に2枚とも戻した翔は今度こそ誰に呼び止められることもなく情報処理室を出た。
一拍おいてクスクスと広まった忍び笑いに照充が顔を歪めたことなどは知る
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