シシトトへの手紙

私の大切な友だち シシトトへ


 こんにちは。夏が近くなってここはずいぶん暑くなってきました。暑さよりもまぶしさが少しだけたいへんです。

 シシトトの村はまだ朝晩は冷えるんだろうな。あったかいほうが好きと書いていたので、そっちも早く夏になるといいね。

 きっとまたおじいちゃんのお家で読んでいるんだと思うので、シシカさんにもどうかあたたかくしてお元気でと伝えてね。


 お手紙といっしょに送ってくれたミリクサの腕輪、気に入って毎日着けています。

 お誕生日の贈り物ありがとう! 

 いつもはお誕生日のお祝いも家族とするんだけど、島分けの旅が終わるまでお祝いはなしなので、シシトトからのお祝いとってもうれしかったです。


 腕輪にインクのにおいが染みているところもお気に入り。海に咲く、私たちが「ユウノスズ」と呼んでいる花のにおいがします。

 潮風の強い場所でも咲く本当に小さな黒っぽい花で、ほっとくと屋根いっぱいに生えてしまうから、大人たちはあんまり好きじゃないみたい。でもとても濃いみどりのにおいがするので私は好きです。

 蔦油のインクはその花を煮詰めたようなにおいがします。山にはない植物なのだろうけどなんで同じにおいがするんだろう? 不思議だよね。

 シシトトが筏之群に来た時に見せてあげられるように、こっそりどこかにユウノスズの花畑作っちゃおうかな。


 そうそう、網の目畑のことも調べてくれてありがとう。シシトトも知らなかったのはおどろきました。やっぱり谷くらい上になると山とはぜんぜん違うんだね。

 お祭りに行けたらぜひその事も手紙に書いてください。こっちのお祭りとはずっと違うものだろうから、お話楽しみにしてます。

 魔法使いには会ったことがないので、会えたならその話も聞きたいな。


 島分けの旅は思ったよりもずっと普通で、でもずっともやもやした気持ちがあります。大人になりたいのになり方がわからなくて、ずっと焦っているみたいな。

 旅に出ればそのまま大人になれるのかと思ってたけど、ぜんぜんそんな事はないんだね。


 これは秘密なんだけど、私、谷渡りみたいにどこでも行けるようになりたい。

 海でずっと暮らすんじゃなくて、山も谷もいろんなところを旅して、ヨルの国は竜の子だから行けないけど、それならそれよりもっと遠いどこかに行けないかな、なんて考えています。そういう事ができる大人になりたいな。

 シシトトはどんな大人になりたい?


 そうだ谷渡りって書いて思い出したけど、手紙は今度から「フスク群、分けの参」という宛先で送ってください。

 子島にも手紙を届けてもらう方法があるみたいなので、今度谷渡りの誰かにお願いしてみます。


 またシシトトからのお返事楽しみにしています。元気でね。


 フスクの竜の子 キネより



追伸・そう言えばシシトトがヒナアオイを食べた話で笑っちゃいました。本当に食べちゃったの? お腹壊さないでね!

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