来訪者
「ここに、魔族がいると聞いた」
とある日、クリームパイが作ったお菓子を冒険者のみんなで食べていた時に来訪者は来た。
「あなたは...?」
ここの教会の管理人のハルおばさんがハンカチで口を拭いながら聞く。
「UNKです」
来訪者の男は特徴的な黒い制服を来ていた。整った顔たちの三十代ほどに見える男だ。若いのに目の下のシワが目立つ。
「UNK...!」
ハルおばさんの顔が強ばる。
「おばさん、“ゆーえぬけー”てなにー?」
クリームパイが聞く。
「世界を守る強い人たちよ。クーちゃんとエっくんは下がっていてね」
二人に優しく答え、冒険者たちに二人を守るように言う。冒険者たちの空気も張りつめている。
「その子供二人が魔族ですね」
「そうよ。それがどうしたの」
「どうしたのって、決まっているじゃないですか。連行します。人間にいつ危害を及ばすのか分かったもんじゃありません」
「危害なんてそんな、この二人は暴力を奮ったことなど一度も...」
「今はまだ子供ですからね。しかし成長と共に凶暴な性格が芽生えて来たらどうするのです」
「そんなことあるわけないでしょ!人の子供に変な難癖付けないでください!」
「子供...?あなたの子供なわけないじゃないですか。神に仕えるプリーストという者が魔族を育てるなど」
「魔族も人間も関係ありません!愛さえあれば種族の違いなど」
「愛ですか...。くだらない。ほら、ごちゃごちゃ言ってないで渡しなさい」
来訪者は二人に近づこうとする。
「やめてください!」
ハルおばさんが来訪者の前に立ち塞がり行かせないようにする。
「おや?私は平和のために活動しているというのに、妨害行為を働くのですか?」
「種族の違いだけで勝手に悪と見なすあなたのどこが平和的行動ですか!」
ハルおばさんは引き下がらない。
「それ以上妨害してみなさい。私もそれなりの態度で示しますよ」
「あんた達!死んでもその二人を守りな!」
後ろの冒険者たちに声をかける。
「おう!」
いまこの教会にいる冒険者は三人。トウヤとナッツ、それとアキノリという男だ。
「どきなさい」
来訪者はハルおばさんを押し飛ばす。腰を打つハルおばさん。
「あいたたた...」
元々腰が悪かったハルおばさんは中々立ち上がれない。
「おいあんた!女性に手を上げるなんて!」
ナッツがハルおばさんを庇いに行く。
「仕方ないではありませんか。あの人が私の任務を妨害するんですもの」
「ハルおばさん!」
クリームパイが声を上げる。
「大丈夫ですよクーちゃん...私は平気」
しかし腰を痛そうに押さえている。
「あなた達は何をしているのです?冒険者ですよね、なぜ敵である魔族を守ろうとしているのです」
「敵なもんか!俺たちとこいつらは家族だ!」
ナッツが反論する。この場にいる冒険者の中で一番強いのがナッツだ。
「それに新しい魔王と関係があるかもしれない」
皆、新しい魔王という言葉に反応する。
「新しい...だと」
「あっ。すみません、これ言ってはいけないのでした。忘れてください」
「おい、UNKは何を隠してる」
「忘れてくださいよ」
「答えろ」
「それ以上詮索するならば悪性な諜報活動と見なし、それなりの態度で示します」
「諜報活動なんかじゃねぇ、俺たち冒険者がその情報を知る権利は当然あるはずだ」
「あなた達みたいな底辺は難しいことは考えずに今まで通りモンスターを倒していればいいのです」
「底辺だと...?」
「はいはい。ごめんなさい。それより早く、いい加減に渡してください」
「ざっけんな!」
ナッツが組み付きにかかる。
「これはいけませんね。暴力行為をしてきましたか。正当防衛権を発動させます」
胸ぐらを掴もうと右手を伸ばすナッツ。しかしその右手の袖を掴まれる。危険に感じ、手を引き戻そうとしたがもう遅い。来訪者は空いている方の手で逆にナッツの胸ぐらを掴む。
抵抗しようにも抵抗できない。凄まじい力と技だ。
「ほっ」
ナッツの勢いを利用して投げ飛ばした。背負い投げの形だ。受け身を取れずに背中を叩きつけられるナッツ。
「ぐはっ...!」
「鎧を着ていると投げ技が余計に痛みますよね」
「はっ...、はっ...!」
初めての投げによる痛みに胸が詰まる。
「ナッツさん!」
エルクが声を上げるが、応答できない。
「さて、抵抗は無駄だと分かったでしょう。大人しく...おや、おやおや、何ですかその目は。敵意むき出しですね」
トウヤとアキノリの意思は固い。絶対に子供たちは守ると決めている。
アキノリが小声でトウヤに言う。
「トウヤ...俺が時間を稼ぐ。その隙に裏口から二人を連れて逃げろ...。絶対に掴まんじゃねぇぞ」
「.....分かった」
覚悟を決める。
「俺が相手だ!」
アキノリは剣を構える。
「おやおや凶器まで持ち出すとは。大罪ですよ」
「うぉぉぉ!」
斬りかかりに行った。
「行くぞ二人共!」
トウヤは子供たち二人を抱えて裏口から逃走する。
「逃げますか...」
来訪者は剣を向け、遅い来るアキノリに興味すら見せずトウヤの方を見る。
「隙ありー!」
「隙じゃありません、余裕というものです」
ノックだ。パンチではなかった。グーにしたパンチでアキノリを殴ったわけではない。扉をノックするあの感じで、手首の動きだけでアキノリを吹き飛ばした。
「ぶはぁっ...!!!」
小さな動作なのにそこから生まれる力が凄まじい。
アキノリは壁に叩きつけられ気を失った。
「面倒くさいですねぇ...。一人で来なければよかった」
来訪者も教会から出て逃げるトウヤを追う。
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