第2話 事件の調査、精霊術士の本領発揮!



 最初にカナンが調査することにしたのは、素材が入っていた収納箱――というより、鍵と錠だ。


 鍵を四人から借りたカナンは錠で箱をロックすると、ガチャガチャと揺らす。


「本当にこれで空かないんですか?」


「そうだよー。スキルも魔法も効かないんだ。私が試してみようか?」


 斥候であるミアがスキルを使おうかと提案するが、カナンは首を横に振って断った。


「いえ、私は自分で試してみなければ気が済まないので私がやります」


「え? でも、カナンちゃんは精霊術士なんでしょ? 魔法はともかく鍵開けのスキルなんて持ってないんじゃ……」


「大丈夫です! 精霊さんお願いします!!」


 カナンの宣言とともに数体の精霊が一瞬で出現した。



「「「「…………」」」」



 だが、それを見た面々は言葉を失っていた。


 そこにいたのは精霊というよりも黒い衣に身を包んだ人――黒衣にしか見えなかったからだ。


 しかも、そのまま鍵に近づいた一人が鍵開けのスキルを使用する。


 どうやら、カナンの言う通りミアが使う必要は無かったようである。


 しかし、錠のロックが外れることはなく、箱は閉まったままだ。


 黒衣は首を横に振って、この鍵にスキルは効かないとカナンに伝える。


「では、今度は魔法も試してみてください。各種初級で構いません」


 カナンに言われた通りに黒衣達は簡単な魔法を次々と放っていく。


 これでも錠は壊れることなく、それどころか命中する前に打ち消しているような状態だった。


 本当にスキルも魔法も効かない錠のようだ。


 それを確認したカナンは黒衣に次の指示を出す。


「そのまま、周辺の調査をお願いします」


 コクリと頷いた黒衣達は、散開して箱そのものや安全地帯におかしな所はないか調べ始める。


「さて、精霊さん達に調査をお願いしたところで、皆さんの方を調べましょうか」


「いやいやいや!? その前に、あの黒いのはなんだよ!?」


 平然としているカナンに対し思わずツッコんだのはディレルだ。他の三人も同様なのか頷いている。


「何って精霊さんですよ?」


「もうなんかいいや……それより調べるっつっても何をだよ」


 あまりにも純粋に返されて黒衣の存在についてはツッコむのは諦めたのか、ディレルはどこかくたびれたように返事をする。


「皆さんが個人で持っている道具ですよ。パーティの収納箱なんかは調べているでしょうし、この錠を開けるのに使ったものが出てくるかもしれません」


 カナンに促された四人は自分の荷物を取り出していく。


「持ってるのなんて、これくらいだぞ」


 ディレルが取り出したのは、解体用の短剣、煙管キセル、火を起こす魔道具、酒瓶だ。


「はい、どうぞ」


 フィーアが取り出したのは、薬瓶、清潔な布、十字架、水を出す魔道具だ。


「私はこれねー」


 ミアが取り出したのは、投げナイフ、針金、ワイヤー、携帯ランプだ。


「僕はこんな感じですね」


 ジュードが取り出したのは、水筒、魔力結晶、予備の剣だ。


 どれも冒険者なら持っていておかしくないものだ。


 一連の道具を見たカナンはむむむと頭を悩ませる。


「ふむふむ……何か引っかかるのですが、一体何が……ん? 何か見つけたんですか?」


 考え込むカナンを現実へと引き戻したのは黒衣だ。


 見れば黒衣は地面の一箇所を指し示していた。


 そこは錠のついた箱が置いてあった周辺だ。


 遠目に見ているときは気にもとめなかったが、こうして見ると妙な違和感がある。


 そのまま、近寄ったカナンは周辺をペタペタと触る。


「これは……僅かに湿っている? 雨なんかこの迷宮では降っていないのにおかしいですね――はっ!?」


 そう言って立ち上がったカナンは大声で叫ぶ。


「分かりましたよ、この事件の謎が!」


「本当か!?」


「ええ、今から推理をお話しします。っと、その前に、精霊さんありがとうございました」


 黒衣達は一つ頷くと、瞬時にどこかへ消えてしまった。

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