ep.3

「お~い! 幸四郎! 今日はこれを喰おう!」


「おお。何だか知らないけど旨そうだな!」


 新地球に降り立ち、俺とリリベルは共同生活を始めた。

 小鳥のさえずりと太陽の光で目が覚め、顔を洗い、小川で魚を取ったり、森に入って木の実を取ったり、狩りをしたり。

 その時、その時で自由気ままな生活をした。


「リリベル。飯なんか喰わなくても生活出来るだろ? 何で食事するんだ?」


「それは幸四郎もだろ?」


「いや、俺は食事という行為が好きだからさ。元々、飯喰らいだし」


 リリベルは神様なので、何かを食すという行為を行ってこなかった。

 だから、最初は俺の真似事をしているんだと思って、何となく聞いてみた。


「人間はこうするんだろ?」


「まぁ、そうだな」


「だったら良いじゃないか!」


 正直、何が良いのか、何が悪いのか、よく分からんかったけど、その時の俺は聞き返すのが面倒だったからそこで話を終えた。

 そこで話を聞き返したり、もっと事態の大きさを把握してれば良かったんだけど。

 それからのリリベルはおかしな行動ばかり取るようになった。


 * * *


「じゃあ、俺、もう寝るわ」


「よし。リリベルも寝るぞ!」


 * * *


「歯でも磨くか」


「よし。リリベルも磨くぞ!」


 * * *


「俺が読んでいた本知らない?」


「リリベルが読んでいるぞ!」


 * * *


 とまぁ、俺がやる事する事すべてやろうとしてきた。

 何気ない行動や生理現象も楽しみながら行うリリベルの行動は神々の戯程度にしか俺も思っていなかったんだけどさ、数日前にリリベルが行った行動というか現象を見て、マズイと思ったね。


 その日も俺は太陽の光で目が覚めた。

 森から切り出した木材を使用し、平屋を作り、炊事が出来るように石材を加工し、炊事場や釜も作った。

 お城のような意匠性が飛んだ建築物も造れなくないけど、俺にはこれくらいの狭さが丁度良い。


 ベッドから起き上がり、居間に向かうと何やら良い香りがした。

 リリベルは最近、料理もするようになったから朝飯を作ってくれたんだと想像出来た。

 案の定、机の前には川魚の塩焼き、自家製の丸いパンと森で取ったブドウのような果実が並んでいた。


「幸太郎。早く食え。冷める」


「あぁ。分かっ......お前、誰だ?」


 背丈は俺と同じくらい、金色の髪は腰まで伸び、背中には羽が生えてて、一瞬誰だか分からなかった。


「この世界には私とお前しか居ないだろ? 寝ぼけているのか?」


 振り返ったリリベル。

 顔付きは幼かった頃に近く、特徴だった髪と碧眼の色はそのままでかろうじてリリベルだと分かったよね。

 体付きは完全に大人の女だったし、無駄に胸はでかく、足は海外のモデルのように長かった。


「どうしてそうなった?」


「起きたらこうなってた」


「神様って成長すんの?」


「さぁ、私も初めての事だからな。成長するんだなとしか言いようがない」


 うーん。

 神様にも説明がつかない事もあるんだな。

 だったら、聞いても意味ないし、俺はもうその話題を口にすることなく、現状をただただ受け止める事にした。


「あぁ。そうだ、幸四郎。ちょっといいか?」


「何? 今日は俺、釣りに行くからな。狩りはやらんぞ」


 大体、朝食時、リリベルから聞いてくるのは「今日は何をするんだ?」という質問。

 何年もこの生活をしていれば会話と言うものもパターン化してくるからね。

 ただ、今日は違った。


「子供が欲しいんだが」


「ほう。子供か.....。こ、子供か? 何の?」


「何って、リリベルの子に決まっているだろ。人間は子を生むのだろう?」


「お、お、おぅ......」


 目の前には子作り適齢期の女性、そして、俺は長いこと子作り適齢期だ。

 女性経験がなかったから女性は苦手だったが、リリベルとバトルしたり、暮らしたりする内に慣れていった。

 リリベルは純粋な子で、女性経験がないとかそういう細かい事は気にしない。

 というか、知らないだろうと思って、リリベルの望み通りにしてやった。

 先生が生徒と結婚するような罪悪感はあったけど、背に腹は代えられない。

 そう、自分に言い聞かし、俺は朝からリリベルと子作りに励んだ。



 ◇ ◇ ◇



 数か月後。


 人間の子供が産まれるまで10か月程度要するが、リリベルの出産は三ヶ月程度だった。

 未熟児が産まれると思いきや、産まれた子はビックリするくらいに健康体で、しかも、男と女の双子だった。


「おぎゃあああ!!!」

「おぎゃあああ!!!」


「お、お~。これが私の子か」


「リリベルと俺の子だ」


「そうか。そうだな。は私と幸太郎の子だな」


じゃない。名前を付けないと」


「名前? どうして?」


「うーん。どうしてだろうな。子供を生んだら名前を親が付けてやるんだよ」


「ほう。人間はそうするのか?」


「うん」


「......じゃあ、こっちの赤毛の子がロイス。銀色の透き通った瞳の子をブロスにしよう」


「ロイスとブロスか。良い名前だな」


 ビックリするくらいに幸せで、平穏で、このままこの時間が一生続けば良い。

 異世界に転生したことを後悔していた、以前の俺はもうそこにはいなかった。

 だけど......。

 だけど、幸せとはそう長くは続かない。

 物語には光の面もあれば影の部分もある事を忘れていた。

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