第543話、作業が進みそうな事に喜ぶ錬金術師
試作品を作ってからまた数日経ち、けれど相変わらずの毎日を過ごしている。
作り上げた試作から感じた難点を考え、改良した部品を作って組み上げる。
そしてそこから更に問題点を洗い出しまた改良。そんな日々を。
ただそうやって過ごしていたある日、山精霊が部品の山を持って来た。
基本的に内部機構のバネや歯車といった、作るのに手間がかかる物が多い。
「どうしたの、これ」
『『『『『キャー♪』』』』』
「そう、なんだ」
どうやら私が部品を欲しいと呟いた事で、じゃあ作ろうと行動に移したらしい。
何処でどうやって作ったのか気になる所だけど、これは本当に助かる。
これだけあれば使い潰す消耗品として気楽に使える。作る時間も省ける。
「ありがとう、みんな」
『『『『『キャー!』』』』』
しゃがんで礼を言うと、山精霊達は喜んで跳ねて踊り出した。
褒められた事が嬉しかったのか、役に立てた事が嬉しかったのか。
最近のこの子達の言動からすると両方かな。
『『『『『キャ~』』』』』
ただその途中で山精霊達が家精霊に声をかけ、かけられた家精霊は少し不機嫌そうな顔だ。
どうしたのかと見守っていると、今度は山精霊達が家精霊の周りをグルグルと回り出した。
その間もキャーキャーと鳴いて飛び跳ね・・・その内一体が家精霊に掴まれた。
『キャー!?』
驚いて鳴く山精霊を捕まえたまま、物干し竿へと向かっていく家精霊。
そして山精霊を洗濯ばさみで固定した所で、他の山精霊達は『キャー!』と逃げ出した。
けど庭の端で見えない結界にぶつかってひっくり返り、起き上がってバンバンと結界を叩く。
家精霊は静かに山精霊を捕まえ、庭に居た子のうち半分ぐらいを干してしまった。
多分干されたのは家精霊の周りを飛んでいた子だけなんだと思う。
『『『『『キャ~・・・』』』』』
しくしくと泣く山精霊と、それを冷たい目で見る家精霊と、どうしたら良いのか解らない私。
「や、山精霊が何言ったのか解らないけど、ほどほどで許してあげてね?」
とりあえず家精霊にそれだけ伝えるのが精いっぱいだった。
多分また山精霊が怒らせた事は解るけど、原因が解らないからなぁ。
悲し気に鳴く山精霊は可哀そうだけど、家精霊が理不尽な事するとは思えないし。
家精霊はそんな私の言葉に対し、にこりと笑って頷いてくれた。
だから多分大丈夫、だと思うけど・・・大丈夫だよね?
『『『『『キャー♪』』』』』
『『『『『キャー!』』』』』
・・・干されなかった子達が指さして笑っていて、干された子達が怒ってる。
何でこの子達自分達で喧嘩するんだろう。個体で個性があり過ぎる。
助けようという気配が無いんだけど、本当にそれで良いの?
山精霊達の行動に困惑していると、干されなかった子達が唐突に部品を運び始めた。
キャーキャーと楽し気に鳴きながら、作業場と倉庫に分かれて運び込んで行く。
『キャー♪』
「あ、ありがとう・・・」
今日の分を作業場に、残りを倉庫に入れておくねと、頭の上の子が教えてくれた。
干された自分達はもう放置らしい。その事に戸惑いつつも礼を返した。
そこで改めて冷静に現状を考え、本当に助かるなとしみじみ思う。
「うん、これだけの部品があれば試行錯誤も楽だし、改善の為に色々手を加えるのも凄く楽だし、改善点を纏めてから新しい材料で作る方が効率が良い。本当にありがとうね」
『キャー♪』
頭の上の子は何時も私と一緒だから、多分作業に参加はしてないだろうけど。
でもまあ良いよね。この子も山精霊だし。
『『『『『キャ~・・・!』』』』』
なんか、干された子達が恨めしい鳴き声出して頭の上の子睨んでる。
うーん、やっぱり干されてる子達、ちょっとかわいそうだなぁ。
「家精霊が良いって言うまで降ろしてあげられないのはごめんね・・・でも本当にありがとうね。この部品は君達が頑張ってくれたからだもんね。助かったよ」
『『『『『キャー・・・!』』』』』
干されている子達を撫でて、改めてお礼を言っておく。
すると山精霊達は泣きながら喜び、でもじたばたするだけで何も出来ない。
うん、なんか、余計に不憫になって来てしまった。もう下ろしてあげちゃダメかな?
「ねえ家精霊、許してあげるのは、駄目?」
フルフルと首を横に振られてしまった。うみゅ、そっかぁ・・・。
何となく悪いのが山精霊だって解るから、これ以上何も言えないんだよねぇ。
「ごめんね山精霊。でもこれで、遠くない内に失敗作じゃない物を弟子達に渡せられると思う。それにリュナドさんも興味持ったみたいだし、彼にも渡せられる。ありがとう」
最初の試作品、リュナドさんが興味持って、持って行っちゃったんだよね。
失敗作だよって言ったけど、それでも良いって言って。
流石に失敗作渡したままは嫌だから、ちゃんと完成品を作って渡さないと。
態々私に礼をしたいって言い出すぐらいだったし・・・頑張らないと。
だってもう報酬先に貰っちゃった様なものだもんね。うん。
それに頼りにしてるって言われたし、尚の事頑張らないとだよね。
・・・怖がられてるって言われて、ちょっと不安になったけど、勘違いで良かった。
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「いらっしゃい、リュナドさん」
「ああ、邪魔する」
何時も通りの笑顔で出迎えたセレスに、ほっとしながら家の中に入る。
居間を見回すと彼女以外の姿が無く、今日はハニトラを呼んではいないらしい。
「ハニトラさんは、もうちょっとしたら来ると思う。さっき山精霊に伝言お願いしたから」
「・・・そう」
いや、別に呼ばなくて良いんだけど。どうもセレスはアイツも一緒にさせたがるな。
まあとりあえずその事は措いておこう。アイツが来るなら先に話しておく事がある。
「パック殿下から聞いたんだが、あの報告書に書かれてた武器を作ってみてるんだって?」
流石にこの話は、ハニトラが居る場所じゃできない。一応機密の類だ。
そもそもこの話に巻き込むには、アイツは何も出来ない人間すぎるからな。
・・・今更だが、アイツの名称ハニトラで定着してるな、俺の中でも。
セレスがそう呼ぶせいだし、アイツもそれを嫌がらないせいだと思うけど。
どう考えてもこの関係おかしいよな。ハニトラ呼びするなら。
「え、うん、作ってるね、最近は。まだ完成してないけど。アレ作るの難しくて」
「そう、なのか」
どうでも良い事を考えて居たら、セレスからあまりに予想外な言葉が返された。
俺の中でのセレスという存在は、作れない物など無いという印象が強い。
そのセレスが作れないと言い出すとなると・・・。
「素材が無いのか?」
「ううん、素材はあるよ」
「・・・そうなのか」
それは尚の事驚く言葉だ。つまりそれは、一つとても大きな事実が生まれたのだから。
セレスが、あのセレスが難しいという道具を作った錬金術師。
そんな存在を抱える国がある。その事実で背筋に冷たいものを感じる。
「セレスでも、作れそうに無い物、なのか?」
若干手と声を震わせながら問うと、彼女はキョトンとした顔を向けた。
まるで何を言っているのかコイツはと、そう言っている様な表情だ。
ただ彼女はすぐにその表情を消し、にっこりと笑顔を向けて来る。
「別にそんな事は無いと思う。何回か試行錯誤してればそのうち作れる様にはなると思う。全くの発想ゼロからじゃなくて、既に現物が存在してるって知ってるから。ならその道具を使った事実を並べて行けば、おのずと機構は想像できるし。まだ完全にじゃないけど」
そしてセレスは、当然のようにそんな事を言い放った。
ああ、パック殿下の言っていた事が、何となく解ってしまった。
自らの上を行っている道具、想像すらしなかった道具、けれどそれだけでしかない。
存在すると知っているなら再現するのは難しくない。
なんて、そんな馬鹿げた事を言ってるんだ、目の前の錬金術師殿は。
見て事実を並べただけで、今まで存在してなかったものを再現する。
そんな事を当たり前に出来る人間なんて、相手にしてみれば恐ろしいにも程がある。
「・・・ははっ、流石だな・・・いつもながら恐れ入るよ」
「え、そ、そう、なの?」
ただ俺の反応を見た彼女は、意外そうな顔で問い返して来た。
その理由は解らないが、不快という訳ではなさそうだ。
「ああ、頼りになるよ、本当に」
「頼りに・・・なら、良い、か」
こんな事、今更な話だと思うがな。いや、セレスにとっては大事な事なのか?
確かに考えてみると、最近はセレスの弱い所をよく見てるからな。
彼女にとっては頼りに見える部分も必要、という風にでも思っていたのかもしれない。
「一応試作品は出来たんだけど、上手く行かなくてね」
「・・・え、出来てるのか?」
まさか既に現物が出来上がってる、とは思ってなかった。
完成していないというのは、言葉通り完全な物が出来てないって意味だったのか。
「あ、うん。でも失敗作だよ」
「失敗作でも、良ければ見せて欲しいんだが・・・」
「え・・・いいけど、でも、本当に失敗作だよ?」
「ああ、失敗作で構わない。頼む」
「んー・・・」
セレスは失敗作を渡すのが嫌だったのか、少しだけ思案した様子を見せる。
ただ最終的には納得してくれて、試作品を俺に見せてくれた。
その際扱いの注意もしっかりと受け・・・この道具の危険性に震えた。
これは、ヤバイ。シャレになってない。領主にも現物を見せた方が良い。
これは話で聞くよりも、実際に使った方がその危険度が良く解る。
「セレス、これ少しの間借りても良いか?」
「え、構わない、けど・・・」
「すまん、助かる」
はっきりと言い切らない辺り、本当は失敗作なんて渡したくないんだろう。
それでも許可をくれた事に感謝し、頭を下げて礼を告げる。
「また後で、改めて何か礼をする」
「え、い、良いよ、別に、気にしなくて」
「そういう訳にも行かないだろう」
「で、でも・・・」
セレスは報酬を受け取る気が無いと言い出し、流石にそういう訳にも行かないと返す。
そうしてお互いに意見を告げて居た結果。
「にへへぇ・・・」
「・・・その、セレス、これ、何時も通りな気がするんだが」
「んー、でも、私はこれで、幸せだから」
抱き着かせくれたらそれで良い、という良く解らない結論になった。
おかしい。どこで話がおかしくなった。そしてそのままハニトラも合流したし。
最早ただの何時もの流れでしかない気がするんだが・・・。
「・・・本当に幸せそうな顔してるな」
どの道後で報酬の類は用意するが、とりあえず今はもうこのまま好きにさせるか。
・・・どう考えても報酬になってないと思うけどな、これ。
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