第4話「幼馴染も……」
白川純は僕の幼馴染。
同じ小学校、中学校、何度も同じクラスになった。
単にそれだけでなく、数えきれないほど遊び、馬鹿なことをやったり、時には言い争ったりと深く付き合ってきた。
高校も同じこの天聖館に進学した。
そして純もあの異変に巻き込まれた。
そして遠くに行ってしまった。
異変の当日。
僕は数えきれないほどの衝撃に見舞われつつもなんとか午前を耐え、昼休みに真っ先に二年F組の教室へと向かった。
F組には幼馴染の白川純がいる。僕にとっては最後の砦だ。
「すいません、純。白川純はいますか?」
F組の反応はさらにきつく、異物をみるようなあからさまな視線だった。F組の教室も女子高生だらけで、思わずたじろぎそうになった。
幸い純はいた。
「お、お前が純なのか?」
だが、純だと称してでてきたのはツインテールの少女だったのだ。
「ああ、オレだって純だよ。わからないか?」
そして少女の純が、ツインテールの片方のおさげをかきあげる。
幼さのある可愛い少女だ。子供のように顔は小さく、ふっくらとして、そして円らな瞳。だが、今そんなことに構う余裕はなかった。
「そ、そりゃ……わからないよ」
「まあ仕方ないか」
「純。お前しか頼りになる奴がいないんだ」
朝から混乱しっぱなしの状況を必死に伝えた。
手を合わせて懇願する。
「お、おう……わかったよ」
必死の剣幕が伝わったのか、純は頷いてくれた。
「純、悪い……。無理言って。本当にお前らが女になってるか見させてほしい」
僕と純は人目の立たない校舎裏に向かった。
「まあ、しょうがない。清久のためだ。本当なら服を脱ぐなんて嫌なんだけど、仕方ないな。でも大丈夫か? お前って、女が……」
「いや、大丈夫ではないけど、なんとか……」
百聞は一見にしかず。純の体を確認させてもらうことにした。
幼い頃からの付き合いで、お互いのことをよく知っているはずの男子高校生の純がどうなったかを――。
「大体なんだってんだよ、お前昨日なんでよりによって休んじまったんだよ」
「しょ、しょうがないだろ……昨日はずっと寝てたんだからさ」
「なんのためのスマホだよ」
「見てもわけがわからなかったよ」
純は服に手をかける。着ているものは今日他の生徒たちが来ているものと同じ制服だ。胸元にリボンの付いたブラウスに紺のプリーツスカート。
ボタンを外し、服を脱ぐためにシャツを捲り上げる。
「本当に皆、女になっているのかよ……」
「本当になってるよ?」
外見上は純も女の姿をしている。
「でもさ、一応最後の確認をしないとさ……」
「ま、清久になら見せたっていいさ」
最後のシャツを脱ぎ捨てる。
そして現れる女の下着。
「うわ!」
「わわっ! びっくりさせるな、清久」
お互いに叫び声をあげる。
「純! その下着どうしたんだよ!」
「いやー昨日、帰るときに早速駅前の百貨店で買ってきたんだ。どうだ? 似合うか?」
純は青色と花柄の模様の入った透けたブラジャーとショーツをつけていた。
(似合う。似合いすぎる。恐ろしいくらい――)
膨らみでできた胸の谷間と、それを押し上げるブラジャー。
ショーツはぴったりきれいに股間を包んでいて男を象徴するものなど影も形も無い。
体つきはふくよかな体型だが、括れた腰。
まぎれもない女の体だ。もはやこの学校が女子校になったのは紛れも無い事実。
最後の確認が終わった。そして――。
(そんな……)
今まで過ごしてきた世界が音を立てて崩れていくのがわかった。
「デパートに行くと店員がいろんなの勧めてくるんだよ。レディースのコーナーをうろうろしてると、いつの間にかすっと寄ってきてさ。スリーサイズいきなり聞かれて困ってさあ。まさか女になったばかりで知りません、なんて言えないしさ」
純は楽しそうに話す。
「しかも時間かかったんだよ。いざ選ぶとなると、これだってのが無くてふんぎりつかなくてな。女が買い物に時間かかる理由ってのがわかったよ」
純は、やたらと買った服装について語りだす。話がそれると思ったのだが、とぼけるわけにもいかないので話を聞いた。
「どうだ? ちょうど他からの意見も聞きたかったところなんだ」
ブラジャーの紐をつまみ、形を整えてからこちらを向く。
「まだこいつの着け方。慣れてないんだよな。昨日必死に練習したけどさ」
「に、似合うよ……。そこいらの女よりよっぽど……」
それは本当だった。こんな綺麗な女、そうそうお目にかかれない。
「本当か? 自分でも結構気に入ってるんだ、この体。昨日はこれ着てずっと鏡で自分の姿を見つめちまったよ」
褒め言葉に嬉しそうに笑う。その姿に胸がドキッとなった。
「純まで……」
だが高校で知り合ったばかりのような奴らだけでなく、幼い頃からの付き合いである純まで女子に変わっている現実を改めて突き付けられた。
「なあ、どうやって女になったのさ、そろそろ教えてくれよ」
「ごめん、それは教えられないんだ」
ぴしゃりと即答され、これ以上の追及を受け付けないという態度を取る。
他の生徒に聞いてもこんな感じだ。あるいは純なら真実を、と期待していたがそれは外れた。
「清久も大変だろ? お前だけ男のままなんだからな。実質女子校に変わっちまってさ」
「ま。まあ……不便は不便さ」
「まあ、心配するな、清久。俺も助けてやるからさ。別に俺たちの仲がそれで変わるって事はないから安心しろ」
「た、頼むよ」
僕にとって今は純だけが頼りだった。
「俺にまかせろって、清久」
純の「心配するな」の一言にいいようのない安堵を覚えた。
だが、この時から……既に純との間には何か見えない大きな壁があるように思えた。
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