第553話、同行者の許可を出す錬金術師

「じゃあ、準備が出来たら、俺がセレスの家に行くから」


リュナドさんはそう言って領主館の奥に向かい、私は大人しく家路に就く。

出来ればもうちょっと一緒に居たかったけど、弟子達にも話をしないとだし。

まあメイラが居るし、家精霊が説明してくれてる気はするけど。


「あ、しまった、ライナにも報告しておかないと」


直ぐ帰って来るつもりではあるけど、相談内容次第では時間がかかるかもしれない。

なら暫く店に行かないかもしれないって伝えておかないと。

既に店は通り過ぎていたけど、慌てて方向転換してライナの店へ向かう。


「・・・うわぁ・・・うう、昼時だから、当たり前か・・・」


ただライナの店の上空に辿り着き、店の盛況具合にしり込みしてしまう。


「相変わらず凄い人気だなぁ・・・」


店内が満員なのか、店の外にまでテーブルが出ている。

それでもまだ並んでいる客が居る辺りが凄い。


「う、うーん、今行ったら邪魔かなぁ・・・一番忙しそうだよねぇ・・・」


人の多さに気圧されたのも有るけど、人が多いという事は確実に忙しい。

なら今私が訊ねて行ったら、ライナの手を止めてしまう事になる。


「うーん・・・本当は自分で伝えたかったけど、山精霊達に伝言を頼むしかないかな」


出る前に手紙でも持たせて、ライナに伝えて貰う様にしておこう。

今日は行けないかもっていうだけで、急いで伝える必要も無い事だし。


「・・・出来れば顔見たかったけど・・・諦めよう」


しょぼんとしながら絨毯を再度家へと飛ばし、庭まで辿り着く手前で精霊の鳴き声が響く。

私の帰りを察知した歓迎の声と一緒に、手を振る弟子達の姿もそこにあった。

庭にゆっくりと絨毯を降ろし、地面に降りると同時にメイラに抱き着く。


「ただいまっ」

「はい、お帰りなさい」


ぎゅーっと抱きしめて、家精霊にも同じように抱きしめ、パックは逃げられた。

山精霊は抱きしめるというか、私に群がるので何か違う気がする。

服の中に入り込むのは流石にちょとくすぐったい。


「家精霊から話は聞いてる?」

「はい、聞いています。パック君にも伝えました」

「そっか。ありがとう、家精霊」


ニコリと笑う家精霊の頭を撫でると、キャーキャーと山精霊が騒ぎ出した。

どうやら自分達も説明したと言っているらしい。

山精霊の説明かぁ・・・うーん、本当にちゃんと伝わってたのかなぁ。


「こう言ってるけど、山精霊の説明で解った?」

「ええと、時間をかければ、何とか」


視線を逸らしながら答えるメイラ。まあメイラになら伝わるか。

メイラ以外だと、半端に情報が伝わって来るから混乱するんだよね。


「ん、伝えようとしてくれたんだね。ありがとう」

『『『『『キャー♪』』』』』


私が少し褒めただけで嬉しそうに跳ねる山精霊達。

ただ今帰って来たっポイ精霊も、良く解らないままに混ざってる気がするけど。

あの子絶対何に喜んで跳ねてるのか解ってないと思う。


「じゃあとりあえずお昼食べて、それから準備して、ミリザさんの所に行こうか」

「「はいっ!」」

『『『『『キャー♪』』』』』


元気のいい返事をした弟子達と共に家に入り、山精霊もお昼だーと居間へ走って行く。

家精霊はクスクスと笑いながら厨房へ向かい、すぐに料理を運んで来てくれた。

昼食が食べ終わったら言っていた通り出る準備をして、後はリュナドさんを待つだけだ。


「リュナドさん、ちょっと遅いですね?」

「そうだねぇ・・・これだと到着は夜になっちゃうかな?」


お昼が終わったらすぐに来ると思ってたから、予定変更になっちゃうね。

まあどの道一泊はするつもりだったし、相談に乗って二泊も悪くは無い。

その間ライナの料理を食べ得れないのだけは残念だけど。


なんて考えながらメイラを抱え、ソファでのんびりとお茶を飲みながら待つ。

時々山精霊とも戯れ、パックにまた逃げられながら。

でもあんまり逃げられて悲しくなってると、逃げずに近づいてきてくれるけど。


「パックは良い子だねぇ・・・」

「っ・・・!」


頬にスリスリしながら抱きしめ、弟子の可愛さに嬉しくなる。

それにしてもパックは肌がすべすべだね。まだ髭とか生えないね。

剃ってる様子も無いし、剃り跡も無いし、もうそろそろ生えてもおかしくないんだけど。


それにしても頬にすり寄る時に、前よりかがまなくて良くなったね。

やっぱり大きくなってるなぁ。このまま止まってくれないかなぁ。


『『『『『キャー!』』』』』

「あ、りゅ、リュナド殿が来たみたいですよ、先生!」

「そうみたいだね。迎えに行こっか」


庭精霊達も騒がしくなったので、多分パックの言う通りなんだろう。

一旦パックから離れて、でも手を握ったまま庭に出る。

そこには予想通りリュナドさんが居て、竜の鎧を身に纏っていた。


「悪い、遅くなった。出るのに色々調整してたら手間取った」

「ううん、気にしないで。お願いしたのはこっちだもん」

「そう言ってくれると助かる」


リュナドさんは申し訳なさそうだけど、申し訳ないのはこっちだと思う。

お願いしたのは私の方で、むしろ手間かけてまで来てくれた事が有りがたい。


「ありがとう、リュナドさん」

「っ、あ、ああ」


ちゃんとお礼を言わなきゃと思い、胸の嬉しさと一緒に感謝の言葉を告げる。

すると彼は一瞬戸惑った様子で、けど何時も通りの笑顔を見せてくれた。


「・・・メイラ様、僕この位置で合ってますかね」

「う、うーん。ま、まあ、セレスさんが手を握ったままですし・・・」


ただその時の弟子二人が不思議な事を話していた。

位置って何の事だろう。手を握ったままじゃ駄目だった?

二人に何が駄目か聞いたけど、私が良いならそれで良いって言われてしまった。


何かダメな事してたんなら言って欲しいんだけどな。我慢させたくないし。


「とりあえず、出発は今日で良いのか? それとも日を改めるか?」

「ん、私は今日出発したいな」


ミリザさんの慌てた手紙の事も有るし、出来るだけ早めに出発したい。


「解った。じゃあ行こうか」

「うん、あ、荷車持って来てくれたんだね。ありがとう山精霊達」

『『『『『キャー♪』』』』』


指示の前に持って来てくれた山精霊に礼を言い、皆で荷車に乗り込む。

日が暮れ始めているけど、全力で飛ばせば深夜になる前に到着するはずだ。


「じゃあ、少し飛ばすね」


そう宣言してから少し早めに飛ばし、そのままどんどん速度を上げていく。


「ん?」


ただ荷車の後ろから、物凄い速度で何かが飛んで来るのを感じた。

後ろに回って確認すると、見覚えのある竜が追いかけて来ている。


「乗れ」


そしてあっさりと追いつくと、端的にそう告げて来た。


「ありがとう、助かる」


竜の方が荷車より早いし、到着の時間を短縮できると思う。

素直に礼を告げて背中に移動し、竜の背に荷車を固定する。


「では、行くぞ!」


その間も飛び続けていたのだけど、竜は更に速度を上げて飛び始めた。

一瞬後ろにこけそうになりつつ、実際に転んだメイラを受け止める。

リュナドさんとパックは少し揺らいだ程度だ。


「す、すみません・・・」

「気にしないで良いよ」

『『『『『キャー』』』』』


転んだ事がショックだったのか落ち込むメイラに、山精霊が群がって頭を撫でる。

まあ頭を撫でる為に頭にいっぱい乗ってるから、何だか変な絵面だけど。


「・・・本当なら街に居て欲しいんだけどな、こいつには」

「でも前に、リュナドさんが出かけるならついて来る、って言ってたし」

「・・・そういえばそうだったな。なら予定通りか」


うーん、予定通りかと言われると、その可能性もあったぐらいで考えてた。

だってこの竜って山精霊達と同じで、判断基準が良く解んない所あるし。


「まあ良いか。セレスがそう言うなら大丈夫だろ」

「うん?」


何で私が言うなら、なんだろうか。これは竜の判断なんだけどな。

ああ、私が付いて来て欲しくない、って思ってたのかな。


「むしろ、竜が来てくれるなら好都合だよ?」

「・・・成程」


私の返答に頷くリュナドさん。だってそりゃそうだよね。

竜の方が荷車より速いもん。さっきだってアッサリ追いつかれたし。

さて、到着するまで何してようかなぁ。


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「手紙は届いたでしょうか」

『『キャー♪』』


夜空を見上げながらの呟きに、御付の恰好をした精霊達が応える。

大丈夫と言ってくれているのだろう。本当に大丈夫なのかは不安が有るけど。

何だかんだとそれなりに長い付き合いになったので、この子達の性格は解っているから。


「でも、そうね、確実に届けてはくれますよね」

『『キャー♪』』


たとえ遅れたとしても、手紙その物を届けられなかった事は無い。

今まで送った手紙は全て届いているし、返事の手紙も必ず届いている。

それでも不安になってしまうのは、心がせいている事が要因かしら。


「私は、どう動くべきなのかしらね・・・」


彼の国は我が国を避けようとしていると、放っている草からは報告が上がっている。

どうも、宗教国家を相手にするのを嫌った気配が有ると。

なら我が国としては無用な争いを避けられると、来ないならばそれで良いと思うべきだ。


けれど、あの国はおそらくその先の国に戦争を仕掛ける。

我が国を迂回したのは、そちらを押さえれば良いと判断しての事だろう。

この国が誰に対して敬意を払っているのか、精霊公をどう見て居るのかを理解して。


「・・・なら、黙っている訳にはいかない、のに」


精霊公とは同盟を組んだのだと認識している。

なら精霊公の敵は私の敵だ。共に手を取って戦うべきだ。

けれど戦争になれば、きっと多くの民が死ぬ事になる。


自国に仕掛けられたなら兎も角、迂回されたとなれば戦う意義を見出せない。

同盟相手の為に戦力を出すべきだと思うも、戦争を『仕掛ける』事が私には出来ない。


「優柔不断ね、まったく」


法主としてやるべき事。セレス様の友人としてやりたい事。

それは相反する事柄であり、どちらも今の私には選べないでいる。

せめてこの国に攻めてきてくれたらなどと、不謹慎な事を考えてしまう程に。


「法主様・・・」

「ふふっ、ごめんなさい。どちらにせよ、セレス様の返答待ちよね」


私を心配す様に声をかける付き人に、笑顔で返して謝罪を告げる。

そうだ。どのみち私はその答えをセレス様に縋ってしまった。

一体自分はどうするべきなのか。何が最善なのか。頼ってしまった。


彼女ならきっと、今私がとるべき答えを教えてくれるような気がして。

本当に情けない話だと思う。こんな人間が一国の当主かと思うと不安しかない。


「今日はもう寝ましょう。寝間着に着替えたいので手伝―――――」


ゴウッと、開いていた窓から風が舞った。

突然の余りに強い風に、自然と意識は窓の外へ行く。

そこに見えたのは巨大な竜。暗闇の中月の光に照らされた竜の姿が。


まるでこの風は訪問の挨拶とでも言う様に、街の門の外で旋回している。


「精霊公の訪問です。迎えを出す様に」

「はっ」


護衛の僧兵に指示を出し、一人が速足で廊下を進んでいく。

その足音を聞きながら、竜へと視線を戻した。


彼女は戦力を、最大戦力に近い竜をここに寄こした。

そして竜が居るという事は、当然精霊公も一緒なのだろう。

竜と、精霊公と、そして何よりもセレス様が、きっと一緒に居る。


「このタイミングで訪問して来たという事は・・・きっとそういう事なのでしょうね」


私は自国が戦火に見舞われないと思っていた。

けれどその考えが甘いと、きっとそう思われている。

応援戦力を送り込むべきだと思われてしまった程度には。


草の報告を信じていたけれど、彼女にはそれ以上の情報が有るのだろう。


「・・・覚悟は、決まりました。セレス様」


民が死ぬ様な事態は招きたくはない。けれど黙っていても民が死ぬ。

なら私のとるべき選択は一つ。友と共に戦う事のみ。


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ちょい宣伝。また適当に新しいの書き出しました。


奴隷で居たいけど居たくない元魔王

https://kakuyomu.jp/works/16817139558936295414


主人公の感情とか情緒がリュナドよりぐちゃぐちゃな感じの作品です。

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