教会の少女
転生人の惨劇から生き延びた魔王の子供たち。
兄エルクは雨の中ひたすら走り続けた。早く処置を然るべき処置を取らねば妹が死んでしまう。
「.....ここは」
灯りを見つけ、なんとかして辿り着いたのは教会だった。人間たちが神に祈りを捧げる場所。
そこではプリーストと呼ばれる神に仕える人間たちが冒険者たちを癒している。
「(教会ってとこかな...。ここに行けば誰かがいる...。でも、魔王の子供を助けてくれるのかな、もしかしたら殺されるかも...)」
エルクは迷った。リスクを背負い中に入るか、安全第一に考え違う場所を探すか。
普通ならば魔族が敵対しているはずの冒険者たちに助けを乞うなど、ありえない話だ。もし父にバレたらプライドは無いのかと酷い仕打ちを受けるだろう。
エルクには誇りも恥もなにもない。妹を助けるただそれだけ。だが悠長に考える暇はなかった。
「んぁ?なんだコイツら、ガキ...?ぼろぼろじゃねーか。赤ん坊もいるし」
教会の中から出てきた冒険者に見つかってしまった。今すぐ走り出せば逃げられるかもしれない。
「あ、うう、あ...」
たじろぐエルク。いま逃げて何処に向かう。ここの教会は町から離れた冒険者たちの中継地のような場所で、人が住む町まではまだ少しかかる。そこまで足が持つか。
冒険者は中年の男だった。ハゲた頭に無精髭、鎧を付けてなければ冒険者だとすら分からないみすぼらしい格好だった。
「だけど、おめぇ、肌が...。それに、角と、尻尾...。ま、魔族か!?」
冒険者は剣を構える。逃げるなら今しかない。
「.....助けてください!!!!」
エルクが取った行動は土下座だった。
「魔族が...土下座?」
冒険者は動揺する。魔族は死ぬ間際も決して屈しない誇り高き種族だと聞いていたから。
「確かに僕は魔族です!僕を殺すのなら殺してください!でも、妹には何も罪はありません!妹だけは...妹だけは助けてやってください!!!!」
泣きながら頭を地面にめり込ませる。妹には何も罪はないと言っていたがエルクにも罪はない。人を殺したことどころか殴ったこともない。
「なんだなんだ」
「どうした」
エルクの迫真の嘆願が耳に入った冒険者たちがぞろぞろと教会から出てきた。十人いるかいないか。
「こ、こいつら魔族だぜ!」
一人が気づく。するといっせいに武器を構えた。
「助けてください...!!お願いします!!お願いします!!!!」
地面にごんごんと頭を叩きつけて嘆願する。
魔族と言っても姿は人間の子供とほぼ変わらない。
「ちょっと待てお前ら、まだ子供だ助けてやろうぜ」
最初に見つけた中年が皆を止める。
「いんや、駄目だ。ここ最近も近くの村が魔族によって焼き払われたんだ。子供だろうが...」
中年の制止虚しく、冒険者たちは距離を詰める。エルクは変わらず嘆願を続ける。
「悪いな人間と魔族は分かり合えねーんだ」
《光攻撃魔法:ヘブンリーレーザー》
魔法陣が出現し、標準をエルクに定める。
「僕のことは、煮ても焼いても好きにしてください!でも、妹だけはあぁぁぁ!」
「坊主、現実は非常なんだ。それにぼろぼろな状態で生きても苦しいだろ。ちゃんと埋葬はしてやるから安心しな」
その冒険者はにへら顔など一切せず、真剣な表情でエルクに語りかける。先日、笑いながら魔王軍を殺していった転生人とは大違いだ。
発射される直前、
「ダメぇぇぇ!」
教会から一人の少女が走ってきた。12歳くらいだろうか。銀色の長い髪をなびかせている。少女は魔族の前に立ち、庇おうとする。
「危ねぇ!」
突然飛び出してきた少女。しかし既にレーザーは発射されたていた。レーザーはエルクの脳天に命中した。エルクは倒れる。
「あぁぁぁ!何で殺しちゃうの!」
少女はエルクに駆け寄る。
「お前こそモンスター相手に同情するのをやめろ!ペロ!」
「だってこの子たちは助けてくれと言ってたのよ!助けてあげてよ!」
「でもそいつらは魔族だ。もしかしたら魔王軍かもしれねぇ。ペロ、お前だって五日前、魔王に故郷の村を滅ぼされたんだろ!?許せるのか」
冒険者は、あっ。と急いで口を閉じた。
少女はとても哀しい表情を見せた。子供がする様な顔ではなかった。冒険者は言わなくてもいいことを言ってしまったと悔いた。急いで謝罪に入る。
「す、すまん。デリカシーに欠けた発言だった。嫌なこと思い出させてしまった。許してくれ」
「うぅっううぅぅ...」
鼻をすすり、泣き出した。
「すまん!この通りだ!」
冒険者も必死に頭を下げる。
「ううっ。確かに、お母さんもお父さんも、殺されちゃっけど.....。だから、私はぁァ」
泣きながらも必死に言葉を紡ぐ。
「誰も傷つけないって決めたの...!人間だけじゃなくて、みんな、みんなだよ!助けを求める人がいたら、人間以外にも助けるって決めたの...!だから、この子たちにも優しくしなきゃだめなのぉぉぉ!うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
少女は泣く。名前も知らない他種族の子供のために。
少女の大粒の涙はエルクに降り注ぐ。
「...うぅ。」
やっと泣きやんだ。
「ほんと、ごめんな...」
「うん。大丈夫。私こそわがまま言ってごめんなさい」
「わがままなんてそんな、ペロ、お前は世界で一番優しい子だよ...」
その時、
「.....う、すみません、突如目の前に閃光が走ったので気絶してしまいました」
エルクが起き上がった。
「な、なにぃ!?確かに脳天を貫いたはず!」
驚く冒険者たち。
「...お願いします!!!妹だけでも助けてください!!!!」
再び土下座を始めた。
冒険者たちは顔を見合わす。やはり魔族は子供でもあれきしでは死なないのか。恐ろしい存在だ。殺るなら今のうちでは。どれも物騒な会話で誰もエルクを助けようとはしない。
誰よりも早く真っ先に手を差し伸べたのは、先日魔物たちに故郷の村を滅ぼされた少女だ。
「私、ペロロロ!ペロって呼んで。一緒に暮らしましょ!」
少女の笑みは愛に溢れていた。エルクには先ほどのレーザーよりも何倍もその笑顔の方が眩しかった。
「.....ありがとう、ございます」
生まれて初めて感謝した。涙が止まらなかった。先ほど少女が流した涙よりも多量であった。なぜなら施しを受けたのが初だったから。
魔王の子供たちは、本来敵である教会のお世話になり、なんとか生き延びることができた。
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