第514話、異変を感じる錬金術師

「今日はこの辺りにしておこう。お疲れ様、二人共」

「「お、おつかれさまでしたぁ・・・」」

『『『『『キャー・・・』』』』』


ぐったりとした状態で座り込み、口から魂が出そうな表情で応える二人。

肉体的な疲労は全然ないだろうけど、気力的に疲れ切ってる感じだ。

まあ魔力切れの状態を意図的にずっとやってた訳だから当然だけども。


精霊達がぐったりしてるのは良く解らない。何で君達もよちよち歩いてたのかな。

そもそも君達が魔力切れに近くなったら存在を保てないと思うんだけど。


「今日は初めてやるから少し長めに時間を撮ったけど、明日からは夕方の短時間に少しだけやる様にしようか。そんなに根詰めてやる事でもないし、二人共歩く程度は出来るみたいだし」

「「わ、わかりましたぁ・・・」」

『『『『『キャー・・・』』』』』


せめてその場から動ける程度の事は出来るなら、精霊が居れば逃げる程度は出来るだろう。

何故か今日はぐったりしている精霊達だけど、普段はこの子達が護衛についてる訳だし。


「今日はパックも泊って行きなよ。その状態じゃ帰り道辛いでしょ」

「は、はい、そうします・・・」


やった。今日はパックも抱きしめて寝よう。パックを真ん中にして三人で寝ようかな。

私が真ん中の方が良い様に思えるけど、そうすると二人を抱きしめて寝られないからね。

暫くは三人で寝泊まりになりそう。パックが何か仕事で呼ばれない限りはだけど。


「夕食の時間にはちょっと早いし、家精霊にお茶でも入れて貰おうね」


今日も夕食はライナの店に行くけど、移動は私の絨毯になるだろうな。

パックが居る時はメイラが絨毯を飛ばすけど、今のメイラには絶対乗せられないし。

何時かはこの状態でも飛ぶ練習をさせたいけど、それもまたそのうちかな。


慣れたら歩くより絨毯の方が楽だから、そうなるまでは三人乗りだ。

二人を抱きしめながら飛べると思うと今からちょっと嬉しい。


「じゃあ、お願いしても良い――――」


こちらを笑顔で見つめている家精霊に声をかけようとして、その瞬間衝撃が走った。

ただそれは地面や空気の振動を感じたのではなく、力の波動を感じた様なものだ。

反射的に感じた方向へ視線を向けると、強く輝く光の柱が上っている。


「・・・あれは、多分、フルヴァドさん、だよね?」

『『『『『キャー♪』』』』』


強く輝くあの光は見覚えがあるし、この力の感覚にも覚えがある。

あれはフルヴァドさんの、精霊殺しを持った彼女の放つ光だと思う。

違ったとしても精霊達が楽し気に見つめているから、少なくとも敵対者の力じゃないはず。


「・・・何か、あったの、かな」


けど彼女だとしても、街中で彼女があんなに強い光を放つのは初めて見た気がする。

いや、初めてでは無いのか。精霊殺しと契約した時もあれぐらいだったかもしれない。

けど彼女がそれ以降あそこまで強く力を見せたのは――――――死体を殺した時だ。


「家精霊、私の外套取って来て。鞄も事前準備してるやつ。お願い」


私が取りに行くより早いと思い、家精霊に装備一式を持ってくる様に頼む。

家精霊は頷く時間も惜しいとばかりに動き、願い通りあっという間に持って来てくれた。


「ちょっと様子を見て来るね。何も無かったらすぐに帰って来るけど・・・家精霊はその間二人をお願い。山精霊達もお願いね、メイラもパックも暫くまともに動けないと思うから」


家精霊の領域なら万が一は無いと思う。

それでも何があるか解らないし、山精霊にも頼んでおいた。

この子達は家精霊には負けるとしても、数が多いからその分の有利が有る。


とはいえあんまり無理はして欲しくないけど・・・それでもここで一番不安なのは二人だ。

一番心配なのはパックだけどね。メイラは最悪黒塊が居れば何とかなると思うし。


『『『『『キャー!』』』』』


真剣な表情でコクリと頷く家精霊と、元気良く鳴いて応える山精霊。

それを確認してから絨毯を広げ、未だ光が強く輝く場所へ目を向ける。

やっぱり何か起きているのは間違いないっぽいかな。


「・・・光ってるうちは、無事、だよね」


光が放たれている間は、それはフルヴァドさんも精霊殺しも健在という証拠だ。

そう思いながら絨毯を飛ばして仮面を着け、一直線に彼女の下へと向かった。


ー-----------------------------------------


「なっ!?」


フルヴァドの驚く声と同時に後ろを振り向くと、彼女が地面に飲み込まれる所だった。


その時点では既に手を出すには遅く、体の半分程度が呑まれている。

自分に対して放たれたなら兎も角、このタイミングで他人を助けるのは無理だ。

魔法自体の邪魔は出来るけど、下手を打てばフルヴァドの体が半分に千切れる。


「ちっ」


認めるのは腹が立つけど、この女相当の腕ね。今の魔法の発動は並みじゃなかった。

魔力を放って発動までの速さは私やセレスと同クラスかも。

そのせいでフルヴァドを助けられなかった事が余りにも腹立たしい。


恐らく殺されてはいない。アレは捕える為だけの魔法だ。

ただし術者本人が解除するなら兎も角、外部からの干渉は不味い。

フルヴァドが飲み込まれた場所は黒く・・・暗いと言うのが正解かしら。


作り出した空間に許可した物だけを通すから、中は光も何もない暗闇になる。

あの手の魔法は相当の技量と魔力量が無いと使えない。空間に干渉する魔法の類だもの。

ただ下手な干渉をしてしまうと、中に存在する物が壊れる可能性がある。


「さて、お嬢さん程の魔法使いなら今の状況は理解しているだろう。このまま大人しく私を見逃してくれるなら素直に彼女を返そう。悪い取引じゃないと思うけど、どうかな」

「そうね、仕方ないわね・・・なんて言うと思ってんの?」

「まさか仲間を見捨てるのかい?」

「アンタが素直に取引するとは限らないでしょ。見逃した所でアイツがそのまま殺される可能性だってあるわ。取引をするにはアンタの信用が足りないのよ」

「成程、それは困ったねぇ」


ちっとも困った風には思えない声音で呟く女は、明らかに余裕の態度を見せている。

人質を取られている以上、腹立たしいけど今は確かにコイツの方が有利だものね。

しかもあれだけの腕を持っているとなれば、そりゃ余裕をかます事も出来るでしょうよ。


でもね、だからってこっちも好き勝手にさせて堪るかっての。


「・・・おや、これはこれは・・・これでは逃げられないね」


確かに人質に取られたけど、現状はまだそれだけだ。

女が余裕をかまして語っている間に、周囲に強固な結界を張った。

ただし守る為ではなく、私達を閉じ込める為の結界を。


当然地面の中にも展開し、奴が作った空間魔法すら外に逃がさない様に。


「それにね、私を舐めんじゃないわよ。私は魔法使い。魔法を極めるアスバ・カルアの後継者。私に対処できない魔法なんて存在しないのよ!」


そして逃がさない様にさえしてしまえば、たとえどんな魔法だろうと解除して見せる。

下手な干渉をすれば不味い? 下手な干渉をしなきゃいいだけでしょうが!

多少時間をかけて良いならこの程度、私に対処できないはずが無いのよ!!


「アンタの誤算はたった一つよ! 目の前に立つのが私だった――――」

「っ!」


ニヤリと笑って女に告げると、女は驚愕の様子を見せた。

けれどそれは私の放つ魔力に驚いたからではなく。


「があっ!」


空間魔法を突き破り、光り輝く姿で現れたフルヴァドに対してだった。

そのまま空へ飛びあがり、右手には精霊殺しが握られている。


そして更に強く光を周囲に放つと、女が使っていた隠匿がかき消される。

周囲の人間達は私達を、正確にはフルヴァドの存在を強く認識した。

女はそんな周囲の様子にも驚いているのか、何をするでもなくただ状況を眺めている。


「皆、この場は捕り物で少々危険になる! 避難せよ! 近くの兵士達も避難誘導を!!」


空を飛び光り輝く聖女様の命に、住民は即座に従い避難を始める。

良く解っていない者達も兵や住民達に手を引かれ、または声をかけられ避難していく。

それを確認しているフルヴァドへ目を向けると、彼女はニッと笑顔を見せる。


だから私は少し目を瞑り、少し息を吐いてから応えてやる事にした。


「今のは私の見せ場でしょうが!!!」

「えぇ!? せめて心配ぐらいしてくれないか!?」


うっさい! ほんとアンタ達は私を素直に活躍させないわね!!


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