第544話、完成品を持って行く錬金術師

「―――――できた」


がちゃんと、音を鳴らして組み上げた武器を掲げる。

何度も何度も何度も部品を使い潰し、出来上がった完成品。


あの未完成品を作ってから、もう何日経ったか解らない。

けど、その程度の日数で出来上がった。


「・・・感謝、しなきゃね」


それは間違いなく私の力じゃない。山精霊達の力だ。

あの子達が作ってくれた消耗品。同じ大きさと強度の部品。

あれがなければ、何日経った、程度で出来上がる訳が無い。


何よりあの子達は、改善の為の部品も作ってくれた。

本当に感謝してもし切れない。これで彼に完成品を渡せる。


「うん、問題無し」


完成したとはいえ不具合が無いか、2,3度解体して組み立て直す。

何度も握った彼の手に合わせた持ち手は、打ち出しの仕組みも全て合わせてある。

全ての個所が彼の手の最適になる様に、何度も何度も彼の手を握りながら計算した。


まだ使ってみていない以上、使用感を聞くまでは完璧とは言えないかもしれない。

けど私の計算上では問題無い物になったはずだ。彼の手に確実に馴染むはず。


「ふふっ、ちょっと、大きい」


当然私の手には合っておらず、握りに少し違和感がある。

彼専用に作ったのだから当然だけど、それが何だかおかしくて笑ってしまった。


「後は最終確認、と」


弾と火薬を詰めた物、弾薬を入れた箱を手に取り、組み上げた筒も持って庭に出る。

庭に出たらキャーっと迎える山精霊達を軽く撫でてから、筒を折る様に外して弾薬を込める。

そしてガチャンと嵌め直してから森の木に筒の先を向け、ゆっくりとスイッチを指で引く。


ただしその音は以前の様なパァンという音ではなく、ガァンという強烈な音。

同時に腕を跳ね上げる様な衝撃を感じ、それに逆らわず腕を上げて力を逃がす。

放たれた弾は凄まじい速度で飛んで行った事で、着弾の音は余り聞こえなかった。


多分木を狙ったからだろう。固い所に当てたらまた違った気がする。


「うん、良いね」


筒をまた折る様に開けて、空になった弾薬の入れ物を重力に任せて落とす。

そして再度弾薬を込めて狙いをつけ、同じ木に向かってまた打ち出す。

またガァンと凄まじい音を鳴らし、そして再度ほぼ狙った通りに着弾した。


「ん、命中精度に問題は無し。弾も大木に埋まってるし威力も申し分なしかな」


先ず命中精度を上げる為に筒の長さを変えた。力の方向を少しでも一定にさせる為に長く。

更に弾の形を変え、先端を尖らせる事で正面から受ける風の抵抗を減らす様に試みた。

それでも弾は綺麗に飛んで行かず、そこで回転した物体の力の動きの利用を思いつく。


結果できたのが、火薬を増やして初速を上げ、弾に螺旋状の細工をした。

風の抵抗が弾を回転させ、その回転により軌道が大分安定するようになる。

まだ完全とは言い難い所は有るけど、それでも初期よりは大分まともな命中精度だ。


とはいえ、安定する螺旋を作るのには、それなりに何度も作り直させられたけど。

筒もこの弾薬に見合う物を作る必要があったし、一人じゃ簡単には出来なかったかな。

うん、やっぱり山精霊のおかげだね、本当に。


まあ、その、弟子達の為の小型化からは、物凄く遠ざかっちゃってるけど。

いや、これから、これからまた頑張るから。うん。


「これなら渡せるね」

『『『『『キャー♪』』』』』


満足感を覚えながらの呟きに、山精霊が嬉しそうに跳ねて喜ぶ。

この子達も頑張った以上、きちんと出来上がった事が嬉しいのだろう。

良し、じゃあこれは完成品として・・・そういえばこの道具の名前はどうしよう。


パックに見せて貰った書類の中には、道具の名称は書いてなかったんだよね。

となると、とりあえず私の方で解り易い名前を付けても、別の良いの、かな?


「それじゃあこれは、山精霊に手伝って貰ったし・・・精霊筒・・・精霊砲・・・山筒?」

『『『『『キャー!』』』』』

「え、山筒が良いの?」

『『『『『キャー♪』』』』』


どうやら山筒という名前が気に入ったらしい。じゃあ今後これは山筒と呼ぼうかな。


「じゃあ、私はこれ、リュナドさんに渡して来ようかな・・・」


そう呟いたが早いか、私の行動を予測していた家精霊が外套と絨毯を持ってくる。


「ありがとう家精霊。じゃあ行って来るね」

『『『『『キャー♪』』』』』


礼を言ってから外套の内側に山筒を引っかけ、落ちないかポンポンとお腹当りを叩いて確認。

手を振る家精霊と山精霊に手を振り返し、絨毯を飛ばしてから仮面をつける。

今日はどこに居るだろう。今日も書類仕事してるなら、私にとっては都合が良いんだけど。


「ふふ、にへへ・・・・あ、あれ、笑いが・・・ふへっ」


今更ながら、山筒が完成した事が嬉しくなって来ちゃった。変な笑いが漏れる。


ー------------------------------------------


『キャー!』

「うわっ」


精霊兵隊の隊員が危ないと判断し、山精霊が自分の判断で結界石を使う。

当然結界が展開され、その中にいる精霊兵隊は攻撃から守られた。


「足を止めるな馬鹿野郎! 精霊が守ってくれても、それが毎回とは限らないんだぞ!!」

「は、はい! すみません隊長!」


ただその際に足を止めた事で、致命的な隙になると檄を飛ばす。

確かに結界石は優秀だ。大概の攻撃は防ぎきる力がある。

今もこの『筒』の攻撃を防ぎ切ったんだからな。


セレスが未完成と言った武器。これの危険性は精霊兵隊全員に周知させた。

これは容易く人を殺せる武器だ。勿論武器なんてのは扱い次第で簡単に人を殺せる。

けど、これは違う。そういう今までの武器の常識とは話が違う。


先ず近づく必要が無い。ある程度の距離を開けた状態で致命の威力がある。

それならば弓があるだろうと普通は思うが、弓は放つのにそれなりの技量が居る。

引いて放つだけが弓じゃない。それに狙うとなれば尚の事高い技量が求められる武器だ。


だがこの『筒』はどうだ。セレスが未完成品と、まだ完成していないと言ったこの筒。

これは力も必要無ければ、狙う技量も弓ほどいらない。

そもそも弓を扱うにも力が居る。そう、力だ。この武器には一切の力が要らない。


非力な人間。老人、子供ですら脅威になり得る武器だ。

この武器は余りに危険すぎる。だからこそ、その武器に慣れなきゃいけない。

何よりも暗殺に適し過ぎているこの武器に、即座の対応が出来る様に。


戦争で使われるのも怖いが、正直一番怖いのはそっちだ。


「・・・山精霊が防げるって知らなきゃ、流石に出来ない訓練だな」


筒から放たれる弾は凄まじく速い。人間の目では全く捉えられない速さだ。

少なくとも俺には見えない。放ったと同時に当たっている様にしか。

だからこその威力と脅威なんだが・・・どうやら山精霊は見えているらしい。


ただ速度に追いつける訳ではなく、向かって来る弾を弾ける程度だそうだ。

とはいえそれは、ほぼ対応出来るに近い。ならばと結界での防御を任せた。

そして精霊兵隊はこの『筒』を持つ俺に、狙いを定められない様に高速で突っ込む。


勿論真っ直ぐ突っ込んでは意味が無いので、横に振りながらの移動になるが。

ただそれも人力じゃなく、精霊兵隊用の靴と手袋が有って初めて叶う事だ。

そうして俺に槍が届く距離まで近づけば、次の人間と交代になる。


「次!」

「はっ」


山精霊が結界で防げるのであれば、真っ直ぐに突っ込めばいいと思うかもしれない。

だがこれは未完成品だ。この威力で未完成品だ。完成品の威力はどうなる。

防げると言っても、これはセレスの使う結界石じゃないんだ。


山精霊の作る結界石は、誰にでも使える代わりに幾つか欠点がある。

効果範囲、効果時間が決まっている事はまだ良い。だが結界自体の強度も一定だ。

セレスが自分でやってるような、結界を重ねて強化して耐え続けるなんて事は出来ない。


ならば出来れば食らわない様に、そして危ない時は精霊の補助を受ける。

それが出来れば一番良い。勿論それはあくまで理想論だが。

あの報告書に描かれていた事が事実なら、敵は大量にこの『筒』を持っている。


この戦い方でどこまで行けるのか。そんな思いが無い訳じゃない。

だがおそらく弓で戦えば・・・負けるのはこっちだ。

この武器は隊列を組んでいる相手の方が当て易いのが目に見えている。


弓もそういった点で戦場では強い武器だ。隊列を組んだ兵士達に放てば何処かに当たる。

だがそれは最前列ではない事も多く、兵士の突進を止めるのは叶わない。

これは、この武器は真っ直ぐに飛ぶ。まずやられるのは最前線の兵士。


前の兵士が倒れれば、当然後ろの兵士は少し詰まる。そして足が止まればまた狙われる。

恐らく馬鹿正直に正面からつっこめば、その繰り返しを強いられる事だろう。

だからと言って遠距離で挑んだ場合、疲労や精度を考えても筒が有利と見るしかない。


解決案としては、他にも無い訳じゃないが・・・とりあえず一対一の対処だけでも確立したい。


「おい、隊長殿よ、姫さんが来たみたいだぜ」

『『『キャー♪』』』


そうして訓練をしていると、先輩が肩を叩いてから親指で空を指さす。

精霊達も気が付いていたのか、嬉しそうに空を見上げて鳴いている。

同じ方向に視線を向けると絨毯が見え、結構な速度でこっちに突っ込んで来ていた。


絨毯が地面に近くなった所で速度が落ち、セレスがぴょんと飛び降りて俺に近づいて来る。


「どうしたセレ―――――」

「リュナドさん!!」


何かあったのかと訊ねようとした所で、セレスは異様に高いテンションで飛びついて来た。

そして少し離れると自分の外套を、腹の当たりを片手で抑えてから更に言葉を続ける。


「私、出来たよ!」

「・・・は?」


なんか部下の前で爆弾発言かましてくれた。

待って、俺身に覚えが無い。いや本気で無いんですけど。

え、ちょっとまってセレスさん、マジで言ってる?

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