第552話、手紙の内容の相談に向かう錬金術師
『キャー!』
「ん、手紙?」
何だか最近突然手紙が来る事が多いな、なんて思いながら精霊から手紙を受け取る。
「んー・・・ミリザさんからだ。あれ、もうそんなに日が経ってたっけ?」
竜の神様を崇める国の法主、ミリザさんからの手紙を受け取り首を傾げる。
彼女とは何だかんだと定期的に連絡を取っていて、大体何時も同じ時期に手紙が来る。
内容はとても些細な、本当に些細な内容で、お互い元気だよという報告に近い。
ただ前回手紙を貰ってから、そんなに日数は経っていないと思うんだけど。
返事もしたはずだから、心配されての手紙って訳でもないだろうし。
「んー、まあ読めば解るか」
『キャー♪』
とりあえず中を確認しようと思い、封を解いて中から手紙を取り出す。
『私はどう動けば宜しいですか。意図があればお伝え下さい』
ただ手紙に書かれていた内容は、何時もと違ってただそれだけだった。
何時もの様な時節の挨拶とか、丁寧な近況報告は一切無い。
「・・・?」
首を傾げながら思わず手紙をひっくり返し、裏に何か書いてないかと探す。
けど裏側は真っ白で、紙を触った感じ何か仕掛けが有る風でもない。
「え?」
どうしよう。まるで解らない。え、どう動けばって、何に対してだろう。
意図って、えっと、私に手紙を出したんだから、私の意図だよね。
「・・・何の?」
頭にはてなしか浮かばない。何これ。え、本当に何これ。どうしたら良いの。
どう動けばもなにも、私がどう動けばいいのか全く分からないんだけど。
「え、ええと、何か、困ってる、のかな?」
よくよく手紙を見直してみると、ミリザさんの字が少しだけ崩れてる感じがする。
いつもは物凄く綺麗な字で書かれているのに、これはちょっと焦った様な感じに見えた。
もしかすると何か困った事があって、けど慌てたせいでこんな手紙を出しちゃったのかな。
「うーん、ミリザさんがそんな事するかなぁ?」
何時も落ち着いた優しい女性って雰囲気だったし、慌て者の印象は無い。
けどそんな彼女が焦る程の事態、という事なのかもしれない。
「なら、直接話に行った方が、良いかな」
手紙の返答だと、どうしたって少し時間がかかってしまう。
精霊達が幾ら早いと言っても、ここからあの国までは距離が有る。
手紙を出して帰って来るのは早くても明後日。なら私が行った方が早いか。
「家精霊、出かけるから外套とって来てくれるかな」
『『『『『キャー♪』』』』』
家精霊にお願いしたんだけど、何故か一緒に山精霊達も走って行いった。
その間に私は鞄に入れて行く物を選び、適当に必要そうな物を詰めておく。
暫くという程の時間も無く準備は済み、当然その間に家精霊は外套を持って来てくれた。
『『『『『キャー♪』』』』』
傍に居る山精霊は何故かやり切った感を出している。
とりあえず家精霊に礼を言って、外套を羽織って仮面をつけた。
そこで家精霊が黒板を前に出したので、首を傾げながら内容を確認する。
『国外に出られるのであれば、リュナド様にご報告した方が宜しいのでは』
「あ、うん。勿論報告に行くよ。というか、一緒について来て貰えないか聞いて来る」
私のその言葉に安心したのか、家精霊はホッとした顔を見せた。
大丈夫だよ。勝手に他の領地や他国に行ったら怒られるのは学んだからね。
「あー、えっと、弟子達も連れて行くつもりなんだ、けど・・・」
折角出かけるんだから、みんな一緒にと思っていた。
そうなると家精霊が一人留守番になる。
その事を伝え忘れていたと、恐る恐る家精霊に報告した。
すると家精霊は黒板に文字を描き直し、にこりと笑って見せて来る。
『私の事はお気になさらず。主様が無事に帰ってさえ下さればそれで満足です。留守の間主様の帰るべき家は絶対にお守りします。どうぞ皆さまでお出かけ下さい』
「・・・ありがとう」
思わず家精霊をギューッと抱きしめ、家精霊も嬉しそうに抱きしめ返してくれた。
足元で山精霊がキャーキャー騒がしいけど、今回は邪魔しちゃダメだよ。
「それじゃあ、リュナドさんにお願いしに行って来るね。二人にはすぐ戻るって伝えておいて」
『『『『『キャー♪』』』』』
絨毯を広げて少し浮かび、家精霊と山精霊が手を振るのを確認してから飛び立つ。
そうして街を空で一直線に飛び、一応精霊兵隊の訓練所を確認する。
「・・・リュナドさんは、居ない、かな・・・ん?」
リュナドさんを探していると、先輩さんが私に気が付いたらしい。
彼は私に目を向けると、親指を領主館に刺して口を開いた。
「リュナドなら事務仕事中だ! 中に居る!」
「うぴゃ!?」
び、びっくりした。結構空に上に居るのに、びりびり響く声だった。
多分遠くて聞こえないと思って、思いっきり声を出したんだろう。
びっくりして心臓がバクバクいってる。で、でも、親切でしてくれたんだよね。
ちょ、ちょっと怖かったけど、教えてくれたのは有難いし、お礼はしなきゃ。
そう思ってぺこりと頭を下げてから、何時も通り中庭に向かって少し待つ。
すると何時も通り少しして足音が聞こえ、彼が姿を現した。
「セレス、何かあったのか?」
「・・・ん、ちょっ、と」
あ、あれ、声が上手く出ない。さっきの驚きを引きずってる。
そんな私を心配してくれたのか、彼は少し険しい顔で近寄って来た。
「どうした、何があった」
「・・・え、と」
は、早く、早く喋らなきゃ。別にただ驚いただけだって。
でも焦れば焦る程声が出なくなる。ああもう私はどうしてこうなの。
早く言わないと無駄に彼に心配をさせてしまうのに!
あ、そ、そうだ。て、手紙。手紙を渡して、一旦深呼吸をしよう!
とりあえず手紙を渡せば、誰に関しての用事かは伝わると思うし!
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『『『『『キャー♪』』』』』
「ん? セレスが来たのか?」
昼前に一体何の用かと思いつつ、事務仕事の休憩に丁度良いかと席を立つ。
けして事務仕事が嫌だからじゃない。セレスの対応が一番優先だからだ。
そう、だからこれは逃げじゃない。俺は何も悪くない。
などと頭に浮かぶ事務職達に言い訳しつつ、少し早足に中庭へと向かった。
そこには当然セレスが居て、けれど今日は『錬金術師』として会いに来たらしい。
状況が状況だけに、何かあったのだろうと思いながら改めて訊ねた。
「・・・ん」
「ん、手紙か?」
すると封の空いた手紙を差し出し、そこにある印は見覚えのある物だ。
「ミリザ殿からの手紙か。封はあいているけど、見て良いのか?」
「・・・ん」
コクリと頷くセレスを確認してから、中から手紙を取り出し内容を確認する。
その内容はとてもシンプルな物で、まさしく必要最低限のみしか書かれていなかった。
だが何の事かは説明されずとも解る。戦争になった際の身の振り方を訊ねているんだろう。
彼女の性格を考えれば、自国に攻め入れられない限り手を出す気は無いと思う。
だが彼女とセレスの関係を考えれば、それで良いのかと訊ねるのも当然だろう。
そしてその手紙を俺に渡しに来たという事は、俺の意図も確認しに来たという事か?
「はぁ~~~」
ただそこで、何故かセレスは大きな溜息を吐いた。
深く、深く、本当に心の底からの感情を吐き出す様な溜め息を。
ただそれが何に対してなのかが解らず、思わずビクッとしてしまう。
未だにこういう所は良く解らなくて怖いんだよなぁ。
多分頭の回転が違うから、誰よりも先に答えが出てるせいだろう。
凡人には理解出来ないんだから許してくれと思う。
一体何を言われるのかと思い構えていると、セレスは顔を上げて俺に目を向けた。
「・・・ミリザさんの所に、パックとメイラを連れて行きたい。リュナドさんも来て欲しいんだけど・・・良いかな?」
「ミリザ殿の所に?」
「・・・ん」
ただセレスの出した答えに対し、俺は思わず困惑で返すしかなかった。
何故このタイミングで俺を、何より一番肝心なお前を街から出す必要があるのか。
いや、違う。きっとこのタイミングだから意味が有るんだ。
でなければセレスが溜息を吐きながら、こんな答えを出す訳がない。
「解った。出発は何時だ」
「・・・弟子達が、帰って来たら、食事にしてから、すぐと思ってる」
「解った。俺も領主に伝えてから向かう」
「・・・ん、まってる、ね」
セレスはそう言った後、もう一度軽めの溜め息を吐いた。
もしかすると、本当はやりたいくない事なのかもしれない。
それでもセレスがやると決めたなら、きっと動いた方が良いのだろう。
「んっ」
なんて思っていると、セレスが突然抱きついて来た。
今日は鎧を着てないから、胸元にすり寄る感触が良く伝わる。
「にへへぇ」
「・・・」
・・・もう錬金術師としての仕事は終えたらしい。
何時もながら切り替えはえーよ。俺の感情の上下も考慮して欲しい。
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