第542話、試作品の出来が残念な錬金術師

パックに設計図を返してもらってから数日後、私は道具作りの毎日を過ごしていた。

勿論弟子達の授業や、マスターからの依頼品も作り、ライナの店にも行っている。

友達が遊びに来た時は手を休めるし、リュナドさんが来た時は当然手を止める。


ただそれ以外の時は、一人で何もする事が無い時は、ずっと作業に勤しんでいた。


「んー・・・とりあえず、これで出来た、かな?」

『『『『『キャー♪』』』』』


先ずは試作品をと、作り易そうな大きさを優先して作り、組み立て繋げてみた。

出来れば連射式に手を出してみたいけど、先ずは単純な単発式からだ。

筒と持ち手は別で作り、使う時につなげる形。だから筒側に弾を込めるだけで良い。


勿論この形で合ってるのかは解らないけど、想像でしか作れないから仕方ない。

山精霊は特にそういった事は気にせず、完成の踊りを踊っている。


「・・・うん、かみ合わせは問題無し、かな。ズレも無いね」


ガチャガチャと何度か止めて外してを繰り返し、問題ない事を確認。

兵士が扱っていたという事だし、扱いは多少荒かったはずだ。

となれば私の扱いでズレる程度となると、本物には遠く及ばない事になる。


そうはならなかった事に安堵しつつ、そっと筒を撫でながら本物に想いを馳せる。


「・・・凄いな、本当に」


とりあえず想像できた単純な作りの物を作っただけで、本物の凄さを実感する。

仕組み自体は単純なんだ。だって火薬で弾を打ち出すだけなんだから。

けどそれを安全に、不具合なく、どんな角度でも速射できる道具となると話が変わる。


「天才だね。これを考えた人は」


会った事の無いその人に、心からの尊敬の念を抱く。

もし私がこの武器の様に、誰にでも使える武器を考えたらどうなるだろうか。

きっと何かしらの魔法を組み込むか、特殊な素材を優先した物を作る。


それには相応の魔法の技術が必要になるし、珍しい素材を探す必要も出て来る。

勿論これも相応の技術と知識は必要だけど、その気になれば誰でも何時でも作れる道具だ。

鉱物が取れる所なら作れる道具。火薬の材料があれば作れる道具。


これを考えた人は、技術が一歩所か二歩も三歩も違う世界を歩んでいる。

少なくとも私は、あの報告書に外観と扱い方が描かれてなければ作れなかった。


「さて、それに一歩でも届いたかどうか・・・」


組み上げた筒を右手に、そして左手にとあるものを詰めた箱を持って外に出る。

すると山精霊もワクワクした顔で、家精霊は心配そうな表情でついて来た。

庭に出たら一度繋げた筒と持ち手を外し、ブランとさせながら精霊達に目を向ける。


「ちょと離れててね」

『『『『『キャー!』』』』』


念の為精霊達には離れている様に告げ、箱からこの筒の為の専用の道具を取り出す。

その取り出した専用の『弾』を詰め、きちんと筒にひっかかっている事を確認。

がちゃんと音をさせて筒と持ち手を繋ぎ、そのままブンブンと振る。


「ん、飛び出す様子は無いね」


弾がすっぽ抜ける事なく、しっかりと筒の中で固定されている。

一応筒完成前に確認はしていたけど、再度の確認は大事な事だ。


正直な所、今回一番大変だったのはむしろ弾だった。

筒の方は極端な話、もっと粗雑な作りでも出来ない事は無い。

勿論その場合事故が起きる可能性や、弾がまともに飛んで行かない可能性が在る。


けどこの道具の要となるのは、その飛んでいく弾だ。これが無ければただの筒だ。


「弾と火薬の入れ物には苦戦したな・・・」


パックに説明した通り、一つの入れ物の中に火薬と弾を詰めた筒を手に取り呟く。

どちらに弾があるのか解り易いように、弾のついている方はむき出しになっている。

そしてその後ろには火薬を詰め・・・この火薬に関して物凄く試行錯誤した。


詰める火薬の種類や、爆発のスイッチはどういった物にするか、分量はどの程度か。

おかげで何度か家精霊に叱られた。ちゃんと休む様にと。

多分一回暴発させたのが原因だろう。アレは疲れからのミスじゃないんだけどなぁ。


ともあれそんな紆余曲折ありながら、私が辿り着いた一つの答え。

その弾と火薬・・・弾薬で良いかな。それを込めた筒を水平に構える。


「山精霊、家精霊、念の為警戒お願いね」

『『『『『キャー♪』』』』』


山精霊がはーいと応える様に鳴き、家精霊は心配そうな顔のまま頷く。

それを確認してから、視線を筒の先へと向ける。その先にあるのは森の木だ。


「ん、じゃあ・・・いくよ」


持ち手に付けられたスイッチを握り込む事で、ばね仕掛けの絡繰りが作動する。

勢いよく弾薬の底を叩く事により、中に火花が発生する仕組みが作動。

その火花が火薬に引火して、バァンと音を鳴らして弾が飛んでいく。


その速度は当然殺傷力があり、武器としての威力は相当なものだった。


「・・・まあ、試作品だし、こんなもんかな」


ただその弾の飛び方を見るに、どう見ても武器としての精度は微妙だ。

先ず思った通りに弾が飛んで行かない。これは多分弾の形の問題もあるかな。

それに先ずは形にしたいからと、筒の方もそこまで凝った作りにしていないのも要因か。


「ここから真っ直ぐ飛ばす様に、後威力の調整もかな・・・熱の問題もあるなぁ・・・」


当然だけど、火薬が爆発したのだから熱を持つ。それは筒にも当然伝わる。

持ち手から外そうとした際手に伝わる熱から、色々と不具合を察せざるを得ない。


「これじゃ、小型の完成はまだ遠いね・・・」


筒も持ち手も弾薬も、私一人で作るにはどうにも辛い物が有るなぁ。


「せめて部品の量産が出来れば違うんだけど・・・仕方ないか」


弟子達や友達にに渡せればいいかなぁ、っていう程度の事だし、のんびりやろうかな。


『『『『『キャー!』』』』』

「ん、ど、どうしたんだろう・・・」


なんか突然山精霊達が叫び出して、だーっと家に帰って行った。

何か新しい遊びでも思いついたのかな・・・。


ー------------------------------------------


主が最近やけに楽しそうで、僕達もとても楽しい。

でも何故か家は主を叱るから良くない。折角楽しそうなのに。

疲れたらちゃんと寝るのにね。昨日もパックと一緒に寝てたし。


「んー・・・とりあえず、これで出来た、かな?」

『『『『『わーい♪』』』』』


そんな主が最近ずっとうんうん唸りながら作ってたものが出来たらしい。

嬉しそうな主の様子が嬉しくて、僕達も完成の踊りで主を祝う。

でもあれ何なんだろう。なんか筒のついた変な物だ。


不思議に思った所で主が外に出て行くから、僕達も何となくついて行く。

そして外に出ると筒に何かを詰め込み、筒を木に向かって構えた。

主に警戒をと言われたけど、何を警戒したら良いのか解らない。


でもとりあえず返事をしておいて、言われた通りにちょっと離れる。


『あれ何かな』

『火薬詰めてたよー?』

『じゃあ爆弾?』

『でも主手に持ったままだよ?』

『僕知ってる。昨日ぱーんって鳴ったの入れたんだよ』

『え、バーンやだ』

『バーンじゃないよ、ぱーんだよ』


僕達があれ何だろうと話していると、爆弾が爆発する時と似た様な音が鳴った。

その音の場所が筒だったから、主が心配で僕達は駆け寄る。

でも主は特に問題ない表情で筒を持っていて、僕達皆ほっと息を吐いた。


『びっくりしたー・・・』

『だから僕言ったじゃん。昨日パーンって鳴らしたやつだって』

『僕知らなかったもん!』

『でも僕言ったもん!』

『ねえねえ、主の様子変じゃないー?』


喧嘩する僕達に僕が声をかけ、そこで主が少し難しい表情をしている事に気が付く。

どうしたんだろう。何か悩んでるのかな。もしかして今ので怪我したの!?


「これじゃ、小型の完成はまだ遠いね・・・せめて部品の量産が出来れば違うんだけど・・・仕方ないか」


小型・・・量産? 主が持ってる道具の部品かな。いっぱい欲しいのかな・・・そうだ!


『ねえねえ、主が部品いっぱい欲しいなら、僕達が作ればいっぱい出来るよね。そしたら主は喜ぶし、僕達はいっぱい主に褒められるよね』

『賢い。流石僕』

『これでまた主に褒められる!』

『主に褒められるなら僕もやるー!』

『僕設計図の置き場所知ってる!』

『僕も知ってるもんね! 早い者勝ちだい! 一番最初に褒められるのは僕だー!』

『『『『『あ、待てー!』』』』』


ふふん! これでまた家より役に立っちゃうもん!

主を叱る家より、役に立つ僕達の方が大好き、って言われる日も近いね!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る