第521話、弟子達と幸せな夜を過ごす錬金術師

パックへ泊まる様に告げ、了承で返した彼に満足しながら家に帰る。

これで暫くは三人で寝られるね。とても嬉しい。

勿論パックの体が心配なのも本当だ。この子はちょっと無理をする。


というか、うちの弟子達は少し頑張り過ぎる。ならしっかり休ませないと。


メイラは殆ど毎日家で寝てるから問題無いけど、パックはたまにしか泊まらないし。

これで後はリュナドさんも一緒なら嬉しいけど、そうなると流石にベッドが狭いかな。

詰めれば4人転がれなくはないけど、寝返りを打ったら落ちると思うし。


そうだ。ならいっそ、全員で寝られるベッドでも作ってしまおうか。

私と弟子達とリュナドさんとハニトラさんと、それに家精霊も一緒に寝れる大きさを。

あ、でも、あのベッドはずっと家に有る物だし、家精霊にとっては大事な物だよね。


あの子は自分が生まれた家を大事に扱って、数少ない残ってた物も大事に扱っている。

なら家精霊にとっては、この家に残っていた物はとても大事な物なはず。

ベッドもその一つだろうし、そんな大事な物を変えるのは良くないか。


「ただいま」


結論を出した所で庭に降り立ち、迎えてくれた家精霊をぎゅっと抱きしめる。

嬉しそうに抱きしめ返す家精霊をの頭を撫でつつ、足元で鳴く山精霊に目を向ける。

僕達もーと言っているらしい精霊達を、クスクスと笑いながらしゃがんで撫でた。


「ただいま、精霊さん」

「ただいま」


メイラとパックも私と同じ様に精霊達の相手をして、それから家に入る。

山精霊達はそれでだけでご機嫌で、けど家精霊も同じ様子で可愛い。

声が聞こえたら鼻歌が聞こえそうな表情だ。こういう時は少しだけメイラが羨ましい。


洗濯物とか料理の時とか、時々鼻歌を歌ってるらしいんだよね。

この辺で聞いた事ない歌らしいから、昔住んでた住人の知る歌なんだろう。


「ベッドの用意は終わってる?」


ご機嫌そうな家精霊に訊ねると、にこりと笑って頷き返してくれた。

それに礼を言ってから二階に上がり、おもむろに服を脱――――げなかった。

メイラと家精霊が私の服と腕を掴んでいる。どうしたんだろう。


「パック君、ちょっと外で待ってて下さい」

「はい、勿論です」


パックはメイラの指示に従うまでも無く、扉の前で待機していた。

一体どうしたんだろうと首を傾げていると、メイラが困った表情を向けて来る。


「セレスさん、何でパック君の目の前で着替えようとしちゃうんですか・・・」

「あ、ごめん・・・」


パックの前で薄着にならないで欲しいと、パック本人から頼まれている。

だからパックが居る時様にと、寝間着を態々新しく作ってみた。

普段の寝間着の方が着心地は良いんだけど、弟子達が嫌がるんじゃ仕方ないし。


だからそれに着替えようと思ったんだけど、それも駄目だったらしい。

家族なんだし良いと思うんだけどなぁ。私の体を見るのが嫌なのかなぁ。


「家精霊さん、パック君は任せて良いかな」


私が首を傾げて悩んでいる内に、メイラに頼まれた家精霊は着替えを持って行く。

自分の寝間着を作るついでに、弟子達の分も作ったんだよね。

何ならリュナドさんとハニトラさんの分もあるよ。まだ使った事ないけど。


むしろ今度ハニトラさんに届けに行こうかな。気に入って貰えるかな。


「えっと、もう着替えても良い?」

「はい、構いませんよ」


メイラに許可を貰って服を脱ぐと、メイラも同じ様に服を脱ぎだす。

そして二人共寝間着に着替え終わると、山精霊達も同じ様な格好になっていた。

山精霊達と一緒にパックを呼びに行くと、彼も既に着替え終わっていた。


「どうですかパック君。良いでしょうこの寝間着」

「はい。とても可愛らしいですよ、メイラ様」


楽しそうに訊ねたメイラだったけれど、パックの返答を聞いて固まった。

それどころか少し顔が赤く、視線を彷徨わせながら口を開く。


「・・・ありがとうございます。えっと、そうじゃなくて、着心地はと、いうつもりで」

「着心地は勿論良いですよ。流石先生の作った服です」


この寝間着の着心地は、メイラは事前に確かめている。

だからパックに訊ねたのだろうけど、思っていた事と違う返事だった。

少し照れた様子を見せながら、聞きたかった事を改めて聞き直す事になった様だ。


でも私も可愛いと思うよ。そう見える様に作ったつもりだし似合ってる。

自分の分は、まあうん、ちゃんと作りはしたけど、寝心地が良ければいいかなって。


「・・・パック君も可愛いですよ」

「ふふっ、ありがとうございます」

「むう」


メイラは少し膨れながらパックを褒め、けれど喜ぶパックに不満そうだ。

何て答えて欲しかったんだろう、なんて首を傾げているとパックの目が私へ向いた。


「先生も、とても似合っておりますね」

「ん、そう? ありがとう」


薄着の寝間着の時と違って、パックは真っ直ぐに見つめて褒めてくれた。

やっぱり私の体が見えるのが嫌なのかな。そうなのかも。


「じゃあ寝よっか。パックが真ん中ね」

「その、偶には僕が端の方が――――」

「はいはいパック君は真ん中です。お師匠様の言う事は聞きましょうね」

「あ、ちょっと、メイラ様・・・!」


パックの手を掴んでベッドに向かい、メイラと一緒に彼を真ん中に寝かせる。

そして二人でパックにぎゅっと抱き着き、というか私は二人共抱きしめている。


「ふふっ、おやすみ、二人共」

「はい、おやすみなさい、セレスさん。パック君も」

「・・・おやすみなさい」


二人の温かい体温にご機嫌になりながら就寝の言葉を告げ、メイラも楽し気応えてくれる。

ただパックは普段と違って弱弱しい声で、でも寝る時は大体何時もこうだ。

最初は気になって訊ねたけど、別に問題無いと言う事は解っている。


なのでしっかりと抱きしめて目を瞑り、意識が落ちるまで幸せな時間を過ごした。


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暫くの間泊まる様にと告げたセレスさんは、とてもご機嫌そうに見えた。

勿論何か理由があってなんだろうけど、それとは別に喜んでいる事が解る。

だって普段から言ってるもん。もっとパックは泊って行けば良いのにって。


基本的にパック君は通いだから、滅多に泊って行くような事は無い。

余程疲れて仕方ない、みたいな時だけ泊って行く感じだ。

その時のセレスさんは何時も嬉しそうで、絶対彼を真ん中に寝かせる。


ただ困るのは、相変らずパック君を男性と見て居ない事だろうか。

勿論セレスさんにとっては子供なんだろうけど、それでも男の子なんです。

慌てて服を脱ぐセレスさんを止め、パック君の着替えを家精霊に任せた。


「えっと、もう着替えても良い?」

「はい、構いませんよ」


何だか立場が逆転した気持ちを抱えながら、セレスさんに許可を出して私も着替える。

この寝間着は態々パック君と一緒に気持ち良く寝る為に作ったと聞いた。

その気合の入れようが解る着心地で、これを着て寝るといつも以上に眠れてしまう。


始めて着た時はうっかり寝坊しかけたぐらいだ。セレスさんの作る物は色々危ない。


『ねまきー!』

『おそろーい!』

『メイラと主とおそろーい!』

「ふふっ、そうだね」


山精霊達は私達が同じ様な格好なのが羨ましかったらしい。

何時もの様に服を変えて、皆同じ様な寝間着になっている。

ご機嫌な山精霊と一緒にパック君を呼びに行くと、彼も同じ様な服装になっている。


なのに何故だろう、パック君が着ると少し違う服に見える。

何と言うかちょっとかっこいい。おかしいな、可愛らしい服なのに。

それは兎も角として、彼がこの服を着るのは初めてで、ならきっと着心地に驚いているはず。


「どうですかパック君。良いでしょうこの寝間着」

「はい。とても可愛らしいですよ、メイラ様」


・・・違う。そうじゃないです。私が聞きたかったのはそっちじゃないです。

いやえっと、可愛いと言われた事が嫌な訳じゃないけど、違うんです。


不意打ち気味だったせいで顔を赤くしていると、彼は楽し気な笑みを見せて来る。

それどころか背後から家精霊のクスクスと言う笑いと、セレスさんまでちょっと笑っている。

そのせいで余計に恥ずかしい気持ちになり、ちょっとむくれて仕返しをした。


セレスさんの一番の目的であろう、パック君を抱きしめて寝る手伝いを。

ふふふ、パック君逃がしませんよ。さあ大人しく真ん中に寝るんです。

更に逃がすまいとぎゅっと抱き着き、セレスさんが私ごと抱きしめる。


すると彼は耳まで真っ赤になって、蚊の鳴くような声で就寝挨拶を返した。

ふふふ、仕返し完了です。可愛いですよパック君。本当に可愛いです。






・・・パック君。貴方はちょっと頑張りすぎだと思いますよ。

毎日の勉強に、戦闘の訓練に、王族の仕事に、それ以外にも細々と。

私の知らない所で無理してますよね。だからセレスさんの心配も当然ですよ。


多分これから何かが起きる事も事実で、その為の安全も考えてだとは思います。

それでもきっと、セレスさんは貴方の体を心配してたんだと思うよ。

この家で寝れば、せめて体の疲れだけでも取れるから。だから。


「・・・今だけでも、ゆっくり休んでね」


可愛い弟弟子の頭を優しく撫でて呟き、彼を抱きしめながらゆっくり意識を落とした。

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