第517話、とりあえず解散する錬金術師
「・・・色々と問い詰めたい所ではあるけど、そういう事にしておいてあげるわ」
え、えっと、えと、わ、私は一体何を問い詰められるの?
いやでも、納得してくれたって事で良いのかな。良いんだよね?
よ、良かったぁ。一体何を怒られるのかと思った。
「・・・ありがとう」
混乱してお礼で返したけど、そもそもそれも何か違う気がするような。
私は二人を止めようとしただけなのに、何でこんな事になったのか。
まあ、良いか。止まってくれたし。アスバちゃんに怪我が無くて良かった。
そう思い二人が何か話している間にホッと息を吐き、そこでドッと力が抜けた。
そうしてぼーっとしていると、リュナドさんの声が耳に入り意識を戻す。
彼が慌ててやって来たからか、足元の精霊達もキャーキャーと慌ただしい様子だ。
ただ状況が解決したことを理解すると、彼も精霊も落ち着いた様子になったけど。
「詳しい話は・・・まあ後でセレス殿に二人きりで聞いてくれ」
え、フルヴァドさん待って。私に聞かれても困るんだけど。
詳しい話どころか私何にも解ってない内に飛び込んで止めただけだよ。
先ず何で二人は喧嘩してたの。私そこから何も解ってないんだけど。
「えーと・・・とりあえずもう問題ないって事で良い、のか?」
「おそらくは」
「・・・そっか」
私が困惑している間も二人の会話は進み、何故か私をチラッと見ながら頷き合う。
今の何だろう。ちょっと不安になるんだけど・・・いやでも大丈夫かな。
単純に解決したんだって納得しただけだよね。多分そうだと思う。
「所でリュナド殿、私は何故呼ばれたのだろう。今会ったついでに聞ける内容なのだろうか」
「え、ああ、えっと、何て言えば良いのか、不審な奴を見かけ・・・いや見てはいないんだが、見てないから問題というか・・・精霊も見えてなかったらしいし・・・」
「精霊も見ていない不審者・・・成程、貴方も彼女の存在に気が付いていたのか」
「へ・・・あー・・・もしかしさっき逃げた奴って」
「おそらく貴方の言う『見えない不審者』のは彼女の事だろう」
「マジか・・・」
・・・見えない不審者って、何か凄い言葉だね。見えてないのに何が不審だったのかな。
「となると何も感じていなかったのは私だけ、という事になるのだな」
「え、その剣を持ってても無理だったのか?」
「いや、テオを持てば問題は無かったが・・・持っていなければ相変わらずの凡人だなと痛感したよ。危うく人質に取られてしまう所だった。本当に情けない」
え、なにそれ、人質って。一体何が有ったらそんな事に。
というかあの人フルヴァドさん人質にしようとしたの?
「・・・何それ・・・何、されたの」
思わず低く唸ってしまった。だってそんなの納得がいかない。
見た所彼女に怪我は無い様だけど、あの人は一体何をするつもりだったのか。
アスバちゃんは兎も角、フルヴァドさんが喧嘩を吹っ掛けるなんて思えない。
そんな彼女に、私の大事な友達に、あの女は何をした。
「だ、大丈夫だセレス殿。大した事はされていない。ただ捕えれられ、開放する代わりに逃がせとアスバ殿に要求しただけだ。それも私が自力で逃れたので上手くは行かなかったが。そもそも彼女もアスバ殿に絡まれて仕方なく、といった所だったのだろう」
「・・・そう」
一瞬怒りで意識が染まりかけたけど、それなら何となく仕方ないと思った。
それに今の言い方だと・・・絡んだのアスバちゃんからって事だよね。
なら本当に仕方なくフルヴァドさんを捕えて、身の安全を確保しようとしたのかも。
となるとさっきの状況は、逃げられないから応戦してたって事なのかな。
苦手な人だって事もあってすぐに悪く考えてしまった。これは本当に悪い癖だ。
危ない危ない。思わず怒りの余り追いかける所だったよ。
もう私同じ事何回するつもりなの。何度も何度も反省したはずなのに。
友達が危ないと思うと冷静な思考が吹き飛んでしまう。でも・・・。
「・・・無事で、良かった」
「ああ、ありがとう。この通り問題ない。テオもそろそろ元に戻っても良いんじゃないか?」
本当に良かったと思いながら告げると、フルヴァドさんも笑顔で応えてくれた。
そして精霊殺しに話しかけ、けれどその剣が人型に戻る様子は無い。
ただ彼女が何度か話しかけると、唐突に彼女の手から消えてしまった。
「・・・どこ、行ったの?」
「ライナ殿の店に戻った。無断で来たから謝りに行くと。後で私も謝りに行って来るよ」
「・・・そっか。でもライナなら、精霊殺しが謝れば許してくれると思うよ」
「私もそう思う。それでも礼儀は通さねば。私はテオのマスターだからな」
笑顔でそう告げる彼女の言葉は、とてもフルヴァドさんらしいと思った。
私なら許してくれると思ってても、不安になって行くまでに時間がかかるし。
「話は終わったかしら。じゃあ私はもう行くわよ」
「え、おい、アスバ、何があったのかもうちょっと詳しく――――」
「あの女が隠匿を使って街をうろついてたから、不審に思ってフルヴァドと二人で捕縛しようとしたら、そこの錬金術師が止めに入って逃がす事になった。私からはそれで終わりよ」
「――――お、おい・・・なんだあいつ、何であんなに気が立ってんだ?」
言う事はいったという様子で去って行くアスバちゃんを、私達は見送るしか出来なかった。
だって怖いし。何とか許されたのにまた怒らせるの嫌だし。解散解散。
アスバちゃんにはまた機嫌の良い時に家精霊のお茶をご馳走しよう。
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とりあえずアスバのざっくりした説明で、何が起こったのかは大体解った。
そしてフルヴァドさんがセレスに聞け、といった理由も何となく察した。
つまりその不審な人物とは、セレスがらみの人物なのだと。
「では私もこの辺りで行かせて貰うが・・・良いかな?」
「あー・・・そうだな。領主への報告は俺がやっておくよ」
何にせよこのまま帰るという訳にも行かず、そして俺はセレスから話を行く必要がある。
となれば今無理に彼女を連れて行く必要は無いし、情報共有も後で良いだろう。
「すまないが宜しく頼む。ではまた、二人共」
彼女が手を上げて去って行くのを見送り、その後精霊達に連絡を頼む。
「とりあえず事態は解決。警戒態勢も解除だ。頼んだぞ」
『『『『『『キャー!』』』』』
整列して敬礼をして鳴き声を上げた精霊達。その後隊列を崩してバラバラに走り出す。
最後まできっちり頑張れよと思わなくも無いが、あれが精霊なので仕方ない。
とりあえずこれで避難した住民もしばらくすれば戻って来るだろう。
あとは・・・物凄く機嫌の悪そうな錬金術師様に話を聞かねばならないのが辛い。
「あー・・・セレス、とりあえず場所変えようか。セレスの家で良いか?」
「・・・ん、解った。乗って」
弟子達と家精霊の存在に頼ろうと日和った俺の提案は、アッサリと受け入れられた。
そうして彼女の広げた絨毯に乗り、残った精霊達も一緒に彼女の家へと向かう。
庭の上に着くと弟子達が外に出ていて、セレスの帰宅にホッと安堵の表情を見せた。
「セレスさん、おかえりなさい。けがは有りませんか?」
「ご無事で何よりです、先生」
「ん、ありがとう。怪我は無いよ」
『『『『『キャー♪』』』』』
庭に降りると寄って来た弟子達を抱きしめ、完全に機嫌よくなっているセレスが居た。
よし、家に戻ったの大正解だな。緩い笑顔に戻ってる。仮面付けてっから声音からの予測だが。
精霊達は適当だ。あいつらはその場の勢いで生きてる。
「リュナドさんも、いらっしゃいませ」
「挨拶が遅れました。申し訳ありません」
「いや、こちらこそお邪魔します」
最近はもうだいぶ慣れてくれたメイラと、今日は弟子状態で迎えるパック殿下。
二人に今更感のある挨拶をしてから、仮面を外したセレスの様子を見る。
やっぱり機嫌が戻っている様で、予想通り緩い表情になっている。
「でだ、セレス・・・あー、いや」
詳しい話を改めて聞こうと思った所で、ふとフルヴァドさんの言っていた事を思い出す。
彼女が無駄な事を言うとは思えないし、けど念の為確認しようとセレスに近づく。
そして彼女の耳に口を近づけ、ボソッと呟く様に問う。
「二人きりで良い、のか?」
「え・・・うん、良いよ」
弟子達には聞かせなくて良いのか、という意味で問うたつもりだった。
けどセレスは素直に頷き、つまり弟子達にも下手に聞かせたくないって事だろう。
何を聞かされるのか少々怖いが、それでも聞けることは聞いておきたい。
「メイラ、殿下、少々セレスを借りますね」
「は、はい。ど、どうぞ」
「先生が受けたのであれば僕からは何も」
一応弟子二人に許可を取っておく。弟子にも聞かせない話をするって事だしな。
二人からすれば自分達の方が近しい人間なのに、という不満もあるかもしれないし。
まあ俺に話せる内容なら、何時かは殿下には話すような気もするが。
「パック君、やっぱり最近のリュナドさん、前より積極的だよね」
「ええ、先生の腰に手を持って行く動きが自然になってますね」
「・・・暫く出てた方が良いかな」
「・・・ライナさんの店にでも避難しましょうか」
待って、何か勘違いされてる。何このセレスの腰にある手。完全に無意識だったんだけど。
いかん、最近の演技やら、セレスを抱きしめ返してるのやらで色々おかしくなってる。
『くふっ』
おい今人魚の声聞こえたぞ! お前何処から見てやがった!!
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