通過電車

コオロギ

通過電車

『思い違いしちゃったんだよ。降りたら無人駅でさ。ほんとはもっと先の駅だったんだ。いや、今となっちゃ先だったんだか当のむかしに通り過ぎてたんだか分かんないんだけどさ。

 電車に乗ってるときは雨が降ってたんだけど、降りた時にはほとんど止んでた。線路が黒く光ってたな。

 間の悪いことにさ、急行停まらないみたいで、ずっと電車、がんがん通過してってさ。前も後ろもガタガタガタガタうるさくて。

 しかもさ、人身事故発生って。ずっと電光パネルがくるくる回ってるんだ。

 でもまあ、夜とは言っても、終電の時間はまだまだ先なはずだし、待ってりゃそのうち来るだろって思って待ってたんだけどさ、おかしいんだよ、いつまで経っても電車停まらないんだよ、みんな素通り。

 そしたらさ、なんか、前後だけじゃないんだよな。音。右も左も、上も、下からも。もう縦横無尽にガタガタガタガタガタガタガタガタ鳴ってんの。

 意味分かんないでしょ。おれもわけ分かんないし、なんかもう確かめるのも怖いしさ。で、音の鳴ってる方は見ないようにして、電光パネル、確認したんだよ。そしたら、文字化けっていうのかな、あれ。しててさ。いや、ちゃんと読める文章ではあったんだけどさ、やばいんだよな。『人間が発生しています。運転再開の目処は立っていません。』って。

 なあ、どういうことだと思う? ほんともう意味分かんないんだけどさ。

 あーめっちゃ寒い。いつも思ってたんだけど、雪の日より雨の日の方が寒くない? じわじわ冷たくなってく感じがしてさ。

 とりあえずさ、もう怖いから、怖くて仕方ないから、液晶画面以外、もう見れないんだけどさ、だからあったこと、文字で打ってみてるんだけどさ、ほんとおれ、間が悪いっていうか、つくづく、運がないみたいでさ、充電あとちょっとで切れそうなんだけど、笑えるだろ、おれは全然笑えないけど。なあどうしたらいい? ああ、うるさい、ほんとうるさいよ、怖いよ、どうしよう、でもさ、まあどうしようもないんだよな、だってずっと圏外』


 十年前に行方不明になった友人から届いたメッセージは、そこで途切れていた。


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