第518話、友達の望みをかなえる錬金術師
取り合えず解決したという事で家に帰って来た。
庭には弟子達と家精霊、それに山精霊達も迎えてくれている。
もしかして帰って来るまでずっと外で待ってたのかな。
そう思いながら庭に降りると、二人共私の怪我の心配をしてくれていたらしい。
確かに一歩間違えれば大怪我だったかも。巻き添えにされてたらシャレにならない。
ともあれ無事な事を報告したら二人を抱きしめ・・・パックが逃げた。残念。
「二人きりで良い、のか?」
リュナドさんは二人と挨拶をした後に不思議な事を訪ねて来た。
しかも腰を抱いてい引き寄せて、わざわざ小声でボソッと呟く様にして。
「え・・・」
一瞬何の許可なのか良く解らなかったけど、そういえば後で話を聞くと言われてたっけ。
フルヴァドさんが二人きりで聞くと良い、みたいな事言ってたような気がする。
でも態々良いのか確認取る理由は良く解んないけど。だって私達よく二人っきりだし。
あ、そうか、弟子達を置いて行って良いか、っていう許可なのかな。
うーん、皆一緒が一番良いけど・・・リュナドさんが望むならそれで良いかな。
「うん、良いよ」
「メイラ、殿下、少々セレスを借りますね」
一瞬悩んだ後で頷いて応えると、彼はパックとメイラに告げて更に私を引き寄せる。
私は無抵抗でされるがまま、弟子達が了承を返すのを眺めていた。
とはいえリュナドさんが望んで私が応えた以上、二人が文句を言うはずもない。
別に私が居ないといけない状況でも無いし、むしろ二人共今は休むべきだしね。
何て思いながらリュナドさんに促されて家に向かい、背後から二人の会話が耳に届く。
「パック君、やっぱり最近のリュナドさん、前より積極的だよね」
「ええ、先生の腰に手を持って行く動きが自然になってますね」
積極的・・・そうかな・・・そうかも。でも多分私に合わせてくれてるだけだよね。
私が彼に好意をもっと示す様になってからだもん。大好きってもっと伝える様になってから。
でも自然に応えてくれてるって事は、彼も私の事を好きでいてくれてるって思って良いのかな。
パックが自然って言うなら本当に自然なんだろうし・・・だったら嬉しいな。
「・・・暫く出てた方が良いかな」
「・・・ライナさんの店にでも避難しましょうか」
え、なにそれ。私も行きたい。いやでもリュナドさん置いていけない。
なら皆でライナの店に・・・だめだ、さっき彼は二人っきりって言ったし。
既にそれで良いって答えたんだし、二人っきりじゃないとだめなのかもだし。
うう、残念だけど仕方ない。いや勿論リュナドさんと一緒なのは嬉しいんだけど。
「・・・すまん」
「?」
家に入った所で突然リュナドさんが謝って来て、私の腰から手を離した。
何を謝られたのか解らなかった私は首を傾げ、けれどついさっきの思考から理解する。
多分彼の事だから、私が本当は二人と一緒に行きたい、って事に気が付いてたんだと思う。
その優しい気遣いに思わず頬が緩み、胸が暖かくなる気がした。
「気にしないで。私は良いよ」
手を放して少し離れた彼に対し、それを埋める様に一歩踏み込んで近づく私。
さっき彼がしていた様に腰に手を回し、もう片手は彼の背中に回す。
んー、落ち着く。彼に抱き着いてる時は本当に心地良い。彼の匂いも好きだ。
「リュナドさんと二人は嬉しいよ。大好きだからね」
これは心からの本心。勿論みんな一緒が一番良いけど、彼と二人っきりも凄く良い。
その気持ちを伝える様にぎゅっと抱きしめると、彼も一度話した手を回してくれた。
ふふっ、背中にリュナドさんの手がある。頬に彼の頬が当たる。にへへ。
「・・・いや、まあ、うん・・・とりあえず玄関前でずっとこうしてても二人が困るだろうし、その、セレスの部屋で良いか?」
「うん? うん、解った」
確かにここに立ってると出入りの邪魔だと思い、名残惜しいけど彼から離れる。
でも二人共ライナの所に行くって言ってたし、家には入って来ないんじゃないかな。
そうは思いつつも二階へ向かい、その間は流石に手も繋いでいない。
階段で手を繋いで歩くのは危ないからね。並んで歩けるほど広くないし。
小さい子とかだったら手をつないだ方が良いとは思うけど。
「あ、リュナドさん、ベッドで良い? 椅子が要るなら取って来るけど」
「・・・あー、うん、ベッドで良いです」
「ん、解った。どうぞ」
一瞬悩む様子を見せたけど、頷いて応えた彼に座る様に促す。
私の隣をポンポンと叩き、彼はそんな私を見て少し困った表情を見せた。
あれ、何でそんな顔してるんだろう・・・はしゃぎすぎたかな。
いやでも最近彼と二人の時はいつもこんな感じだよね。そうだよね?
なら知らない内に変な事言っちゃったかな。でもそれなら教えてくれると思う。
いったいどうしたんだろうと首を傾げていると、少ししてから彼は隣に座った。
「・・・とりあえず・・・あー、まず何から聞くべきなのか」
ああ、聞く内容を悩んでたのか。私が何かした訳じゃないんだね。良かった。
ー-----------------------------------------
セレスの家に入った後、思わず謝罪を口にしながら手を放す。
別に必要な状況もでないのに、まるで恋人の様な態度を彼女の弟子達の前で見せてしまった。
ただそんな俺に対しセレスが取った行動は、がっちりと俺を掴んで抱きしめ返す事だったが。
「気にしないで。私は良いよ。リュナドさんと二人は嬉しいよ。大好きだからね」
友人として。そういう声に出していない言葉が後に付いて来るのが聞こえた。
解っているつもりでも正直ダメージがでかい。そして分かっていながら腕を回してしまう。
幸せそうに笑うセレスの声を聴きながら、俺は俺でどういう顔をしているのか。
決定的に違う感情を向けている俺に対し、セレスは友人として許容するんだよな。
それがセレスの自身想いと違っても構わないと、そう告げられるのは中々にきつい。
「・・・いや、まあ、うん・・・とりあえず玄関前でずっとこうしてても二人が困るだろうし、その、セレスの部屋で良いか?」
自分の気持ちを誤魔化す様に、とりあえず話を進めてしまおうと言葉を口からひりだす。
そんな俺の気持ちを理解してか知らずか、セレスは少し首を傾げながら頷いた。
別に気にしなくて良いのにと、そう言われている気がしてしまうのは気のせいだろうか。
二階のセレスの部屋に入ると、相変らず彼女の私室には物が殆ど無い。
倉庫や居間は物で溢れているのに、この部屋だけはとても簡素な光景に見える。
ただ寝るだけの為の部屋。そう言わんばかりだ。
そしてそんな部屋のベッドに彼女は腰かけ、俺に隣に来るように催促する。
ここが良いんだろうと言われてる気分で、かつベッドという事で余計な事も考えてしまう。
ただ流石にそこで固まっている俺をみかねたのか、少しだけ彼女の目が鋭くなった。
とっとと座れって事ですね。はい解りました。座ります。睨まなくても良いじゃないっすか。
「・・・とりあえず・・・あー、まず何から聞くべきなのか」
やけに静かな部屋の中で、色々と纏まらない頭で何を聞くべきか悩む。
そこでふと気が付いた。静か過ぎやしないかと。精霊達が何時もの様に騒いでないと。
「あれ、アイツらどこ行ったんだ」
「ん、どうしたのリュナドさん」
「いや、精霊達が居ないからさ」
「二人っきりが良いって言ったから、付いてこなかったんじゃないかな」
・・・山精霊達にそんな気遣いが出来たのか。初めて知ったぞ。
というか逆に困るわ。お前らは別に居ても良いよ。どうせお前らだし。
むしろ居てくれないと何かのブレーキが壊れそうで怖い。
というか今更気が付いたが、何時もセレスの頭の上に居る奴も居ねーじゃねーか。
何時から居なかったんだ。そう言えば玄関前の時点では既に居なかった様な。
マジで勘弁してくれ。戻って来てくれ。
「あ、でも、家精霊は部屋に居なくても見えてると思うけど」
「・・・そう言えばそうだったな」
一瞬で冷静になった。よく考えると俺何時も精霊に見られてるのか。
いやもう良いや。どうせ恥かいてるのは何時もの事だし。
つーかセレス全部解ってて俺で遊んでない? ねえ遊ばれてない?
・・・はぁ、もとりあえず俺はやるべき事をやれって事だな。
やけに楽し気なセレスの様子に肩を落とし、色々と諦めの心で結論を出す。
そして小さくため息を吐いてから、改めてセレスに向き直った。
「じゃあ先ず、あの場で何があったのか、アスバの言う事が合っているのか・・・何より飛んで行った奴は何者なのか。詳しく聞かせて貰えるか?」
「え、うん、えっと・・・うーん・・・」
セレスさん、何で自然に俺の手と腕を握って寄りかかってるんですかね。
ちゃんと真面目な話しようとしてるんで俺で遊ぶのは一旦止めて頂けませんか。
それに何を悩んでるふりしてるんですか。少なくとも最初は絶対悩む要素ないと思うんですが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます